没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ

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選抜試験⑦

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 このままじゃ負けるだけだ。
 今の私が持てる全力を出さなければ、殿下には届かないと悟った。
 格好を気にしている場合じゃない。
 たとえ不格好でも、勝って証明するんだ。

「申し訳ありません」
「いい。それでいい。もてる全てを出して、俺に見せてみろ」
「はい!」

 どことなく彼は嬉しそうだった。
 この人も私の全力を求めている。
 ならば応えよう。
 私が持てるすべてを。

「すぅ……『リミットブレイク』」

 私は魔法が得意じゃない。
 魔力を練って流すことはできても、魔法の才能は別だ。
 どうやら私には才能がなかったらしい。
 お父様もそうだった。
 私に仕えたのは、自身に作用する補助魔法だけだった。
 そのうちの一つにして、私の奥の手。

「行きます」
「――!」
(速度が上がった?)

 私の斬撃をギリギリで殿下は受け止める。
 が、その瞬間には次の攻撃に転じていて、防御の反対側から斬り込む。
 殿下は辛うじてのけぞり、回避する。

「それが本気か!」
「はい!」

 リミットブレイク。
 肉体の限界を強制的に取り払い、身体能力を一時的に向上させる。
 効果は魔力操作の技術が高いほど強くなる。
 私とは相性がいい。
 身体能力の向上で、筋力や反射神経、動体視力の向上が得られる。
 ただし、私にとって最大の利点はそこじゃない。

「好き勝手にさせるか!」
「いいえ!」

 殿下が攻撃に転じる前に、その攻撃を潰す。
 次の攻撃も、その次も。

(読まれている?)

 脳内処理速度の加速。
 それによって、殿下の動きを極限まで観察し、予測する。
 情報が多いほど予測は正確となり、未来予知にも匹敵する制度に達する。
 今の私ではその域には達していない。
 でも、限りなく近づくことはできる。

 一撃目、下薙ぎの足狙い。
 それを回避して半歩後退し、上段に持ち替えて反撃。
 を、私が躱すと予測して、振り下ろした直後に方向を変え、そのまま首を狙ってくる。
 これも私は受けとめ、私の剣だけが届く距離まで間合いを引く。
 殿下は攻撃直後で防御は不十分。
 空いている左から首を狙えば、届く!

 予測完了。
 後は実行するのみ!

「見えています! 殿下!」
「っ……」

 押している。
 今なら届く、届かせられる!
 絶対に勝つんだ!
 私が!

「はああああああああああ!」

 予測通り首が狙える。
 勝利に手が届く。

 ガキン!

 およそ木剣ではありえない音がした。
 私の攻撃は、透明な壁に阻まれ、首に届いていない。

「――魔法の壁」

 殿下は魔法の壁を展開し、私の攻撃を防いだ。
 リミットブレイクは身体に負担がかかり、長時間持続できない。
 限界に達し、身体の力が抜ける。
 殿下がその隙を見逃すはずもなく、私の木剣を叩き落とした。

「っ……」
「勝負あり、だな」
「……参りました」
 
 膝から崩れ落ちる。
 負けた。
 届かなかった。
 今の私が持ち得る全力を見せて……。
 これで、試験は終わり。
 私は夢に届かなかった。
 現実を痛感し、涙が出そうになる。

「引き分けだ」
「え?」

 殿下は木剣を捨て、私を見下ろしながら言う。

「この勝負は引き分けだ」
「どう、して……」
「俺は魔法を使わないと言った。だが、使ってしまった。いや……お前に使わされた」

 殿下は悔しそうに語る。

「最後の一撃は、魔法を使わなければ受けられなかった。あの時点で剣士としては負けている」
「で、ですが私は魔法を使いました」
「俺は最初からそれでいいと言った。お前の全力をみせろと。悪くはない。ただ、まだまだ未熟だ。俺より弱い」
「……」

 言い返せない。
 実際、殿下は魔法も最後しか使わなかったし、透明な盾の防御だけだ。
 全力を出してはいない。
 言葉通り、自分より弱い護衛など必要ないと感じているだろう。
 勝敗どうであれ、不合格であることには……。

「だが、俺に魔法を使わせたことも事実だ。弱い奴は嫌いだが、お前には興味が湧いた」
「え――」
「一年だ。一年だけ、俺の騎士にしてやる。そこで結果を残せなければ解雇する。俺に認めさせてみろ」
「……」

 涙が、溢れてきた。
 止められなかった。
 
「おい、泣くほど嫌か?」
「違います……嬉しくて……ありがとうございます!」

 七年間の努力は、決して無駄ではなかった。
 それがわかって、嬉しくて……涙が止まらない。
 嬉しい。
 本当に……でも、まだ夢が叶ったわけじゃないから。

「頑張ります! 一年で必ず、殿下よりも強くなります!」
「ははっ、面白いな。そうあってくれ」

 私は涙をぬぐい、殿下に宣言した。

 こうして夢の第一歩を踏み出す。
 私の戦いは、ここから始まる。
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