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1.惚れ薬が出来ちゃった
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惚れ薬。
そんなものは存在しない空想上の便利な薬だ。
よくある恋愛物語に登場して、登場人物たちを困らせたり、二人の距離を縮めるきっかけになったり。
状況を進展、混乱させるスパイス的なもので間違いはない。
好きな人がいるなら、一度くらいは使ってみたいと妄想するだろう。
ただ、そんな物は存在しない。
存在しない物なら、作ってしまえばいいのではないか?
というのが全ての始まりだった。
「……出来ちゃったんだけど」
依頼されていたポーション作成が早く終わったので、暇な時間を使って適当に作ってみたら、何か出来てしまった。
紫色の明らかに身体に悪そうな色のポーションだ。
一見毒にも見えるけど、ちゃんと味は甘くして飲みやすくしてある。
「いやいやいや、そういう問題じゃないよね」
自分で自分にツッコミを入れる私。
まさかサクッと簡単に出来てしまうなんて思わなかった。
世の中に存在しないし、誰か作ったことないのかなーなんて思っただけの思いつき。
まぁ出来ないでしょどうせと半笑いで作ってみたら結果がこれだ。
「……どうしよ、これ」
別に好きな人がいるから作ったわけじゃない。
使いたい相手もいないのに、惚れ薬をどう使えばいいのかわからない。
捨ててしまったほうがいいのだろうか?
いや、せっかく作ったのに捨ててしまうなんて勿体ない。
でも……
「好きな人……か」
私には一生、そういう類の話は縁遠いだろう。
ユーリア・インレアス、それが私の名前。
インレアス家は王国でも有名な貴族で、王族にも意見できるほどの権力を持っている。
一応、私はインレアス家の令嬢にはなるのだけど……残念ながら他の人たちとは扱いが違う。
現当主のお父様は遊び好きで、よく妻以外の人と関係を持っていた。
一回限りの関係が多かったらしいけど、そんな遊び感覚で生まれてしまったのが私だったりする。
お相手は誰なのかわからない。
作りたくて作った娘じゃないから、お父様としても私を認めたくない。
だから、私は屋敷でもいない物として扱われた。
今から思い出しても散々な扱いだったし、こうして生きていることさえ不思議に思えるほど。
自分で言うのも恥ずかしいけど、私は頑張って生きていた。
誰も助けてくれないから、自分で何とかするしかなかったんだ。
成人年齢を超えるあたりで、屋敷から追い出されることもわかっていたから、それまでに何とか生活できる方法を探さなくてはなからなかった。
その時に見つけたのが、錬金術師という職業だった。
錬金術師、別名錬成術師とも呼ばれる職業。
ポーションを作ったり、素材同士を組み合わせて新しい物質を生み出したり。
技術者の一人で、錬成台という特別な台座を扱える者のみがなれる職業でもあった。
私にはその才能があったらしく、錬金術師の中には王宮でお仕事をする人もいると聞いて。
これしかない!
と思ったのが始まりだ。
独学で錬金術を学び、成人前に王宮で行われた宮廷錬金術師の試験を受け、見事に合格して現在に至る。
めでたく屋敷を出た私だけど、すでに悪い評判は広まっていた。
もっとも、尾ひれがつきすぎて原型のない噂だけど。
親のコネで入ったとか、本当は落ちこぼれだとか、平民の血が混じった貴族の偽物とか。
そういう噂は広まるのが早くて、同じくらい信じる人も多かった。
お陰で王宮でも私はハブられ者だ。
仲のいい友達はおろか、まともに話せる相手もいない。
「そんな私に好きな人なんて……出来たって上手くいかないよね」
たぶん、この薬を使う機会は訪れないだろう。
それを悲しくは思うけど、仕方がないとも納得してしまう。
私はポーション台の右端に惚れ薬の入った小瓶を入れ、次の仕事に取り掛かろうとする。
ちなみにポーション台の右端は、普段なら回復系のポーションを置いておく場所だった。
数分後――
作業中、不意にノックもなく部屋の扉が開いた。
誰だろうと思いつつ、私は作業の手を止める。
依頼されていたポーションの納品は明日だし、今日は特に来客の予定はなかった。
何よりノックもしないで入ってくるなんて不作法だ。
とか思ったけど、扉の前に立っているその人を見て、私は思わず固まった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
小説家になろうにて短編として投稿してます。
よければそちらもご覧ください。
そんなものは存在しない空想上の便利な薬だ。
よくある恋愛物語に登場して、登場人物たちを困らせたり、二人の距離を縮めるきっかけになったり。
状況を進展、混乱させるスパイス的なもので間違いはない。
好きな人がいるなら、一度くらいは使ってみたいと妄想するだろう。
ただ、そんな物は存在しない。
存在しない物なら、作ってしまえばいいのではないか?
