生まれてすぐ捨てられた王子の僕ですが、水神様に拾われたので結果的に幸せです。

日之影ソラ

文字の大きさ
上 下
8 / 26

8.王都初上陸

しおりを挟む
 食事を済ませてしばらくすると、徐々に雨脚が遠のいていった。
 次第に雨は弱まり、雲の隙間からは日差しが見えだす。
 そうはいってもずぶ濡れの服は乾いておらず、仕方なく僕たちは乾くまで大人しく待つことにした。
 その間に僕たちはいろんな話をした。
 他愛のない話ばかりだ。
 ここに来るまでのことや、それ以前の生活について。
 彼女の出身はグレートリコ王国という大陸に端にある小国で、その中でも特に辺境の小さな村だった。
 母親の他に妹と弟がいて、一緒に暮らしていたらしい。

「妹と弟か~ 僕はどっちもいないからちょっと羨ましい」
「そんなんでもないけどな。うるさいしかまってやらないとすぐ拗ねるし」

 とか言いながら、妹たちの話をするとき彼女は楽しそうに笑っていた。
 やっぱり少し羨ましいと思う。
 話の中で妹たちの名前は出てきても、母親のことは触れなかった。
 あの言葉を聞いていたから気になりはしていたけど……
 何となく聞くべきじゃない気がして、あえて突っ込まなかった。
 僕も捨てられたことや、母さんが水神様だということまでは話していない。
 彼女も察してか、それについては聞いてこなかった。
 互いに深くは踏み込まず、けれども楽しく話をして、少しは仲良くなれた気がする。


 結局そのまま一夜を過ごし、朝になって乾いた服に着替えた。
 僕たちは一日ぶりに青空の下に出る。
 日の光を浴びながら、ミラは大きく背伸びをする。

「ぅ、うーん! やっぱり晴れてる方がいいな~」
「そうだね。でも雨だって悪いばかりじゃないんだよ」
「そうか? ジメジメして私は嫌いだけど」

 ジメジメすることは否定しない。
 嫌いと言われると、何だか自分を否定されたようで傷つくな。
 そういえば母さんも言っていた。
 昔は雨を喜んでくれたけど、いつしか邪魔者のように扱われていたと。
 文明の発展によって雨は恵みではなく、ただの水滴になってしまったという話だった。
 そこも僕がどうにかしたいと思っている点だ。

「さっ、早く出発しよう。一日あいちゃったし急がないと受付に間に合わないよ」
「そう? まだ十分間に合うと思うけど」

 受付は試験の前日、夕方までとされていた。
 ここまで約半分の距離を三日かけてきている。
 残り半分と考えて、到着に二日程度の余裕はあると思う。

「全然ギリギリだって! ここから先に谷があるから、大回りしていくんだぞ?」
「え、ああ、そういうことか」

 僕らじゃ考えているルートが全く違うことに気付く。
 彼女は陸路で、僕は水路で考えていた。

「だからほら行くぞ!」
「ちょっと待った」
「え? 何だよ」
「そっちのルートでギリギリなら、僕が知ってるルートで行かない?」

 ミラはキョトンと首を傾げる。

 それから――

「うわっ、冷たっ」
「あーごめん、跳ねる水まで制御しきれなかった」

 僕はミラと一緒に斗波に乗って川を遡っている。
 そこまで大きな波じゃないから、落ちないように肩を寄せ合って。
 距離感が近すぎると、さすがの僕でも緊張する。
 さっきから心臓の鼓動がうるさくなってきた。

「な、なぁこれ大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。この川は王都まで続いている。ちゃんとたどり着けるよ」
「そっちじゃなくてさ! こんな使い方して魔力が持つのかって話」
「あーそういうことか。全然問題ないよ」

 斗波はそこにある水を利用して波を作る。
 水を生成しなくて良い分、魔力効率は良いほうだ。
 睡眠を考えないなら一月は発動し続けられるよ。

「とにかく心配しないで。飛沫もかからないように制御するから」
「う、うん……お前って本当に何者なんだよ」
「君と同じ受験者だよ。それじゃちょっと速度をあげるから! 落とされないように掴まっていて」
「わかった。頼むよ」

 ミラが僕の腕にぎゅっとしがみ付く。
 女の子の柔らかい手と肌の感触にドキッとしながら、僕は波の速度をあげた。
 それから数回の休憩を挟みつつ王都を目指す。

  ◇◇◇

 三日後――

 僕たちは王都の入り口にたどり着いた。
 最初の感想は、お互いに同じ。
 
「「でっかいなー」」

 王都の街を囲っている大きな鉄の壁と、入り口たる巨大な門。
 巨人でも住んでいるのかと思うくらい大きな門に、僕らはぽけーと口を開けて驚いていた。
 数秒経過して我に返る。
 いつまでも門の前でつったっているわけにはいかないと、僕らは意を決して中へと入った。
 
 門が開かれる。
 正確には巨大な門ではなく、その隣にあった出入り用の門が。
 大きな門が開くかもという期待感の所為でガッカリしたけど、それは街に入ってすぐ払拭された。

「大きいな……」

 門を見た時と同じ感想が僕の口から出た。
 何もかもが大きい。
 建物はもちろん、道や看板も含めて。
 基本的に三階建て以上の建物しかないようだ。
 さらに奥には王城が見えている。
 王都中央に立つ純白のお城は、遠くから見るだけでも別世界な感覚に襲われる。
 家を二階建てにして誇らしげだった自分が恥ずかしく思えてきた。

「人も多いな。私の村とは大違いだ」

 ミラもぼそりと驚きを口にした。
 確かに多い。
 僕はずっと湖で暮らしていたから、きっと彼女より人の多さを感じているだろう。
 右も左も人、前後も人。
 少し上を見上げても、建物に人がいる。
 
「目が回りそうだな」

 初めての街、初めての人混み。
 どちらも僕にとっては刺激的で、もうすでに我が家が恋しく感じてきた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

処理中です...