勇者惨敗は私(鍛冶師)の責任だからクビって本気!? ~サービス残業、休日出勤、日々のパワハラに耐え続けて限界! もう自分の鍛冶屋を始めます~

日之影ソラ

文字の大きさ
上 下
9 / 9

9

しおりを挟む
「一人も来ていない? 本当かい?」
「はい。まだ一人も」
「もう一週間だぞ? そろそろ次の遠征が始まるというのに……」

 時間が経過しても、一考に応募者は現れない。
 他の鍛冶師に仕事を頼もうにも、すでにいっぱいいっぱいだと報告を受けている。
 しびれを切らしたエレインは、自らの足で鍛冶師を探すことにした。
 向かったのは王都で最も有名な武器屋。
 鍛冶場も併設され、何人もの優秀な鍛冶師が働いている。

「すまない、少しいいか?」
「ん? あんた……勇者様? どうしてここに?」
「君は鍛冶師だな? ちょうどいい、宮廷で働く鍛冶師を募集しているんだ。興味はないか?」
「宮廷で! それは光栄な話ですね」

 鍛冶師は早々に食いつく。
 宮廷で働くことは名誉なことだ。
 街で働くよりも高級で、さらには地位も得られる。
 最高の話に、食いつかない者はいない。
 エレインはニヤリと笑みを浮かべ、募集要項を見せる。

「興味があるか。ならばこれが条件だ」
「はい。えっ……と」

 鍛冶師の表情が曇る。
 先ほどまでの元気は消え、困惑の色に染まる。

「どうかしたか?」
「……勇者様、この内容じゃ無理ですよ」
「なんだと? なにがダメだ? 金が足りないというのか?」
「そうじゃなくて! 聖剣の製造と打ち直しができること? こんなもん鍛冶師ができるわけないでしょ!」
「なっ……」

 エレインは理解できずに固まる。
 できない?
 そんなはずはない。
 なぜならずっと……。

「前の鍛冶師はやっていたんだぞ!」 
「は? そんな奴いるわけない! いるとすれば間違いなく大天才! この国……いや世界で一番の鍛冶師ですよ! その人は!」
「――!」
 
 勇者エレインは知らなかった。
 聖剣を作り、打ち直す。
 それを当たり前にやっていたソフィアが、異常な才能の持ち主だったことを。
 普通の鍛冶師に聖剣は作れない。
 優れた鍛冶師であっても、聖剣を打ち直すなど不可能。
 魔剣、妖刀……そういった類の武器は、選ばれた者にしか作れない。
 中でも聖剣とは神の加護を受けし一振り。
 作れるとすれば神だけ……だった。
 
 そう、彼女はありえないことをしていた。
 当たり前のように。

「悪いことは言わないですから、その前の鍛冶師って人にお願いしてください。こんな条件……どれだけ大金を積まれても無理です。誰も引き受けるわけないでしょ」
「くっ……馬鹿な」

 ありえない。
 そんなはずはない。
 彼女が選ばれし存在……だったなど、認められない。
 もしそうなら、自分の非を認めることに等しい。
 故に勇者エレインは否定する。
 自分は悪くない。
 悪いのはソフィアだと。

 だが、現実は正直だった。

 これより先、彼が勇者として戦える時間は有限になった。
 聖剣は打ち直せない。
 新たに作ることもできない。
 聖剣を持たぬ勇者など、勇者とは呼べない。
 果たして彼は、いつまで勇者を名乗れるのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢(濡れ衣)は怒ったお兄ちゃんが一番怖い

下菊みこと
恋愛
お兄ちゃん大暴走。 小説家になろう様でも投稿しています。

王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。 守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。 だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。 それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。

国護りの力を持っていましたが、王子は私を嫌っているみたいです

四季
恋愛
南から逃げてきたアネイシアは、『国護りの力』と呼ばれている特殊な力が宿っていると告げられ、丁重にもてなされることとなる。そして、国王が決めた相手である王子ザルベーと婚約したのだが、国王が亡くなってしまって……。

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

王子の呪術を解除したら婚約破棄されましたが、また呪われた話。聞く?

十条沙良
恋愛
呪いを解いた途端に用済みだと婚約破棄されたんだって。ヒドクない?

お妃様に魔力を奪われ城から追い出された魔法使いですが…愚か者達と縁が切れて幸せです。

coco
恋愛
妃に逆恨みされ、魔力を奪われ城から追い出された魔法使いの私。 でも…それによって愚か者達と縁が切れ、私は清々してます─!

聖女がいなくなった時……

四季
恋愛
国守りの娘と認定されたマレイ・クルトンは、十八を迎えた春、隣国の第一王子と婚約することになった。 しかし、いざ彼の国へ行くと、失礼な対応ばかりで……。

処理中です...