というのが全ての始まりだった。
「……出来ちゃったんだけど」
依頼されていたポーション作成が早く終わったので、暇な時間を使って適当に作ってみたら、何か出来てしまった。
紫色の明らかに身体に悪そうな色のポーションだ。
一見毒にも見えるけど、ちゃんと味は甘くして飲みやすくしてある。
「いやいやいや、そういう問題じゃないよね」
自分で自分にツッコミを入れる私。
まさかサクッと簡単に出来てしまうなんて思わなかった。
世の中に存在しないし、誰か作ったことないのかなーなんて思っただけの思いつき。
まぁ出来ないでしょどうせと半笑いで作ってみたら結果がこれだ。
「……どうしよ、これ」
別に好きな人がいるから作ったわけじゃない。
使いたい相手もいないのに、惚れ薬をどう使えばいいのかわからない。
捨ててしまったほうがいいのだろうか?
いや、せっかく作ったのに捨ててしまうなんて勿体ない。
でも……
「好きな人……か」
私には一生、そういう類の話は縁遠いだろう。
ユーリア・インレアス、それが私の名前。
インレアス家は王国でも有名な貴族で、王族にも意見できるほどの権力を持っている。
一応、私はインレアス家の令嬢にはなるのだけど……残念ながら他の人たちとは扱いが違う。
現当主のお父様は遊び好きで、よく妻以外の人と関係を持っていた。
一回限りの関係が多かったらしいけど、そんな遊び感覚で生まれてしまったのが私だったりする。
お相手は誰なのかわからない。
作りたくて作った娘じゃないから、お父様としても私を認めたくない。
だから、私は屋敷でもいない物として扱われた。
今から思い出しても散々な扱いだったし、こうして生きていることさえ不思議に思えるほど。
自分で言うのも恥ずかしいけど、私は頑張って生きていた。
誰も助けてくれないから、自分で何とかするしかなかったんだ。
成人年齢を超えるあたりで、屋敷から追い出されることもわかっていたから、それまでに何とか生活できる方法を探さなくてはなからなかった。
その時に見つけたのが、錬金術師という職業だった。
錬金術師、別名錬成術師とも呼ばれる職業。
ポーションを作ったり、素材同士を組み合わせて新しい物質を生み出したり。
技術者の一人で、錬成台という特別な台座を扱える者のみがなれる職業でもあった。
私にはその才能があったらしく、錬金術師の中には王宮でお仕事をする人もいると聞いて。
これしかない!
と思ったのが始まりだ。
独学で錬金術を学び、成人前に王宮で行われた宮廷錬金術師の試験を受け、見事に合格して現在に至る。
めでたく屋敷を出た私だけど、すでに悪い評判は広まっていた。
もっとも、尾ひれがつきすぎて原型のない噂だけど。
親のコネで入ったとか、本当は落ちこぼれだとか、平民の血が混じった貴族の偽物とか。
そういう噂は広まるのが早くて、同じくらい信じる人も多かった。
お陰で王宮でも私はハブられ者だ。
仲のいい友達はおろか、まともに話せる相手もいない。
「そんな私に好きな人なんて……出来たって上手くいかないよね」
たぶん、この薬を使う機会は訪れないだろう。
それを悲しくは思うけど、仕方がないとも納得してしまう。
私はポーション台の右端に惚れ薬の入った小瓶を入れ、次の仕事に取り掛かろうとする。
ちなみにポーション台の右端は、普段なら回復系のポーションを置いておく場所だった。
数分後――
作業中、不意にノックもなく部屋の扉が開いた。
誰だろうと思いつつ、私は作業の手を止める。
依頼されていたポーションの納品は明日だし、今日は特に来客の予定はなかった。
何よりノックもしないで入ってくるなんて不作法だ。
とか思ったけど、扉の前に立っているその人を見て、私は思わず固まった。
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