31 / 46
第六章 王女様の秘密
参
しおりを挟む
俺は一瞬にして顔を上げる。
目と目が再び合う。
彼女は笑みを浮かべていた。
さっきまでの優しい笑顔とはうって代わり、俺のことをあざ笑うような強い目をしている。
雰囲気までもが変わる。
「……なんの話でしょう?」
「惚けるの? そんな堂々と二人もつれて」
「……」
気づいているのか。
俺の両耳についたイヤリングの正体に。
冷たい風が吹き抜ける。
「……あんた、何者だ?」
「ミストリア・イブロンよ? 自己紹介は済ませたはずだわ。あなたの自己紹介はいらないわよ? リイン・ウェルト……魔王アスタロトの右腕、剣王アガレスのお弟子さん」
「そこまで……」
知られているなら、もう隠すことはできないな。
俺は小さくため息をこぼす。
先生や魔王のことを知っているなら、一緒にいる彼女たちのことも把握しているだろう。
グリムたちは王女様を警戒している。
「こいつらのことも?」
「ええ、右がグリムさん、左がヴィルさんね」
「――オレらのことも知ってんのかよ」
黙っていたグリムが声を出す。
気づかれているならイヤリングのフリを続ける意味はない。
ただし変身は解けない。
この学園には特殊な結界が張られている。
外敵が侵入すると術者に警告するタイプの結界だ。
イヤリングの状態で魔導具に偽装しているから結界を突破できているが、姿を晒せば反応する。
二人とも理解しているから、イヤリングのままだ。
「学園の結界を欺くなんて、さすが悪魔ね」
「……そういうあんたはどうして気づいたんだよ」
「私にはわかるわ。この眼があるから」
そう言いながら自身の青い瞳を指さす。
俺の脳裏には噂が過る。
ミストリア王女は他人の心を見透かすことができる。
「ただの噂じゃなかったってことか」
入学そうそう、面倒な女に見つかってしまったらしい。
俺はすっと肩を落とす。
すると王女様は俺に言う。
「あなた今、面倒臭いって思ったわね」
「……やっぱり他人の心が見えるのか?」
「少し違うわ。私には相手の感情が色で見えるの」
「感情が色で?」
王女様は小さく頷く。
喜怒哀楽。
感情には様々な種類が存在する。
彼女の瞳はそれを色で識別することができるらしい。
たとえば怒りの感情は赤。
悲しみは青。
興奮は黄色というように。
「一つの感情だけが見えるわけじゃないの。いろんな感情が合わさっているのが人間よ。それと感情とは別にオーラも見えるわ」
「オーラ?」
「その人が秘める力。魔力とは違った輝きが見えるの。オーラは人によって違うけど、人間には人間の特徴がある。それ以外にもね」
「なるほど」
その眼の力で、俺と一緒にいる二人の存在に気付いたのか。
しかしまだ不明な点がある。
今語られた二つの能力だけじゃ、俺たちの素性まではわからないはずだ。
ましてやこの場にいない魔王や先生のことは。
俺が疑問を浮かべていると、彼女は進んで口を開く。
「手よ」
そう言って彼女は右手を前に出した。
握手を求めるように。
「――! 対象に触れることでより深い情報を読み取れるのか」
「正解よ。これが私の術式、『共心』」
握手で俺に触れたことで、俺が持っている記憶や情報を読み取ったのか。
だから魔王や先生のことも把握していた。
気になるのは、どこまで知られているのかという点だ。
「心配しなくてもいいわ。触れてわかるのは断片的な記憶ばかりよ。あなたのプライベートの隅々まで把握したわけじゃないわ」
「そうか」
「もっと触れ合っていれば見えるわよ?」
そう言って悪戯に俺の手に触れようとする。
俺は咄嗟に手を引く。
「遠慮しとく」
「あら残念」
無邪気に笑う王女様は、第一印象からどんどん離れていく。
お淑やかで礼儀正しく、高貴な女性だと思った。
ただ実際は……。
「猫を被っていたわけか」
「王女らしい振る舞いをしていただけよ。他人の目があるところでは気を付けているわ」
「今はいいのか? 他人がいるぞ」
「ふふっ、あなたは特別よ。お互いに秘密を共有した仲だもの」
何が共有だ。
一方的に俺の情報を盗み見ておいて。
意地悪な女だな。
「意地悪って思った?」
「心が読めないんじゃなかったのか?」
「感情の色を見れば大体わかるわ」
「そうかよ。で、秘密をバラされたくなければ、あんたの命令に従えってことか?」
俺は彼女を軽く睨みつける。
脅しには屈しないという意思を見せるように。
「命令じゃなくてお願いよ。断りたいなら断ればいいわ」
「断ったら秘密をバラすんだろ?」
「そうね。敵かもしれない悪魔が王都に侵入している……王族として見過ごせないわ」
「脅しじゃないか。けど、甘いんじゃないのか?」
俺は腰の刀に触れる。
抜きはしない。
ただ、視線と動作で示す。
この場でお前を殺すことだって容易だということを。
脅しには脅しで返す。
彼女が秘密を握るなら、俺は彼女の命を握ろう。
しかし、彼女は動じずに。
「あなたはそんなことしないわ」
そう言って穏やかに笑う。
強がりに見えない。
彼女の表情からは、微塵の恐怖も感じられない。
「私はあなたの本質を見ている。あなたは私の敵じゃない。私もあなたの敵じゃない。だから、あなたは私を殺さない」
「……俺はそうでも、俺と一緒にいる連中は違うだろ? あんたは王族で、俺は悪魔と……魔王と一緒にいるんだ」
「王族だから知っているのよ。今の魔王に争う意思がないことは」
目と目が再び合う。
彼女は笑みを浮かべていた。
さっきまでの優しい笑顔とはうって代わり、俺のことをあざ笑うような強い目をしている。
雰囲気までもが変わる。
「……なんの話でしょう?」
「惚けるの? そんな堂々と二人もつれて」
「……」
気づいているのか。
俺の両耳についたイヤリングの正体に。
冷たい風が吹き抜ける。
「……あんた、何者だ?」
「ミストリア・イブロンよ? 自己紹介は済ませたはずだわ。あなたの自己紹介はいらないわよ? リイン・ウェルト……魔王アスタロトの右腕、剣王アガレスのお弟子さん」
「そこまで……」
知られているなら、もう隠すことはできないな。
俺は小さくため息をこぼす。
先生や魔王のことを知っているなら、一緒にいる彼女たちのことも把握しているだろう。
グリムたちは王女様を警戒している。
「こいつらのことも?」
「ええ、右がグリムさん、左がヴィルさんね」
「――オレらのことも知ってんのかよ」
黙っていたグリムが声を出す。
気づかれているならイヤリングのフリを続ける意味はない。
ただし変身は解けない。
この学園には特殊な結界が張られている。
外敵が侵入すると術者に警告するタイプの結界だ。
イヤリングの状態で魔導具に偽装しているから結界を突破できているが、姿を晒せば反応する。
二人とも理解しているから、イヤリングのままだ。
「学園の結界を欺くなんて、さすが悪魔ね」
「……そういうあんたはどうして気づいたんだよ」
「私にはわかるわ。この眼があるから」
そう言いながら自身の青い瞳を指さす。
俺の脳裏には噂が過る。
ミストリア王女は他人の心を見透かすことができる。
「ただの噂じゃなかったってことか」
入学そうそう、面倒な女に見つかってしまったらしい。
俺はすっと肩を落とす。
すると王女様は俺に言う。
「あなた今、面倒臭いって思ったわね」
「……やっぱり他人の心が見えるのか?」
「少し違うわ。私には相手の感情が色で見えるの」
「感情が色で?」
王女様は小さく頷く。
喜怒哀楽。
感情には様々な種類が存在する。
彼女の瞳はそれを色で識別することができるらしい。
たとえば怒りの感情は赤。
悲しみは青。
興奮は黄色というように。
「一つの感情だけが見えるわけじゃないの。いろんな感情が合わさっているのが人間よ。それと感情とは別にオーラも見えるわ」
「オーラ?」
「その人が秘める力。魔力とは違った輝きが見えるの。オーラは人によって違うけど、人間には人間の特徴がある。それ以外にもね」
「なるほど」
その眼の力で、俺と一緒にいる二人の存在に気付いたのか。
しかしまだ不明な点がある。
今語られた二つの能力だけじゃ、俺たちの素性まではわからないはずだ。
ましてやこの場にいない魔王や先生のことは。
俺が疑問を浮かべていると、彼女は進んで口を開く。
「手よ」
そう言って彼女は右手を前に出した。
握手を求めるように。
「――! 対象に触れることでより深い情報を読み取れるのか」
「正解よ。これが私の術式、『共心』」
握手で俺に触れたことで、俺が持っている記憶や情報を読み取ったのか。
だから魔王や先生のことも把握していた。
気になるのは、どこまで知られているのかという点だ。
「心配しなくてもいいわ。触れてわかるのは断片的な記憶ばかりよ。あなたのプライベートの隅々まで把握したわけじゃないわ」
「そうか」
「もっと触れ合っていれば見えるわよ?」
そう言って悪戯に俺の手に触れようとする。
俺は咄嗟に手を引く。
「遠慮しとく」
「あら残念」
無邪気に笑う王女様は、第一印象からどんどん離れていく。
お淑やかで礼儀正しく、高貴な女性だと思った。
ただ実際は……。
「猫を被っていたわけか」
「王女らしい振る舞いをしていただけよ。他人の目があるところでは気を付けているわ」
「今はいいのか? 他人がいるぞ」
「ふふっ、あなたは特別よ。お互いに秘密を共有した仲だもの」
何が共有だ。
一方的に俺の情報を盗み見ておいて。
意地悪な女だな。
「意地悪って思った?」
「心が読めないんじゃなかったのか?」
「感情の色を見れば大体わかるわ」
「そうかよ。で、秘密をバラされたくなければ、あんたの命令に従えってことか?」
俺は彼女を軽く睨みつける。
脅しには屈しないという意思を見せるように。
「命令じゃなくてお願いよ。断りたいなら断ればいいわ」
「断ったら秘密をバラすんだろ?」
「そうね。敵かもしれない悪魔が王都に侵入している……王族として見過ごせないわ」
「脅しじゃないか。けど、甘いんじゃないのか?」
俺は腰の刀に触れる。
抜きはしない。
ただ、視線と動作で示す。
この場でお前を殺すことだって容易だということを。
脅しには脅しで返す。
彼女が秘密を握るなら、俺は彼女の命を握ろう。
しかし、彼女は動じずに。
「あなたはそんなことしないわ」
そう言って穏やかに笑う。
強がりに見えない。
彼女の表情からは、微塵の恐怖も感じられない。
「私はあなたの本質を見ている。あなたは私の敵じゃない。私もあなたの敵じゃない。だから、あなたは私を殺さない」
「……俺はそうでも、俺と一緒にいる連中は違うだろ? あんたは王族で、俺は悪魔と……魔王と一緒にいるんだ」
「王族だから知っているのよ。今の魔王に争う意思がないことは」
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説

世界樹を巡る旅
ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった
そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった
カクヨムでも投稿してます
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
魔法大全 最強魔法師は無自覚
yahimoti
ファンタジー
鑑定の儀で魔法の才能がなかったので伯爵家を勘当されてしまう。
ところが停止した時間と老化しない空間に入れるのをいいことに100年単位で無自覚に努力する。
いつのまにか魔法のマスターになっているのだけど魔法以外の事には無関心。
無自覚でコミュ障の主人公をほっとけない婚約者。
見え隠れする神『ジュ』と『使徒』は敵なのか味方なのか?のほほんとしたコメディです。

勇者がアレなので小悪党なおじさんが女に転生されられました
ぽとりひょん
ファンタジー
熱中症で死んだ俺は、勇者が召喚される16年前へ転生させられる。16年で宮廷魔法士になって、アレな勇者を導かなくてはならない。俺はチートスキルを隠して魔法士に成り上がって行く。勇者が召喚されたら、魔法士としてパーティーに入り彼を導き魔王を倒すのだ。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる