4 / 9
4
しおりを挟む
思えば私の人生は、最初から不幸続きだった。
生まれてすぐに両親を失い、預かってくれた祖父母も病気で亡くなり。
孤児になった私を、先代の宮廷鍛冶師だった師匠が拾ってくれた。
私には鍛冶師としての才能があったこと。
そんな私を見つけて、弟子にしてくれた師匠には感謝している。
鍛冶師になれたことは私にとって唯一の幸福だっただろう。
だけど、二年前に師匠が突然いなくなった。
訳も話さず、どこかへ消えた。
残された私が後を継ぎ、宮廷鍛冶師になってからは、毎日が地獄のようだった。
職場の同僚や上司からは、平民上がりの癖に生意気だと罵られ、一人じゃ終わらない量の仕事を押し付けられた。
毎日サービス残業は当たり前、休日出勤してもギリギリ。
それでも、行き場のない私が生きるためには、ここで頑張って働くしかない。
ずっと耐えてきた。
覚えのない失敗を押し付けられ、注意されて、お給料を下げられたこともある。
必死に頑張って、歯を食いしばって仕事を続けた結果がこれ……?
「は、はは……」
笑ってしまう。
悲しさは感じるけど、それ以上に呆れて涙もでない。
こんなものかと。
宮廷鍛冶師として相応しい振る舞いをするため、苦手な敬語や礼儀作法も勉強して身に着けた。
毎日煤まみれになりながら、病気になっても休まず働き続けた。
それなのに……報われない。
子供みたいな言い訳しかできない勇者と、平民の私が気に入らないという理由で嫌がらせをする王女様。
こんな人たちが、この国のトップにいる。
信じられない。
呆れを通り越して、ふつふつと怒りがこみ上げる。
「あーそう、じゃあもういいよ」
「ん?」
「ソフィアさん?」
どうせ私はクビになったんだ。
だったらもう、変に取り繕ったり頑張る必要はないよな?
いい機会だしハッキリ言おう。
「こんな職場、こっちから願い下げだっての!」
私は叫んだ。
鍛冶場に、その外にも響くような大声で。
二人は驚きビクッと身体を震わせる。
「負けたのは私のせい? 馬鹿かよあんた! 聖剣の力も発揮できないのは自分が弱いからだろ! それを人のせいにして……恥ずかしくないの? このへなちょこ勇者!」
「へ、へなちょこ……」
「平民のこと見下してるけどさ! あんたより平民のほうがよっぽど国に貢献してるよ! このお飾り王女!」
「おか、ざり……」
感情に任せて、今まで言えなかったことを暴露する。
ずっと思っていた。
心の中で怒りと共に蓄えられた言葉が、感情が爆発する。
二人とも予想外だっただろう。
もっと傷心すると思っていたのだろう。
残念だったな。
私はそこまで、宮廷という地位にも場所にも思い入れはないんだ。
むしろせいせいしている。
今日からもう、馬鹿みたいに大量の仕事を熟す必要もない。
睡眠時間を削る必要も、悪くもないのに謝る必要もない。
地獄のような環境から堂々と脱出できる。
悪いことより良いことの多いんじゃないの?
「今までお世話になりました。あたしはもう宮廷鍛冶師じゃないんで、残ってる仕事は他でやってください。新しく雇うことをお勧めしますよ」
私一人でも手に負えなかった仕事量だ。
宮廷鍛冶師の人員は少なく、私を含めて三人しかいなかった。
他二人も手いっぱいだろうし、新しく雇わないと回らない。
もっとも、見合う条件の人材がいれば……の話だけど。
「それじゃ……さよなら」
唖然とする二人を背にして、私は鍛冶場を出た。
宮廷鍛冶師ではなくなり、ただの一般人に戻ることになった。
職を失ったというのに、気分は晴れやかだ。
言いたいことも言えたし満足している。
「はぁースッキリした」
外に出る。
見合えた青空は雲一つなく、とても澄んでいた。
生まれてすぐに両親を失い、預かってくれた祖父母も病気で亡くなり。
孤児になった私を、先代の宮廷鍛冶師だった師匠が拾ってくれた。
私には鍛冶師としての才能があったこと。
そんな私を見つけて、弟子にしてくれた師匠には感謝している。
鍛冶師になれたことは私にとって唯一の幸福だっただろう。
だけど、二年前に師匠が突然いなくなった。
訳も話さず、どこかへ消えた。
残された私が後を継ぎ、宮廷鍛冶師になってからは、毎日が地獄のようだった。
職場の同僚や上司からは、平民上がりの癖に生意気だと罵られ、一人じゃ終わらない量の仕事を押し付けられた。
毎日サービス残業は当たり前、休日出勤してもギリギリ。
それでも、行き場のない私が生きるためには、ここで頑張って働くしかない。
ずっと耐えてきた。
覚えのない失敗を押し付けられ、注意されて、お給料を下げられたこともある。
必死に頑張って、歯を食いしばって仕事を続けた結果がこれ……?
