没落貴族の令嬢は家族との生活を守るため魔術師を目指す ~貧乏になった私には双子の妹と弟がいます。お願い先生、私を弟子にしてください!~

日之影ソラ

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第二章

26.魔女の痕跡

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 私たちは変わらず食卓を囲む。
 学校で起こった特別な出来事も、終わってしまえば普段通り。
 帰宅して、ライカとレナに遊ぼうとせがまれて、先生が代わりに遊んでくれている間に夕食の準備を済ませた。
 あんなことがあった後だし、疲れも正直あったけど。
 ちょっぴり豪華にしようかな?
 何て思ってしまったから、普段より気合いを入れて夕食を拵えて、四人で一緒に食べる。

「お姉ちゃん! 学校で良いことあったの?」
「え? どうして?」
「だってなんか嬉しそうなんだもん!」

 食事中、突然ライカにそんなことを言われてしまった。
 完全に無自覚で、普段通りにしているつもりだったけど、ライカには違いがわかったらしい。
 それに続いてレナも言う。

「お兄ちゃんも良いことあったんでしょ?」
「おや、わかるかい?」
「うん! お兄ちゃんワクワクしてるもん!」
「はははっ、さすがレナ。良い所に気が付くね」

 先生に褒められたレナは無邪気な笑顔を見せる。
 対抗するわけじゃないけど、先生が嬉しそうなことは私だって気付いていた。
 理由はもちろん、あのことだ。
 この場では詳しい話も出来ないけど、二人が寝た後なら話せると思う。
 先生もきっと、そのつもりなのだろう。
 私たちは目配せをして、後で話そうと約束をした。

 それから夜になり、二人が寝静まったことを確認して、私と先生は中庭にやってきた。
 二人だけで静かに話をするときは、中庭に出ることが習慣化しつつある。
 今夜も星がとても綺麗で、吹き抜ける風も程よく冷たくて気持ち良い。
 私たちは穏やかな空気を感じながら話し合う。

「今日は頑張ったね、アリス」
「いえ、先生には助けられました。本当にありがとうございます」
「何、大したことはしていないさ」
「そんなことありません。あのとき先生が割って入ってくれなかったら、私はきっと大けがをしていました」

 いいや、大けがで済まなかったかもしれない。
 あの瞬間、私は死を直感したのだから。
 今思い返しても恐ろしくて、背筋がぞわっとしてしまう。
 だからこそ、颯爽と現れて私を助けてくれた時は、本当に格好良かった。

「先生には助けられてばかりですね。今度は私が先生を助ける番だ! って張り切ってたのに情けないです」
「そんなことないさ。僕だって君には助けられてばかりだよ。君がいたから生きることを前向きに考えられる。今回だってそうさ。君のお陰で希望が見えた」

 先生にとっての希望。
 それはリュートに魔女の痕跡を感じたことだろう。
 私を襲った彼からは、この世の者とは思えない強大で異質な力を感じた。
 もしも先生が魔女という言葉を口にしなくても、私は直感的にそう思っていたはずだ。
 それほどの力だった。
 
「彼も運が良かったね。あれは彼女の力の、ほんの欠片に過ぎない。だから助けられたし、戻ってこられた。完全に堕ちていたら、もうどうしようもなかったよ」
「あれで欠片……魔女ってすごいですね」
「凄いよ。賢者と呼ばれた僕でさえ、彼女の前では子供同然だった」
「でも先生は魔女を倒したんですよね?」

 そういう話だった。
 先生が魔女を倒して、消える直前に呪いを受けてしまったと。
 確認する私に、先生は小さく微笑みながら答える。

「確かに勝ったよ。でもあれは運が良かった。単純な力比べじゃ絶対に勝てなかっただろうね。状況の全てがこちらに味方して、辛うじて何とか出来ただけさ。呪いなんてなければ、出来るなら二度と関わりたくないね」

 先生がそこまで言うなんて……よっぽど嫌なことがあったのだろう。
 普段から温厚で、他人に対して優しい先生が、特定の誰かを悪くいうなんて珍しい。
 きっと魔女相手にだけだろうと思う。

「先生にも好き嫌いってあったんですね」
「そりゃーあるさ。一応これでも人間だからね? 合う人もいるし、合わない人もいる。君のように一緒にいて楽しい人もいれば、一緒にいて不快になる人だっているんだ」
「せ、先生」

 突然褒められて、私は顔を真っ赤にする。
 私と一緒にいて楽しいと。
 先生からストレートに言われたのは初めてだった。
 嬉しすぎて頭がくらくらしてしまいそうだ。

「ふふっ、その反応豊かな所も君の良さだ。できれば失わないで大きくなってほしいね」
「は、はい! 頑張ります」
「頑張ることじゃないけど、まぁ何でも頑張れてしまうのも君の良さだ」

 何だか今日の先生はいつもより優しい。
 優しいというか、積極的というか。
 このまま褒められ続けると、どうにかなってしまいそうだ。
 嬉しさよりも恥ずかしさが勝ってしまいそうな私は、顔を厚くしながら無理やり話題を変える。

「あ、あの先生! これからどうしますか?」
「そうだね。魔女の痕跡は見つかったし、生きている可能性は高まった。ただ、まだ可能性の段階ではある」
「痕跡があったのにですか?」
「うん。だって彼女が生きているなら、僕の前に姿を現さないわけないから」

 先生はハッキリとそう口にした。
 二度と会いたくないと言った後で、こうも断言されると反応に困る。
 私が思っている以上に、二人の関係は複雑なようだ。
 余計に知りたくなったけど、今は深く聞かないようにしよう。
 きっといずれ教えてくれるはずだ。
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