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第二章
24.闇オークション
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赤くなった頬をさする。
「ビンタって結構痛いんだなぁ」
「癖になってしまいそうか? ワシもしてやろうか?」
「やめてくれ。俺を特殊な変態にするな」
「……なんなんだよ……あんたら」
少年……もとい、少女のラナも一緒にいる。
頬をさする俺の隣で、おかしなものを見るような目でこちらを見ていた。
意図せずして彼女の警戒が薄れてくれたらしい。
案外こうやって間抜けなところを見せるほうが、他人に安心感を与えられるみたいだ。
「ごめんな? 女の子だと気づかなくて……」
「べ、別に気にしてないから」
そう言いつつもしっかり胸を隠している辺り、彼女の女の子らしさが伝わる。
こうして見ると……確かに女の子だ。
「なんで気付かなかったんだ……」
「主は鈍感が過ぎるぞ。デリカシーも足らん」
「返す言葉もない」
まったくその通りだ。
魔王に説教される日が来るとは……。
「……なんで」
「ん?」
ラナが絞り出すような小さな声で言う。
「なんで、そんなに助けたいって言うんだ」
まだ、疑っている。
だけど少しだけ、俺たちに歩み寄ろうとしている。
「さっき会ったばっかだろ。友達でも家族でもないのに、なんでそんなに……」
他人は信じない。
それは彼女の本心に違いない。
ただ、人間はそう単純じゃない。
信じないと誓っても、信じたくなってしまう。
苦しくて、どうしようもないとき、僅かでも光が見えたなら。
彼女は今、俺たちに光を見ているんだと思う。
「どうしてって聞かれると……なんでだろうな? そういう性分だからとしか言えない」
「性分」
「物好きな大馬鹿者ということじゃよ」
「ひどい言い方だな」
けど、たぶんその通りだ。
俺は自分が偽善者だと知っている。
勇者とは、善悪の区別なく人を助ける者のことを言う。
かつて俺はそういう存在だった。
疑問を感じ、勇者でなくなった今でも、あの頃の感覚は鮮明に残っている。
俺は今も、他人を助けずにはいられない。
身体が勝手に動いてしまう。
理屈を考えるより、感情が先行する。
「だからもっともらしい理由は出てこないよ。申し訳ないけど」
「……意味わかんない」
「わからんでよい。この男の考えがわかるようになったら、お前さんも勇者にならんといけなくなるぞ?」
「勇者?」
ラナはキョトンとした顔で俺を見る。
俺は優しく笑い、彼女の頭を撫でる。
「おすすめしないぞ。勇者は大変だからな」
「ワシも子供相手はちと気が引ける」
「魔王がよく言う」
「主こそ。今の発言、民衆が聞けばガッカリするぞ」
「構わないさ。俺はもう違うからな」
俺はその場で大きく背伸びをする。
アスタロトも、自身の魔力の流れを確かめる。
「ラナ、案内してくれるか?」
「え?」
「助けたい奴がいるんだろ?」
「――! 一緒に……来てくれるのか?」
彼女の手は、俺たちが伸ばした希望を求めて伸びる。
信じたくない。
けれど、信じてしまいたいという葛藤。
その先の、助けたいという気持ちが溢れ出て。
「ああ、オレたちに任せろ」
「ワシら解決できん問題はないわい」
今度は俺から手を差し出す。
一緒に行こうと、誘う。
「……うん」
彼女はその手をとった。
希望と共に。
◇◇◇
薄暗くてジメジメした部屋。
私以外に誰もいない。
一緒に集められているのは、高そうな飾りとか、いろいろ。
私は一人、檻の中に閉じ込められていた。
ぎーっと扉が開く。
久々に感じた眩しさに目を細める。
「ほら、飯だ」
がらんと乱雑に置かれた更に、一つのパンがある。
私のご飯はこれだけ。
毎日、お腹がぐーぐー鳴る。
でも、一番つらいのは空腹より、一人でいることだった。
「あ、あの……お姉ちゃんは……」
「知るかよ。あのガキ、手間取らせやがって」
ということは、お姉ちゃんはまだ捕まってないんだ。
よかった。
せめてお姉ちゃんだけでも逃げられたのなら……。
「寂しいか? 安心しろ、すぐ会わせてやる」
「え?」
「お前のオークション日が決まった。今日、これからだ。嫌でもあのガキは助けにくるだろうぜ~ いいショーになりそうだ」
「そんな……」
男の人は笑いながら去っていく。
部屋を閉め、また真っ暗になった。
私は一人で丸まる。
「お姉ちゃん……」
会いたい。
でも、来ちゃ駄目だよ。
◇◇◇
「オークション? それに双子の妹が出品されってことか」
「うん。オレも商品だったけど、上手く逃げられた。本当は一緒に逃げたかったけどできなくて……」
目的地に速足で向かいながら話を聞く。
どうやらラナとその妹は、闇オークションの商品として売られそうになっていたらしい。
目的は彼女たちがもつ特別な眼だ。
姉のラナの右目と、妹の左目には魔眼が宿っているそうだ。
「人を物として売り出す……外道だな」
「まったく、魔族と大差ないのう。問題なのは種族ではなく、その個人の愚かさか」
「ああ」
つくづく腹立たしい。
そんな奴らのために、俺たちは命をかけて戦ったわけじゃないのに。
「苛立っておるのう」
「ああ」
「なればその苛立ち、奴らにぶつければよい。正当な権利じゃろ?」
「正当かどうかは知らないけど、それも悪くないな」
人間だろうと関係ない。
