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 理解が追いつかない。
 訳の分からないことを言う人だけど、今回は特に意味不明だった。
 私は困惑しながら、エレイン様に尋ねる。

「えっと……ここを出たら仕事ができないのですが……」
「その必要がないと言っているんだ。まだ意味が理解できていないのかな?」
「それは……」
「宮廷鍛冶師ソフィア! 本日をもって、宮廷付きの任を解く! つまり、君はクビになったんだ」

 偉そうにエレイン様は私に宣言した。
 
 クビ?
 私が……クビになった?

「ど、どういうことですか?」
「当然だろう? 僕が敗北する原因を作ったんだ。その責任をとってもらわないとね」
「責任って……」

 自分が負けた責任を私に押し付けて、あげく宮廷から追い出そうとしているの?
 何を考えているんだこの人は。
 そんなことをして、この先誰が聖剣の調整をするの?
 山ほどある仕事だって残っているんだよ?

「さぁ、早く出て行ってもらおうか?」
「お、お言葉ですがエレイン様、それはできません」
「なんだと?」
「私は宮廷に所属する鍛冶師です。その任命権はエレン様ではなく、陛下や王族の方々にあります。いくら勇者とはいえ、エレン様のご意志で解雇など――」

 できない。
 そう言い切ろうとした時、エレイン様はニヤリと笑みを浮かべた。
 得意げに、嬉しそうに。
 その表情を見て、私は言葉を詰まらせる。

「君はやはり愚かだね。これが僕一人の決定だと本気で思っているのかい?」
「な、何を……」
「そんなわけないじゃないか! これは僕の決定じゃない! 僕たちが二人で決めたことだよ!」
「二人……」

 まさか……。
 私の頭には、とある人物の顔が過る。
 答え合わせはすぐ終わる。
 カランカランと鍛冶場の扉がベルを鳴らし、ゆっくりと開く。
 そこに立っていたのは、私が思い浮かべた人物。
 ビクトリア王国第一王女――

「エレナ王女殿下……」
「こんにちは、宮廷鍛冶師ソフィアさん。いえ……もう元、宮廷鍛冶師でしたね」

 彼女は笑う。
 第一王女エレナ・ビクトリア。
 彼女は、勇者であるエレイン様の婚約者だった。
 王族である彼女の意志があれば、宮廷付きの一人や二人を解雇することは容易だろう。
 頭の中で全ての点が繋がる。
 これはエレイン様の一時的な発散ではなくて、正式な決定であると。

 私は……。

「クビ……」
「ようやく理解したようだね」
「ふふっ」
 
 エレナ王女はエレイン様の隣に行き、エレイン様は彼女の肩に腕を回す。
 愛し合う二人は目の前でベタベタとイチャつく。
 これまで何度も見せられた光景だが、今日は特にきつい。
 見ていられない。

「すまないねエレナ、こんな汚い場所に呼びつけて」
「まったくですわ。煤まみれで汚い……私やエレイン様には似合わない場所です」
「そうだね。こんな場所が似合うとしたら……ふっ、ある意味では相応しい場所だったようだ」
「ええ、平民にはピッタリですね」

 二人は私を見ながらあざ笑う。
 仕事に疲れ、全身煤まみれで、汗をぬぐった頬が黒く汚れている。
 壁に立てかけられた鏡には、綺麗な姿の二人と、汚れた私が映っていた。
 わかりやすい対比だ。
 幸せそうな二人と、不幸せな私……。
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