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第八章 極限の中で
肆
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戦闘開始と同時刻。
魔王城では特殊な魔導具を使い、戦闘の様子が映像として映し出されていた。
見ているな魔王とその側近。
そして人類の王女、ミストリア。
きわめて珍しい組み合わせで、リインたちの戦いを見守る。
「……」
「心配かい? お姫様」
アガレスが王女に声をかける。
王女は息を呑んで答える。
「リインでは部が悪い戦いなのですよね」
「ああ。ワシも厳しいとは思う」
「……どうして落ち着いていられるのですか? まさか負けてもいいと思っているのですか?」
「ワシはそこまで薄情じゃないぞ。悪魔の言葉なんざ信用できないとは思うがな」
「そんなことはありません」
感情を識別する術式を持つ彼女にとって、種族の違いはそこまで関係ない。
故に気付いている。
魔王とアガレスが信じて彼らを送り出したことにも。
勝てる可能性が低いと理解しながら、リインが勝つと信じている矛盾に、彼女は疑問を抱く。
「見ていればわかるわ」
「おう。リインは確かにまだ未熟だ。ワシが教えた魔力操作も、完全にはマスターしていない。現状の能力だけならルキフグスのほうが上手だ」
「……」
「だが、断言できる。剣術だけなら、あいつは世界最強だ」
魔界屈指の剣士と名高いアガレスが断言する。
数多の剣士、戦士と戦ってきた彼の言葉故に、信ぴょう性は高い。
「そしてあいつの剣は……極限でこそ真価を発揮するんだよ」
アガレスは笑みを浮かべて映像を見る。
自慢の弟子を誇るように。
期待するように。
◇◇◇
グリムとサルカダナスの戦闘は、超至近距離で繰り広げられる。
サルカダナスは曲芸のような動きでグリムを翻弄する。
彼女の術式は多彩だ。
瞬間移動、透明化、物質精製。
一瞬にして視界から消え、気配もなくなり、グリムの背後から無数のナイフを投擲する。
グリムはナイフに反応し、回し蹴りによる風圧でナイフを弾く。
「いいっすね! 運が」
「オレじゃなかったら死んでるぜ」
予備動作なしの瞬間移動に、視覚以外も惑わす透明化。
加えて武器や道具を瞬時に生み出せる術式。
並の術師であれば、サルカダナスの前に何もすることはできずに敗北する。
彼女の戦いは、まるで自由気ままに遊んでいるよう。
まさに変幻自在、自由奔放。
しかしその戦い方は――
「オレの専売特許だぜ」
グリムは超高速で壁や天井を使って跳び回る。
サルカダナスの瞬間移動にも反応する反射速度に、ナイフすら通さない肉体を想像している。
さらに透明化も。
「なんで気づけるんすか!」
「オレだからだな!」
イメージの力で五感すら強化している。
サルカダナスの術式は、視覚においては完璧に透過する。
が、その他の感覚は完全には消せない。
耳を澄ませば音がして、鼻をたてれば匂いを感じ、触れる感覚までは消えない。
「残念だったな! お前はオレの想像は超えられねー!」
彼女のイメージは、百を超えるリインとの戦闘経験から強化されている。
サルカダナスはリインより弱わかった。
今の彼女には、サルカダナスに負ける想像など浮かばない。
「修行して出直しやがれ!」
グリムの拳が移動直後のサルカダナスの顔面を捉える。
顔がめり込むほどの一撃に、サルカダナスは倒れる。
術式に頼る戦い方など、グリムには通じなかった。
◇◇◇
ルキフグスの部下、ネビロス。
かの悪魔の異名は死霊使い。
死した者の魂を使役する術式を持つ。
魔界は長い歴史の中で多くの血が流れ、今も尚どこかで争いは続いている。
この地でもかつて大きな戦いが起こり、多くの命が失われた。
故に、残っている。
大量の死した魂が。
「私には地の利がある。悪いが君に勝ち目はない」
ネビロスの背後に死霊から生成された青い炎の玉が無数に浮かぶ。
青い炎は冷気を放つ。
触れれば瞬時に凍結し、あらゆる生命活動を停止させる。
ネビロスの発言は正しい。
この場での戦いは、ネビロスに利がある。
が、彼女には関係ない。
「――馬鹿な、その炎は……」
「ご、ごめんなさい。真似させてもらいました」
彼女にとっては全ての場所が利に働く。
視界に見えるものを理解し、己の想像力の種火とする。
ネビロスの炎をも再現してみせた。
さらに、彼女の想像力もグリム動揺、リインのと戦いで強化されている。
ネビロスの炎とヴィルの炎は、同じではない。
炎がぶつかり合う。
冷気は掻き消え、ネビロスが燃え上がる。
「ば、馬鹿な! 燃える……だと!」
「ほ、炎は燃えるものですから。そっちのほうが想像しやすくて、ごめんなさい」
ヴィルの炎は冷気すら燃やす業火。
同じではなかった。
彼女の炎の想像が、現実の力を上回る。
魔王城では特殊な魔導具を使い、戦闘の様子が映像として映し出されていた。
見ているな魔王とその側近。
そして人類の王女、ミストリア。
きわめて珍しい組み合わせで、リインたちの戦いを見守る。
「……」
「心配かい? お姫様」
アガレスが王女に声をかける。
王女は息を呑んで答える。
「リインでは部が悪い戦いなのですよね」
「ああ。ワシも厳しいとは思う」
「……どうして落ち着いていられるのですか? まさか負けてもいいと思っているのですか?」
「ワシはそこまで薄情じゃないぞ。悪魔の言葉なんざ信用できないとは思うがな」
「そんなことはありません」
感情を識別する術式を持つ彼女にとって、種族の違いはそこまで関係ない。
故に気付いている。
魔王とアガレスが信じて彼らを送り出したことにも。
勝てる可能性が低いと理解しながら、リインが勝つと信じている矛盾に、彼女は疑問を抱く。
「見ていればわかるわ」
「おう。リインは確かにまだ未熟だ。ワシが教えた魔力操作も、完全にはマスターしていない。現状の能力だけならルキフグスのほうが上手だ」
「……」
「だが、断言できる。剣術だけなら、あいつは世界最強だ」
魔界屈指の剣士と名高いアガレスが断言する。
数多の剣士、戦士と戦ってきた彼の言葉故に、信ぴょう性は高い。
「そしてあいつの剣は……極限でこそ真価を発揮するんだよ」
アガレスは笑みを浮かべて映像を見る。
自慢の弟子を誇るように。
期待するように。
◇◇◇
グリムとサルカダナスの戦闘は、超至近距離で繰り広げられる。
サルカダナスは曲芸のような動きでグリムを翻弄する。
彼女の術式は多彩だ。
瞬間移動、透明化、物質精製。
一瞬にして視界から消え、気配もなくなり、グリムの背後から無数のナイフを投擲する。
グリムはナイフに反応し、回し蹴りによる風圧でナイフを弾く。
「いいっすね! 運が」
「オレじゃなかったら死んでるぜ」
予備動作なしの瞬間移動に、視覚以外も惑わす透明化。
加えて武器や道具を瞬時に生み出せる術式。
並の術師であれば、サルカダナスの前に何もすることはできずに敗北する。
彼女の戦いは、まるで自由気ままに遊んでいるよう。
まさに変幻自在、自由奔放。
しかしその戦い方は――
「オレの専売特許だぜ」
グリムは超高速で壁や天井を使って跳び回る。
サルカダナスの瞬間移動にも反応する反射速度に、ナイフすら通さない肉体を想像している。
さらに透明化も。
「なんで気づけるんすか!」
「オレだからだな!」
イメージの力で五感すら強化している。
サルカダナスの術式は、視覚においては完璧に透過する。
が、その他の感覚は完全には消せない。
耳を澄ませば音がして、鼻をたてれば匂いを感じ、触れる感覚までは消えない。
「残念だったな! お前はオレの想像は超えられねー!」
彼女のイメージは、百を超えるリインとの戦闘経験から強化されている。
サルカダナスはリインより弱わかった。
今の彼女には、サルカダナスに負ける想像など浮かばない。
「修行して出直しやがれ!」
グリムの拳が移動直後のサルカダナスの顔面を捉える。
顔がめり込むほどの一撃に、サルカダナスは倒れる。
術式に頼る戦い方など、グリムには通じなかった。
◇◇◇
ルキフグスの部下、ネビロス。
かの悪魔の異名は死霊使い。
死した者の魂を使役する術式を持つ。
魔界は長い歴史の中で多くの血が流れ、今も尚どこかで争いは続いている。
この地でもかつて大きな戦いが起こり、多くの命が失われた。
故に、残っている。
大量の死した魂が。
「私には地の利がある。悪いが君に勝ち目はない」
ネビロスの背後に死霊から生成された青い炎の玉が無数に浮かぶ。
青い炎は冷気を放つ。
触れれば瞬時に凍結し、あらゆる生命活動を停止させる。
ネビロスの発言は正しい。
この場での戦いは、ネビロスに利がある。
が、彼女には関係ない。
「――馬鹿な、その炎は……」
「ご、ごめんなさい。真似させてもらいました」
彼女にとっては全ての場所が利に働く。
視界に見えるものを理解し、己の想像力の種火とする。
ネビロスの炎をも再現してみせた。
さらに、彼女の想像力もグリム動揺、リインのと戦いで強化されている。
ネビロスの炎とヴィルの炎は、同じではない。
炎がぶつかり合う。
冷気は掻き消え、ネビロスが燃え上がる。
「ば、馬鹿な! 燃える……だと!」
「ほ、炎は燃えるものですから。そっちのほうが想像しやすくて、ごめんなさい」
ヴィルの炎は冷気すら燃やす業火。
同じではなかった。
彼女の炎の想像が、現実の力を上回る。
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