悪に手を染めたなら、俺たちの敵ならば。
そのオークションを叩き潰す。
「ビンタって結構痛いんだなぁ」
「癖になってしまいそうか? ワシもしてやろうか?」
「やめてくれ。俺を特殊な変態にするな」
「……なんなんだよ……あんたら」
少年……もとい、少女のラナも一緒にいる。
頬をさする俺の隣で、おかしなものを見るような目でこちらを見ていた。
意図せずして彼女の警戒が薄れてくれたらしい。
案外こうやって間抜けなところを見せるほうが、他人に安心感を与えられるみたいだ。
「ごめんな? 女の子だと気づかなくて……」
「べ、別に気にしてないから」
そう言いつつもしっかり胸を隠している辺り、彼女の女の子らしさが伝わる。
こうして見ると……確かに女の子だ。
「なんで気付かなかったんだ……」
「主は鈍感が過ぎるぞ。デリカシーも足らん」
「返す言葉もない」
まったくその通りだ。
魔王に説教される日が来るとは……。
「……なんで」
「ん?」
ラナが絞り出すような小さな声で言う。
「なんで、そんなに助けたいって言うんだ」
まだ、疑っている。
だけど少しだけ、俺たちに歩み寄ろうとしている。
「さっき会ったばっかだろ。友達でも家族でもないのに、なんでそんなに……」
他人は信じない。
それは彼女の本心に違いない。
ただ、人間はそう単純じゃない。
信じないと誓っても、信じたくなってしまう。
苦しくて、どうしようもないとき、僅かでも光が見えたなら。
彼女は今、俺たちに光を見ているんだと思う。
「どうしてって聞かれると……なんでだろうな? そういう性分だからとしか言えない」
「性分」
「物好きな大馬鹿者ということじゃよ」
「ひどい言い方だな」
けど、たぶんその通りだ。
俺は自分が偽善者だと知っている。
勇者とは、善悪の区別なく人を助ける者のことを言う。
かつて俺はそういう存在だった。
疑問を感じ、勇者でなくなった今でも、あの頃の感覚は鮮明に残っている。
俺は今も、他人を助けずにはいられない。
身体が勝手に動いてしまう。
理屈を考えるより、感情が先行する。
「だからもっともらしい理由は出てこないよ。申し訳ないけど」
「……意味わかんない」
「わからんでよい。この男の考えがわかるようになったら、お前さんも勇者にならんといけなくなるぞ?」
「勇者?」
ラナはキョトンとした顔で俺を見る。
俺は優しく笑い、彼女の頭を撫でる。
「おすすめしないぞ。勇者は大変だからな」
「ワシも子供相手はちと気が引ける」
「魔王がよく言う」
「主こそ。今の発言、民衆が聞けばガッカリするぞ」
「構わないさ。俺はもう違うからな」
俺はその場で大きく背伸びをする。
アスタロトも、自身の魔力の流れを確かめる。
「ラナ、案内してくれるか?」
「え?」
「助けたい奴がいるんだろ?」
「――! 一緒に……来てくれるのか?」
彼女の手は、俺たちが伸ばした希望を求めて伸びる。
信じたくない。
けれど、信じてしまいたいという葛藤。
その先の、助けたいという気持ちが溢れ出て。
「ああ、オレたちに任せろ」
「ワシら解決できん問題はないわい」
今度は俺から手を差し出す。
一緒に行こうと、誘う。
「……うん」
彼女はその手をとった。
希望と共に。
◇◇◇
薄暗くてジメジメした部屋。
私以外に誰もいない。
一緒に集められているのは、高そうな飾りとか、いろいろ。
私は一人、檻の中に閉じ込められていた。
ぎーっと扉が開く。
久々に感じた眩しさに目を細める。
「ほら、飯だ」
がらんと乱雑に置かれた更に、一つのパンがある。
私のご飯はこれだけ。
毎日、お腹がぐーぐー鳴る。
でも、一番つらいのは空腹より、一人でいることだった。
「あ、あの……お姉ちゃんは……」
「知るかよ。あのガキ、手間取らせやがって」
ということは、お姉ちゃんはまだ捕まってないんだ。
よかった。
せめてお姉ちゃんだけでも逃げられたのなら……。
「寂しいか? 安心しろ、すぐ会わせてやる」
「え?」
「お前のオークション日が決まった。今日、これからだ。嫌でもあのガキは助けにくるだろうぜ~ いいショーになりそうだ」
「そんな……」
男の人は笑いながら去っていく。
部屋を閉め、また真っ暗になった。
私は一人で丸まる。
「お姉ちゃん……」
会いたい。
でも、来ちゃ駄目だよ。
◇◇◇
「オークション? それに双子の妹が出品されってことか」
「うん。オレも商品だったけど、上手く逃げられた。本当は一緒に逃げたかったけどできなくて……」
目的地に速足で向かいながら話を聞く。
どうやらラナとその妹は、闇オークションの商品として売られそうになっていたらしい。
目的は彼女たちがもつ特別な眼だ。
姉のラナの右目と、妹の左目には魔眼が宿っているそうだ。
「人を物として売り出す……外道だな」
「まったく、魔族と大差ないのう。問題なのは種族ではなく、その個人の愚かさか」
「ああ」
つくづく腹立たしい。
そんな奴らのために、俺たちは命をかけて戦ったわけじゃないのに。
「苛立っておるのう」
「ああ」
「なればその苛立ち、奴らにぶつければよい。正当な権利じゃろ?」
「正当かどうかは知らないけど、それも悪くないな」
人間だろうと関係ない。
悪に手を染めたなら、俺たちの敵ならば。
そのオークションを叩き潰す。
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