上 下
7 / 16

7.腹が減る

しおりを挟む
 現世へ戻る前。
 僕はイルに、死神の力の使い方を教わった。

「最初に霊装ソウルイーターについて教えるね」
「それなんだけど、さっきの大剣ってどう出すの? 手に持ったら消えちゃって」
「霊装は自分の魂に収納されてるんだよ。出し方は簡単! 武器の形をイメージして、出て来いって念じるだけ」

 武器の形をイメージして……念じる。
 言われた通りにやってみると、目の前にヘルメイア様から貰った大剣が生成された。

「本当だ」
「でしょ? この霊装で魂を斬ると、青い魂は冥界へ、赤い魂は地獄へ送られるんだ。それと霊装は斬る対象を選択できるんだ。例えば魂だけを斬ったり、岩だけを斬ったりとか」

 便利な機能だなと思った。
 それとタイミングを同じくして、魂について疑問が生まれる。

「紫色の魂をした人もいるけど、あれは何なの?」
「あれは罪人になりかけてる魂だね。罪ってほどでもないけど、ちょっとした悪いことを繰り返したりすると、青い魂に赤い魂がまじりあって紫になるの。紫色になっても、その人が罪を悔い改めて、ちゃんと直せば青く戻るよ。だから紫色は冥界だね」
「なるほど」

 紫色は危険信号で、赤色は超えてはいけないラインを超えた者。
 という認識で正しいようだ。
 つまり彼らも、僕を見殺しにすることで、そのラインを超えてしまったわけか。

「ならモンスターの魂は? あれも赤いし、地獄へ送られるの?」
「うん。でもモンスターと人間の魂は、同じ赤色でも違うよ」
「違うの?」
「全然違うよ。具体的には、生まれた場所とサイクルが違うの」

 イルは詳しく説明してくれた。
 それを簡単にまとめると、人間の魂は冥界で生まれ、現世に戻るのに対し、モンスターの魂は地獄で生まれるらしい。
 最初から赤い魂として生まれ、現世でモンスターに宿る。
 人間の場合は、青い魂が罪を重ねると赤く染まる。
 だから人間の赤い魂は、紫色の部分が混じっていたり、少し黒く濁っている。
 
「でも結局、モンスターの魂も赤いよね? だったら僕たちはモンスターも狩らないといけないの?」
「ううん。モンスターは無理に刈らなくてもいいよ。あ、でも地獄へ行かず漂ってるモンスターの魂はちゃんと送ってあげないとね」

 現世で死んだ生き物の魂は、通常そのまま冥界か地獄へ行く。
 ただし現世に未練があったり、何らかの理由でとどまってしまう魂がある。
 魂を放置し続けると、周囲によくない現象を引き起こしたり、最終的には消滅してしまうそうだ。
 そうなる前に死神が見つけて、送り届ける必要がある。

「もし消滅したらどうなるの?」
「言葉通り消えるんだよ。二度と現世で生まれなおすことも出来ない。そうなると、魂のバランスが崩れかねない。だから罪人を見つけるより、漂ってる魂を見つけるほうが最優先なんだ。ここまではわかったかな?」
「うん、何とか」
「じゃあ次は霊印シグマだね」

 僕は自分の右手の甲に視線を向ける。
 ヘルメイア様に触れてもらって浮き上がった紋様を霊印と呼んでいた。

「霊印にはヘルメイア様から授かった力が宿っている。死神個人が持つ特殊能力みたいなもので、私の場合は――」

 説明しながら、彼女は霧のように消える。
 消えたと思ったら霧が集まって、フクロウの姿に変身した。

「『猫鳥変化にょうちょうへんげ』。フクロウに変身できるんだ」
「本当にあの時のフクロウだったんだ」
「うん!」

 イルは元の姿に戻る。

「ウィズの能力は?」
「僕のって言われても……どうやって確認するの?」
「自分の霊印に聞いてみるといいよ。目を瞑って、霊印に宿った力を感じるの」

 僕は目を瞑り、意識を霊印に集中する。
 宿った力を感じ、その名を知る。

「――『霊王れいおう』」
「霊王? それが能力の名前?」
「うん。たぶん」
「霊王……どんな能力なの?」
「えっと――」

 僕が能力を説明すると、彼女はひどく驚いていた。

「凄いよウィズ! そんな能力聞いたことない!」
「そ、そうなの?」
「うん! そんなことできるの、ヘルメイア様だけじゃないかな?」

 そんなにすごい能力なのか。
 イマイチまだぴんと来ないけど。

「実際に使ってみればわかるのかな」
「うん。練習しないとね」

 そうして、イルからレクチャーを受けた僕は、晴れて現世に帰還した。
 現世に戻って最初にやることは、もう決まっている。
 
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「……ふぅ」

 目の前にはかつての仲間が倒れている。
 赤い魂は地獄へ送られた。

「お疲れさま、ウィズ」
「イル……」
「大丈夫だった?」
「うん。怪我してないよ」
「そうじゃなくて、辛くなかった?」

 イルが心配しているのは、僕の心のほうだ。
 仲間の魂を刈り取って、心が傷ついていないのか。

「辛い、のかなって最初は思ったよ。でもあんまりかな。散々酷い目にあわされたし、同情とかもないよ」
「そっか。じゃあスッキリした?」
「それもあんまりかな」

 スッキリもしないし、悲しくもない。
 何とも思わない。
 彼らの死体が転がっている中で、僕が一番思っていることは……

「お腹減ったよ」

 他愛もない欲求だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~

平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。 しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。 パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...