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選抜試験⑥

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「お前は……」
「殿下よりも強いと証明します! だから私を、殿下の騎士にしてください」
「あ、あいつ……馬鹿なんじゃないか?」
「終わったな」

 周囲からは呆れられ、恐れ知らずの馬鹿者と思われている。
 関係ない。
 そんなことどうでもいい。
 周囲など気にせず、私は殿下をまっすぐ見つめる。

「お前、名前は?」
「ミスティア・ブレイブです」
「――そうか。お前が……」
「――?」

 一瞬、殿下が笑ったように見えた。

「いい度胸だ。だったら証明してみせろ」

 殿下はそう言い、近くにいた受験者から木剣を奪うと、私に切っ先を向けた。

「ここで俺と模擬戦をして、お前が勝ったら騎士にしてやる」
「本当ですか!」
「ああ、勝てたらな?」
「勝ちます! 私は、そのためにここにいるので!」

 緊張はとっくに吹っ切れている。
 ここまで来たんだ。
 相手が誰であろうと……殿下であっても、勝って証明する!

 会場の空気は変わった。
 もはや試験ではなく、私と殿下の戦いを見物するだけの場となってしまった。
 これほど大勢に見られながら戦うのは初めてだ。
 でも、まったく緊張していない。
 見ているのは、目の前の相手だけだった。

「お前、魔法は使えるのか?」
「あまり得意ではありません」
「そうか。なら俺もこれだけで戦ってやろう」
「――! 魔法を使わないおつもりですか?」

 殿下は木剣を見せつけ、剣術のみで戦う意思を示す。

「お前は使ってもいいぞ」
「……いいえ、殿下が使わないのなら、私も同じです」
「頑固な奴だな。いや、負けず嫌いか?」
「両方だと思います」

 そういうところはお父様に似たのだろう。
 お父様も、一度決めたことは決して曲げなかった。

「いつでも来い。お前の力を見せてみろ」
「はい!」
 
 私は木剣を構える。
 対する殿下の構えは自然体で、切っ先も地面に向けたまま佇んでいた。
 おおよそ隙だらけに見える。
 けど、私の直感が警報を鳴らしていた。
 無暗に跳びこめば、一瞬で終わってしまうと。

「どうした? こないのか?」
「いえ、行きます!」

 やることは同じだ。
 自分が有利になる間合いまで詰めて、それを保って戦う。
 殿下の木剣は通常の長さ。
 慎重さを考慮しても、ラントさんを相手にしている時に近い。
 距離を保ち、一方的に攻める!

「へぇ、面白い戦い方をするな」

 私の攻撃を、殿下はすべて往なしていた。
 明らかに様子見をしている。
 攻める気がない。
 ならば私も、攻めながら殿下の動きを見極めよう。

「うん、もう慣れた」
「――!」

 攻撃の瞬間、殿下は会えて間合いを詰めて来た。
 私の横薙ぎを頭を下げて躱す。

(まさかもう――!)

 殿下は私の戦い方を学習した。
 間合いを完全に見切り、懐に潜り込んで、至近距離での攻防に持っていく。

「っ……」
「長物はリーチの利点はあるが、その分詰められると弱い」

 その通りだ。
 私と殿下で、拳一個分ほど間合いに差がある。
 これは私にとって大きなアドバンテージだけど、同時にハンデにもなり得る。
 距離を詰められるとリーチの差を活かせない。
 離れようと後退するが、殿下は離れない。

「逃がさないぞ」
「っ、だったら!」
 
 私は木剣を左手に持ち替え、空いた右手で殿下の胸に打撃を打つ。
 至近距離の戦闘に持ち込まれた場合の対策。
 剣術ではなく、体術で応戦する。
 殿下は私の打撃を手で受け止めていた。

「打撃もいけるか!」
「打つのも投げるのも得意です!」

 木剣で木剣を抑え、右手で殿下の左手首を掴む。
 そのまま重心移動と捻りで殿下のバランスを崩させる。
 姿勢が崩れて頭が下がったら、今度は側面から回し蹴りを放った。

「やるな」
「――!」

 突然、殿下の頭が下がった。
 膝抜きで一気に姿勢を下げたんだ。
 そのまま逆に私の腕を掴み、同じ要領で投げる。

「わっ!」

 宙に舞う身体。
 私は空中で身体を捻り、殿下の刺突を躱し、着地と同時に木剣を構え直す。

「地味だがいい動きだ。よく見ている。目がいいんだな」
「はぁ、はぁ……ありがとうございます!」

 たった数十秒の攻防でこの疲労感。
 一瞬でも気を抜けば、私は負ける。
 これが大天才の力……ラントさんよりも強い。
 このまま戦っても……。

 敗北。

「……すみません、殿下! さっきの話は忘れてください」
「何の話だ?」
「私は魔法を使います」
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