「は、はは……」
笑ってしまう。
悲しさは感じるけど、それ以上に呆れて涙もでない。
こんなものかと。
宮廷鍛冶師として相応しい振る舞いをするため、苦手な敬語や礼儀作法も勉強して身に着けた。
毎日煤まみれになりながら、病気になっても休まず働き続けた。
それなのに……報われない。
子供みたいな言い訳しかできない勇者と、平民の私が気に入らないという理由で嫌がらせをする王女様。
こんな人たちが、この国のトップにいる。
信じられない。
呆れを通り越して、ふつふつと怒りがこみ上げる。
「あーそう、じゃあもういいよ」
「ん?」
「ソフィアさん?」
どうせ私はクビになったんだ。
だったらもう、変に取り繕ったり頑張る必要はないよな?
いい機会だしハッキリ言おう。
「こんな職場、こっちから願い下げだっての!」
私は叫んだ。
鍛冶場に、その外にも響くような大声で。
二人は驚きビクッと身体を震わせる。
「負けたのは私のせい? 馬鹿かよあんた! 聖剣の力も発揮できないのは自分が弱いからだろ! それを人のせいにして……恥ずかしくないの? このへなちょこ勇者!」
「へ、へなちょこ……」
「平民のこと見下してるけどさ! あんたより平民のほうがよっぽど国に貢献してるよ! このお飾り王女!」
「おか、ざり……」
感情に任せて、今まで言えなかったことを暴露する。
ずっと思っていた。
心の中で怒りと共に蓄えられた言葉が、感情が爆発する。
二人とも予想外だっただろう。
もっと傷心すると思っていたのだろう。
残念だったな。
私はそこまで、宮廷という地位にも場所にも思い入れはないんだ。
むしろせいせいしている。
今日からもう、馬鹿みたいに大量の仕事を熟す必要もない。
睡眠時間を削る必要も、悪くもないのに謝る必要もない。
地獄のような環境から堂々と脱出できる。
悪いことより良いことの多いんじゃないの?
「今までお世話になりました。あたしはもう宮廷鍛冶師じゃないんで、残ってる仕事は他でやってください。新しく雇うことをお勧めしますよ」
私一人でも手に負えなかった仕事量だ。
宮廷鍛冶師の人員は少なく、私を含めて三人しかいなかった。
他二人も手いっぱいだろうし、新しく雇わないと回らない。
もっとも、見合う条件の人材がいれば……の話だけど。
「それじゃ……さよなら」
唖然とする二人を背にして、私は鍛冶場を出た。
宮廷鍛冶師ではなくなり、ただの一般人に戻ることになった。
職を失ったというのに、気分は晴れやかだ。
言いたいことも言えたし満足している。
「はぁースッキリした」
外に出る。
見合えた青空は雲一つなく、とても澄んでいた。
2
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。
守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。
だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。
それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。
孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます
天宮有
恋愛
聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。
それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。
公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。
島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。
その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。
私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。
男子から聖女と言われている同級生に彼氏を奪われた。その後、彼氏が・・・
ほったげな
恋愛
私には婚約もしている彼氏がいる。しかし、男子からは聖女と言われ、女子からは嫌われている同級生に彼氏と奪われてしまった。婚約破棄して、彼のことは忘れたのだが、彼氏の友人とばったり会ってしまう。その友人が話す彼氏の近況が衝撃的で……!?
守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!
蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。
しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。
だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。
国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。
一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。
※カクヨムさまにも投稿しています
辺境伯は王女から婚約破棄される
高坂ナツキ
恋愛
「ハリス・ワイマール、貴男との婚約をここに破棄いたしますわ」
会場中にラライザ王国第一王女であるエリス・ラライザの宣言が響く。
王宮の大ホールで行われている高等学校の卒業記念パーティーには高等学校の卒業生やその婚約者、あるいは既に在学中に婚姻を済ませている伴侶が集まっていた。
彼らの大半はこれから領地に戻ったり王宮に仕官する見習いのために爵位を継いではいない状態、つまりは親の癪の優劣以外にはまだ地位の上下が明確にはなっていないものばかりだ。
だからこそ、第一王女という絶大な権力を有するエリスを止められるものはいなかった。
婚約破棄の宣言から始まる物語。
ただし、婚約の破棄を宣言したのは王子ではなく王女。
辺境伯領の田舎者とは結婚したくないと相手を罵る。
だが、辺境伯側にも言い分はあって……。
男性側からの婚約破棄物はよく目にするが、女性側からのはあまり見ない。
それだけを原動力にした作品。
王太子に求婚された公爵令嬢は、嫉妬した義姉の手先に襲われ顔を焼かれる
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『目には目を歯には歯を』
プランケット公爵家の令嬢ユルシュルは王太子から求婚された。公爵だった父を亡くし、王妹だった母がゴーエル男爵を配偶者に迎えて女公爵になった事で、プランケット公爵家の家中はとても混乱していた。家中を纏め公爵家を守るためには、自分の恋心を抑え込んで王太子の求婚を受けるしかなかった。だが求婚された王宮での舞踏会から公爵邸に戻ろうとしたユルシュル、徒党を組んで襲うモノ達が現れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる