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第六章 王女様の秘密
肆
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ふと、魔王アスタロトの言葉を思い出す。
人間の国王も、争う気のない魔王の考えに気付いている。
今も続いている戦争は、人々の心の平穏を維持するためのポーズでしかない。
この百年、大きな争いは起きていない。
王族である彼女は知っている。
人間と悪魔の敵対が、形ある憎悪ではなく歴史上のものであることを。
「私は悪魔を敵だなんて思っていないわ。私に敵があるとすれば、この国や人々に害をなす者たちのことを指す。あなたやそのお仲間は違うでしょう?」
「……」
「お前らそっくりだな」
そう言ったのはグリムだった。
「お前らって?」
「リインとそっちの王女だよ。考え方がまんま一緒じゃんか」
「そ、そうだね。リインも昔、同じようなことを言っていたと思います」
ヴィルまでそう言いだす。
俺と王女様の考え方が同じだと。
あながち間違っていない。
俺も悪魔を敵だとは思っていない。
そして人間のことも。
「確かに同じだな」
「ふふっ、似た者同士ね。気が合いそうでよかったわ」
「どうだか」
考え方は同じでも、気が合うかは別の話だ。
でもとりあえず、争う意思がないことはわかってホッとする。
話をしながら多少打ち解けたところで、俺は改めて王女様に質問する。
「なんで護衛がいる? ここは学園の敷地内だ。外より安全だろ?」
「悪魔を二人も連れているあなたが言っても説得力はないわね」
「そういうのはいいから。あんたの目があれば、敵意があるかどうかわかるだろ?」
「私の術式を知っているのは肉親だけよ。一般には知られていないわ。だからこの眼を理由に裁けない。それにここは人が多すぎるのよ。人混みは嫌い、くらくらするわ」
話しながら彼女は頭に手を当てる。
他人の感情が見える眼は便利そうだが、見え過ぎるのも苦労があるようだ。
「それでも対策はとれるだろ?」
「ええ、だからあなたにお願いしているのよ。入学式であなたのオーラを見た時に確信したわ。私を守れるナイトはあなたしかいないって」
「王女様にそう言われるなんて光栄だな」
「微塵も思っていない癖に」
どうせ何を思ってもバレてしまう。
テキトーが一番だと開き直る。
今さら無礼だとは思われないだろう。
「私、誰かに襲われるの」
「唐突だな。そういう相談はもっと相応しい相手に……ん? 襲われる?」
「お父様たちには頼れないのよ。それに今じゃないわ。いつか……近い未来に私は襲われる」
「……なんだそれ。まるで未来が見えてるみたいだな」
「ええ」
彼女は頷く。
あっさりと、さも当たり前のように。
さすがの俺も驚く。
「私の術式は、私自身にも使える。自分の奥底、隅々まで見ることができる。感情、過去……少し先の未来もわかるわ」
「凄い術式だな」
こういう能力をチートと呼ぶのだろう。
生まれ変わる時、俺も女神様に頼んでいたら、彼女に負けない術式を持っていたのかもしれないな。
もちろん、後悔なんて微塵もしていないけど。
彼女は自分の術式について語りながら、どこか悲し気だった。
自慢している素振りはまったくない。
むしろ、嘆いているようにすら見える。
「未来がわかるといっても断片的よ。数日以内に私は学園の中で襲撃され、攫われてしまう。それだけじゃない。学園にも多くの犠牲者を出す」
「一大事だな。尚更もっと大勢に相談すべきだと思うが……」
未来が断片的でも見えるということは、その方向性は失敗するのか?
学園には十傑、教員も含めれば一万人近い術師がいる。
そこに侵入し、王女を襲って攫う。
彼女の話が事実なら、襲撃者は相当な腕の持ち主だろう。
自然と顔がニヤケる。
「わかった。協力してもいい」
「やっとその気になってくれたのね」
「ああ、断るつもりだったけど気が変わった。あんたの話を信じてやる」
学園を脅かすほどの敵がくる。
その相手をできるなら望むところだ。
魔王城とは違って不自由な学園生活……。
少しでも強者と戦える機会は見逃せない。
「それじゃよろしくね? 私の素敵なナイト様」
そう言いながら彼女は俺の腕に抱き着く。
イヤリングが大きく揺れる。
「おいこら! 何くっついてるんだ!」
「は、はは離れてください」
「あら? ナイトはこうやって姫をエスコートするものよ?」
「いや……それだと刀が抜けないんだが……」
どんな相手が来るのか楽しみではあるが、それまで彼女とずっと一緒なのは正直面倒だ。
じらさずさっさと襲ってきてくれ。
俺が内心そう思っていることも、この姫様には見抜かれているだろうな。
人間の国王も、争う気のない魔王の考えに気付いている。
今も続いている戦争は、人々の心の平穏を維持するためのポーズでしかない。
この百年、大きな争いは起きていない。
王族である彼女は知っている。
人間と悪魔の敵対が、形ある憎悪ではなく歴史上のものであることを。
「私は悪魔を敵だなんて思っていないわ。私に敵があるとすれば、この国や人々に害をなす者たちのことを指す。あなたやそのお仲間は違うでしょう?」
「……」
「お前らそっくりだな」
そう言ったのはグリムだった。
「お前らって?」
「リインとそっちの王女だよ。考え方がまんま一緒じゃんか」
「そ、そうだね。リインも昔、同じようなことを言っていたと思います」
ヴィルまでそう言いだす。
俺と王女様の考え方が同じだと。
あながち間違っていない。
俺も悪魔を敵だとは思っていない。
そして人間のことも。
「確かに同じだな」
「ふふっ、似た者同士ね。気が合いそうでよかったわ」
「どうだか」
考え方は同じでも、気が合うかは別の話だ。
でもとりあえず、争う意思がないことはわかってホッとする。
話をしながら多少打ち解けたところで、俺は改めて王女様に質問する。
「なんで護衛がいる? ここは学園の敷地内だ。外より安全だろ?」
「悪魔を二人も連れているあなたが言っても説得力はないわね」
「そういうのはいいから。あんたの目があれば、敵意があるかどうかわかるだろ?」
「私の術式を知っているのは肉親だけよ。一般には知られていないわ。だからこの眼を理由に裁けない。それにここは人が多すぎるのよ。人混みは嫌い、くらくらするわ」
話しながら彼女は頭に手を当てる。
他人の感情が見える眼は便利そうだが、見え過ぎるのも苦労があるようだ。
「それでも対策はとれるだろ?」
「ええ、だからあなたにお願いしているのよ。入学式であなたのオーラを見た時に確信したわ。私を守れるナイトはあなたしかいないって」
「王女様にそう言われるなんて光栄だな」
「微塵も思っていない癖に」
どうせ何を思ってもバレてしまう。
テキトーが一番だと開き直る。
今さら無礼だとは思われないだろう。
「私、誰かに襲われるの」
「唐突だな。そういう相談はもっと相応しい相手に……ん? 襲われる?」
「お父様たちには頼れないのよ。それに今じゃないわ。いつか……近い未来に私は襲われる」
「……なんだそれ。まるで未来が見えてるみたいだな」
「ええ」
彼女は頷く。
あっさりと、さも当たり前のように。
さすがの俺も驚く。
「私の術式は、私自身にも使える。自分の奥底、隅々まで見ることができる。感情、過去……少し先の未来もわかるわ」
「凄い術式だな」
こういう能力をチートと呼ぶのだろう。
生まれ変わる時、俺も女神様に頼んでいたら、彼女に負けない術式を持っていたのかもしれないな。
もちろん、後悔なんて微塵もしていないけど。
彼女は自分の術式について語りながら、どこか悲し気だった。
自慢している素振りはまったくない。
むしろ、嘆いているようにすら見える。
「未来がわかるといっても断片的よ。数日以内に私は学園の中で襲撃され、攫われてしまう。それだけじゃない。学園にも多くの犠牲者を出す」
「一大事だな。尚更もっと大勢に相談すべきだと思うが……」
未来が断片的でも見えるということは、その方向性は失敗するのか?
学園には十傑、教員も含めれば一万人近い術師がいる。
そこに侵入し、王女を襲って攫う。
彼女の話が事実なら、襲撃者は相当な腕の持ち主だろう。
自然と顔がニヤケる。
「わかった。協力してもいい」
「やっとその気になってくれたのね」
「ああ、断るつもりだったけど気が変わった。あんたの話を信じてやる」
学園を脅かすほどの敵がくる。
その相手をできるなら望むところだ。
魔王城とは違って不自由な学園生活……。
少しでも強者と戦える機会は見逃せない。
「それじゃよろしくね? 私の素敵なナイト様」
そう言いながら彼女は俺の腕に抱き着く。
イヤリングが大きく揺れる。
「おいこら! 何くっついてるんだ!」
「は、はは離れてください」
「あら? ナイトはこうやって姫をエスコートするものよ?」
「いや……それだと刀が抜けないんだが……」
どんな相手が来るのか楽しみではあるが、それまで彼女とずっと一緒なのは正直面倒だ。
じらさずさっさと襲ってきてくれ。
俺が内心そう思っていることも、この姫様には見抜かれているだろうな。
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