8 / 9
8
しおりを挟む
領主様との出会いから五日後。
「ほ、ホントに……」
あたしの店が完成した。
元は道具屋さんだった店舗の改装して、鍛冶場と武器屋をセットにしてもらった。
建物は領主様が用意してくれて、鍛冶場の工事も領主様が人を集めてくれた。
ほとんど全て、領主様が準備してくれたもので成り立っている。
「よかったんですか?」
「ん?」
「こんなにしてもらって、やっぱり店舗分のお金は払います!」
「いやいいって。これは俺からのプレゼントだ。どうせ使ってなかったしな」
鍛冶場を作る工事費用は私が出した。
それ以外にかかったお金は、領主様が必要ないと言ってくれている。
おかげで貯金もまだ半分残っている。
有難いけど、心苦しくもある。
「でも……」
「いいんだよ。今まで国を守ってくれた恩返しだ。これでも足りないくらいだぞ?」
「そんなことは! 私はただ、聖剣を管理していただけですから」
「君がそうしなければ勇者は戦えない。勇者が戦えたのは君のおかげだ。直接的じゃなくても、君は国を守っていた英雄だと俺は思うよ」
「英雄……」
それは、勇者エレンから言われた言葉とは真逆。
私のせいで負けた。
私が未熟だから、勇者が勝てない。
そう言われてクビになり、たどり着いた先で出会った領主様は、私のおかげだと言ってくれる。
この温かさはなんだろう?
胸が熱くなって、全身がポカポカしてくるような……。
「それに、この店が出来て繁盛して、街の活気に繋がれば俺も嬉しい。領主として、みんなが楽しく幸せに生活できることが何よりだからな。もちろん、これからは君も入っているぞ」
「……あの!」
今、心から思えることがある。
鍛冶師になって、働き続けて……一度も思えなかったことを。
「頑張ります! あたし、この街で頑張ってみます!」
「ああ、期待してるよ」
こうして、新天地で鍛冶師として再スタートする。
自分でお店をするなんて初めてだ。
大変なことはわかっている。
それでもきっと、この選択は間違っていない。
◇◇◇
「まったく、なんだんだあれは!」
「もういいじゃありませんか」
「だがあの態度と言い分! 僕や君への暴言は許しがたいことだ」
「単なる負け惜しみですわ」
鍛冶師ソフィアが宮廷を出た後、勇者エレインは激怒していた。
彼女にさんざん言われた時は圧倒されていた彼も、いなくなって落ち着き、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。
「負けたのは僕のせいだと……ふざけるな」
「ええ、悪いのは彼女です。エレイン様は完璧な勇者ですもの」
「その通りだ。やはり君は僕のことをわかってくれているね」
「当然です。婚約者ですのも」
二人はべたつく。
責任転嫁した勇者を肯定し、甘やかす。
今の勇者を作ったのは、彼女の甘さも原因の一つだろう。
「それでエレイン様、新しい鍛冶師は雇われますか?」
「そうだな。一人欠員が出たんだ。とりあえず一人募集すればいいだろう」
「わかりました。それでは募集のほうをかけさせていただきます」
「ああ、頼むよ。彼女よりも優秀な人材なんてたくさんいる。すぐに見つかるだろう」
エレインは心からそう思っていた。
が、現実は違う。
一週間後――
「ほ、ホントに……」
あたしの店が完成した。
元は道具屋さんだった店舗の改装して、鍛冶場と武器屋をセットにしてもらった。
建物は領主様が用意してくれて、鍛冶場の工事も領主様が人を集めてくれた。
ほとんど全て、領主様が準備してくれたもので成り立っている。
「よかったんですか?」
「ん?」
「こんなにしてもらって、やっぱり店舗分のお金は払います!」
「いやいいって。これは俺からのプレゼントだ。どうせ使ってなかったしな」
鍛冶場を作る工事費用は私が出した。
それ以外にかかったお金は、領主様が必要ないと言ってくれている。
おかげで貯金もまだ半分残っている。
有難いけど、心苦しくもある。
「でも……」
「いいんだよ。今まで国を守ってくれた恩返しだ。これでも足りないくらいだぞ?」
「そんなことは! 私はただ、聖剣を管理していただけですから」
「君がそうしなければ勇者は戦えない。勇者が戦えたのは君のおかげだ。直接的じゃなくても、君は国を守っていた英雄だと俺は思うよ」
「英雄……」
それは、勇者エレンから言われた言葉とは真逆。
私のせいで負けた。
私が未熟だから、勇者が勝てない。
そう言われてクビになり、たどり着いた先で出会った領主様は、私のおかげだと言ってくれる。
この温かさはなんだろう?
胸が熱くなって、全身がポカポカしてくるような……。
「それに、この店が出来て繁盛して、街の活気に繋がれば俺も嬉しい。領主として、みんなが楽しく幸せに生活できることが何よりだからな。もちろん、これからは君も入っているぞ」
「……あの!」
今、心から思えることがある。
鍛冶師になって、働き続けて……一度も思えなかったことを。
「頑張ります! あたし、この街で頑張ってみます!」
「ああ、期待してるよ」
こうして、新天地で鍛冶師として再スタートする。
自分でお店をするなんて初めてだ。
大変なことはわかっている。
それでもきっと、この選択は間違っていない。
◇◇◇
「まったく、なんだんだあれは!」
「もういいじゃありませんか」
「だがあの態度と言い分! 僕や君への暴言は許しがたいことだ」
「単なる負け惜しみですわ」
鍛冶師ソフィアが宮廷を出た後、勇者エレインは激怒していた。
彼女にさんざん言われた時は圧倒されていた彼も、いなくなって落ち着き、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。
「負けたのは僕のせいだと……ふざけるな」
「ええ、悪いのは彼女です。エレイン様は完璧な勇者ですもの」
「その通りだ。やはり君は僕のことをわかってくれているね」
「当然です。婚約者ですのも」
二人はべたつく。
責任転嫁した勇者を肯定し、甘やかす。
今の勇者を作ったのは、彼女の甘さも原因の一つだろう。
「それでエレイン様、新しい鍛冶師は雇われますか?」
「そうだな。一人欠員が出たんだ。とりあえず一人募集すればいいだろう」
「わかりました。それでは募集のほうをかけさせていただきます」
「ああ、頼むよ。彼女よりも優秀な人材なんてたくさんいる。すぐに見つかるだろう」
エレインは心からそう思っていた。
が、現実は違う。
一週間後――
1
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。
守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。
だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。
それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。
孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます
天宮有
恋愛
聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。
それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。
公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。
島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。
その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。
私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。
男子から聖女と言われている同級生に彼氏を奪われた。その後、彼氏が・・・
ほったげな
恋愛
私には婚約もしている彼氏がいる。しかし、男子からは聖女と言われ、女子からは嫌われている同級生に彼氏と奪われてしまった。婚約破棄して、彼のことは忘れたのだが、彼氏の友人とばったり会ってしまう。その友人が話す彼氏の近況が衝撃的で……!?
守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!
蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。
しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。
だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。
国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。
一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。
※カクヨムさまにも投稿しています
辺境伯は王女から婚約破棄される
高坂ナツキ
恋愛
「ハリス・ワイマール、貴男との婚約をここに破棄いたしますわ」
会場中にラライザ王国第一王女であるエリス・ラライザの宣言が響く。
王宮の大ホールで行われている高等学校の卒業記念パーティーには高等学校の卒業生やその婚約者、あるいは既に在学中に婚姻を済ませている伴侶が集まっていた。
彼らの大半はこれから領地に戻ったり王宮に仕官する見習いのために爵位を継いではいない状態、つまりは親の癪の優劣以外にはまだ地位の上下が明確にはなっていないものばかりだ。
だからこそ、第一王女という絶大な権力を有するエリスを止められるものはいなかった。
婚約破棄の宣言から始まる物語。
ただし、婚約の破棄を宣言したのは王子ではなく王女。
辺境伯領の田舎者とは結婚したくないと相手を罵る。
だが、辺境伯側にも言い分はあって……。
男性側からの婚約破棄物はよく目にするが、女性側からのはあまり見ない。
それだけを原動力にした作品。
王太子に求婚された公爵令嬢は、嫉妬した義姉の手先に襲われ顔を焼かれる
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『目には目を歯には歯を』
プランケット公爵家の令嬢ユルシュルは王太子から求婚された。公爵だった父を亡くし、王妹だった母がゴーエル男爵を配偶者に迎えて女公爵になった事で、プランケット公爵家の家中はとても混乱していた。家中を纏め公爵家を守るためには、自分の恋心を抑え込んで王太子の求婚を受けるしかなかった。だが求婚された王宮での舞踏会から公爵邸に戻ろうとしたユルシュル、徒党を組んで襲うモノ達が現れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる