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第二章
27.放課後のお誘い
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「じゃあ確認しないといけないですね」
「うん。一番良いのは、魔女と接触した可能性が高い人物に話を聞くことなんだけど」
「というと、リュート君ですね」
「彼に話を聞くのが手っ取り早いね」
リュート君かぁ……正直なことを言えば、あまり気乗りはしない。
酷いことを言われたからとか、そこはもう大丈夫。
彼の過去を見て、苦悩を知った今なら、むしろ嫌いにはなれないと思う。
でも、だからこそ気が引ける。
他人の過去を覗いてしまった。
その上で、ずけずけと彼の心に入り込んで、根拠も何もない励ましを口にしてしまったから。
あの後、リュート君は何も言わずに部屋を去っていった。
避けられてしまう気もして、話しかけることを考えると、どうしても億劫になる。
「不安そうな顔をするね」
「え、あっ」
「いや、どちらかというと嫌そうな顔かな?」
「うっ……ごめんなさい」
また表情に出てしまったらしい。
気をつけているつもりでも、癖は中々治らないようだ。
「やっぱり話しかけ辛いかい? 何だったら僕から話しかけようか?」
「い、いえ! 先生のお手を煩わせるにはいきませんから!」
「別に僕は構わないけど」
「大丈夫です! 魔術師になったらいろんな人と関わらないといけませんし、これも練習です」
それに彼と私は一応同級生だ。
年が同じ者同士、仲良くなれるならそうしたい。
とは言え、相手もそう思ってくれていないと無理だけど……
「本当に嫌なら代わるからね」
「いえ頑張ります!」
◇◇◇
翌日。
私は普段通りに学園へ登校した。
入り口手前でライル君とイリーナさんに会って、一緒に歩く。
道中、ライル君が何の気なく聞いてくる。
「アリスはどうするんだ? また自主練?」
「えっと、今日は受けたい授業がいくつかあるかな?」
「へぇ―珍しいな」
ライル君は目を丸くして、ちょっぴり驚いていた。
あまり受けたい授業がない私も、今日は少しだけ違う。
驚いたのは彼だけじゃなくて、イリーナさんも尋ねてくる。
「アリスの受けたい授業って何?」
「えーっと、それはまだ決めてないというか」
「え?」
「どういうことだよ」
二人とも首を傾げてしまう。
自分で言っていておかしいのはわかるけど、本当のことだから他に言いようがなかった。
講義は受けるつもりでも、何を受けるのかは決まっていない。
というのも、目的は抗議の内容じゃなくて、リュート君に話しかけるきっかけ作りだからだ。
さすがにそんな説明は出来ないので、適当に誤魔化してその場を凌ぐ。
話したい内容に魔女が関わっているし、何も知らない二人は巻き込みたくない。
だから狙うのはリュート君だけが参加している講義だ。
まずは情報収集。
彼がどんな講義を受けているのかを探ろう。
とか思っていら……
ま、まさか、いきなり同じ講義に入れるなんて。
一つ目の適当に選んだ講義で、リュート君を見つけることが出来た。
とりあえずライル君たちと違う講義を、と思って選んだだけなのに、今日の私は運が良いのかもしれない。
それにしてもこの授業はつまらない。
基礎中の基礎だし、リュート君なら今さら聞く必要のない内容だと思うけど……
(案外向こうも、君と話したいと思っているのかもね)
(それはさすがに……ないと思いますけど)
(どうかな? 男の子っていうのは、君が思っている以上に単純だよ)
フクロウから聞こえる先生の声は、何だか楽しそうだった。
リュート君が私と話したいと思っている。
そんなこと私じゃ考えられないけど、先生が言うとそうなのかもと思ってしまうから不思議だ。
数十分後。
授業が終わり、各々が部屋を出て行く。
他の人が部屋を出て、出入り口が根絶しているからなのか、リュート君は席に座ったまま残っていた。
今が話しかけるチャンス。
そう思った私は、意を決して話しかけることにする。
「あ、あの、こんにちは」
「……ああ、君か」
私が話しかけると、リュート君はちょっぴり驚いたような反応をした。
やっぱり話しかけられるなんて思っていなかったのか。
「その、急に声をかけてごめんなさい」
「別に良いよ」
その後の反応もそっけない。
無視されなかっただけマシだけど、いざ話そうと思うと緊張する。
「……」
「何か用だった?」
「えっと……実は、リュート君に聞きたいお話があって。あっ、でも今じゃなくて! できれば放課後とかに時間を作れれば」
自信がなくて尻つぼみになる声量。
話している途中の反応を見ながら、もういっそ断ってほしいとさえ思いそうになる。
「……それって、昨日のことに関係してるのか?」
「は、はい」
「……わかった。放課後でいいな?」
「え?」
思わずキョトンとした顔になる。
そんな私を見て、リュート君はムスッとする。
「何だ。君が放課後って言ったんだぞ?」
「あ、はい! 大丈夫です」
「そうか。じゃあまた放課後に」
「はい」
淡々と言葉を交わして、リュート君は先に部屋を出て行ってしまう。
終始緊張していた所為か、約束が出来て心からホッとする。
「良かったぁ……でもやっぱり避けられてる、のかな?」
(いいや、あれはたぶん逆だね)
先生の声が頭に響く。
(逆? どういうことですか?)
(うーん、彼もどう接していいのかわからないんじゃないかな~ 君と同じでね)
(私と同じ……)
先生がいうと、何でも本当のように思えてくる。
もしも先生の言う様に、彼も悩んでいるのだとしたら。
私たちはお友達になれるかもしれない。
「うん。一番良いのは、魔女と接触した可能性が高い人物に話を聞くことなんだけど」
「というと、リュート君ですね」
「彼に話を聞くのが手っ取り早いね」
リュート君かぁ……正直なことを言えば、あまり気乗りはしない。
酷いことを言われたからとか、そこはもう大丈夫。
彼の過去を見て、苦悩を知った今なら、むしろ嫌いにはなれないと思う。
でも、だからこそ気が引ける。
他人の過去を覗いてしまった。
その上で、ずけずけと彼の心に入り込んで、根拠も何もない励ましを口にしてしまったから。
あの後、リュート君は何も言わずに部屋を去っていった。
避けられてしまう気もして、話しかけることを考えると、どうしても億劫になる。
「不安そうな顔をするね」
「え、あっ」
「いや、どちらかというと嫌そうな顔かな?」
「うっ……ごめんなさい」
また表情に出てしまったらしい。
気をつけているつもりでも、癖は中々治らないようだ。
「やっぱり話しかけ辛いかい? 何だったら僕から話しかけようか?」
「い、いえ! 先生のお手を煩わせるにはいきませんから!」
「別に僕は構わないけど」
「大丈夫です! 魔術師になったらいろんな人と関わらないといけませんし、これも練習です」
それに彼と私は一応同級生だ。
年が同じ者同士、仲良くなれるならそうしたい。
とは言え、相手もそう思ってくれていないと無理だけど……
「本当に嫌なら代わるからね」
「いえ頑張ります!」
◇◇◇
翌日。
私は普段通りに学園へ登校した。
入り口手前でライル君とイリーナさんに会って、一緒に歩く。
道中、ライル君が何の気なく聞いてくる。
「アリスはどうするんだ? また自主練?」
「えっと、今日は受けたい授業がいくつかあるかな?」
「へぇ―珍しいな」
ライル君は目を丸くして、ちょっぴり驚いていた。
あまり受けたい授業がない私も、今日は少しだけ違う。
驚いたのは彼だけじゃなくて、イリーナさんも尋ねてくる。
「アリスの受けたい授業って何?」
「えーっと、それはまだ決めてないというか」
「え?」
「どういうことだよ」
二人とも首を傾げてしまう。
自分で言っていておかしいのはわかるけど、本当のことだから他に言いようがなかった。
講義は受けるつもりでも、何を受けるのかは決まっていない。
というのも、目的は抗議の内容じゃなくて、リュート君に話しかけるきっかけ作りだからだ。
さすがにそんな説明は出来ないので、適当に誤魔化してその場を凌ぐ。
話したい内容に魔女が関わっているし、何も知らない二人は巻き込みたくない。
だから狙うのはリュート君だけが参加している講義だ。
まずは情報収集。
彼がどんな講義を受けているのかを探ろう。
とか思っていら……
ま、まさか、いきなり同じ講義に入れるなんて。
一つ目の適当に選んだ講義で、リュート君を見つけることが出来た。
とりあえずライル君たちと違う講義を、と思って選んだだけなのに、今日の私は運が良いのかもしれない。
それにしてもこの授業はつまらない。
基礎中の基礎だし、リュート君なら今さら聞く必要のない内容だと思うけど……
(案外向こうも、君と話したいと思っているのかもね)
(それはさすがに……ないと思いますけど)
(どうかな? 男の子っていうのは、君が思っている以上に単純だよ)
フクロウから聞こえる先生の声は、何だか楽しそうだった。
リュート君が私と話したいと思っている。
そんなこと私じゃ考えられないけど、先生が言うとそうなのかもと思ってしまうから不思議だ。
数十分後。
授業が終わり、各々が部屋を出て行く。
他の人が部屋を出て、出入り口が根絶しているからなのか、リュート君は席に座ったまま残っていた。
今が話しかけるチャンス。
そう思った私は、意を決して話しかけることにする。
「あ、あの、こんにちは」
「……ああ、君か」
私が話しかけると、リュート君はちょっぴり驚いたような反応をした。
やっぱり話しかけられるなんて思っていなかったのか。
「その、急に声をかけてごめんなさい」
「別に良いよ」
その後の反応もそっけない。
無視されなかっただけマシだけど、いざ話そうと思うと緊張する。
「……」
「何か用だった?」
「えっと……実は、リュート君に聞きたいお話があって。あっ、でも今じゃなくて! できれば放課後とかに時間を作れれば」
自信がなくて尻つぼみになる声量。
話している途中の反応を見ながら、もういっそ断ってほしいとさえ思いそうになる。
「……それって、昨日のことに関係してるのか?」
「は、はい」
「……わかった。放課後でいいな?」
「え?」
思わずキョトンとした顔になる。
そんな私を見て、リュート君はムスッとする。
「何だ。君が放課後って言ったんだぞ?」
「あ、はい! 大丈夫です」
「そうか。じゃあまた放課後に」
「はい」
淡々と言葉を交わして、リュート君は先に部屋を出て行ってしまう。
終始緊張していた所為か、約束が出来て心からホッとする。
「良かったぁ……でもやっぱり避けられてる、のかな?」
(いいや、あれはたぶん逆だね)
先生の声が頭に響く。
(逆? どういうことですか?)
(うーん、彼もどう接していいのかわからないんじゃないかな~ 君と同じでね)
(私と同じ……)
先生がいうと、何でも本当のように思えてくる。
もしも先生の言う様に、彼も悩んでいるのだとしたら。
私たちはお友達になれるかもしれない。
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