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第六章 王女様の秘密
弐
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「ボディーガード?」
「はい。学園に通っている間、私のことを守ってほしいのです」
王女様はニコやかに語る。
学園の敷地内限定で、俺に護衛をしてほしいそうだ。
お願いの内容は簡単だ。
けれど当然、疑問は浮かぶ。
まず――
「なんでわざわざ護衛を? 王女様ならいくらでも護衛をつけられるでしょう?」
「はい。学園の外であれば」
俺は理解できず首を傾げる。
そんな俺を見て、王女様は少し呆れた顔をした。
「ご存じありませんか? 学園の敷地内に入れるのは関係者のみです。屋敷の使用人や護衛であっても同じです。なぜならこの学び舎の中では、全員が対等に扱われます。爵位や権威は関係ありませんから」
「……その割には、入学試験をパスできたりしていますよ?」
「そうですね。入学基準は平等を欠いています。私も何度か進言していますが、残念ながら変わってはくれませんでした」
王女様は困った顔をしながら笑う。
学園に入ることは不平等で、入ってしまえば爵位も関係なく平等。
というのがこの学園内でのルールらしい。
「ルールと言っても厳密に守られているわけではありません」
「では護衛も外から募っていいのではありませんか? 王女様なら誰も異を唱えないでしょう」
「それこそご法度です。人々の規範となるべき王族が進んでルールを破るなど、国民に笑われてしまいますよ」
「……そうですね。失礼いたしまいた」
俺は頭を下げて謝罪する。
王族というと何となく、横柄なイメージがあった。
少なくともこの人は、上に立つ者としての責任について考えているようだ。
さっきの言葉は俺が浅はかだったと反省する。
その上で、もう一つ大きな疑問を口にする。
「なぜ、俺なんですか?」
「あなたが適任だからです」
一秒も考える間もなく、ハッキリと王女様は答えた。
どんな理由で口にしているのだろう。
俺は続けて言う。
「失礼ですが荷が重すぎます。俺は今さっき学園に入学したばかりの一学生です。王女様の意図は測りかねますが、俺では王女様に満足いただけないかと」
本音を言うと面倒くさい。
学園に通っている間、この人の護衛をしなきゃいけないとか。
自由を妨害されるのは困るんだ。
ただでさえ、両耳に不釣り合いな者を連れているわけだし。
何とかして断りたいと思っている。
「そんなことはありません。この学園にあなたほど、私を守れる人はいませんよ」
しかし王女様は一歩も引かない。
俺に拘る意味はなんだ?
なんとなく理由を知ったら引き返せない気がするな。
俺はさっき仕入れたばかりの知識で対抗する。
「この学園には十傑という組織があるそうです。彼らは学園の生徒から選ばれた実力者と聞きます。俺より彼らに相談したほうがよいのではありませんか?」
「そうですね。彼らの実力は私も存じております。どなたも素晴らしい才能の持ち主です。いずれこの国を支える方々になるでしょう」
「それなら」
「いいえ、彼らの実力を知った上で、あなたのほう適任だと私は思っています」
学園生徒の最高機関、学生会十傑。
その彼らを差し置いて、俺みたいなよくわからない生徒を選ぶ?
この王女様は何を考えているんだ。
まったく読み取れない。
何を言っても返される予感がした俺は、腹をくくることにした。
「申し訳ありませんが、俺には荷が重すぎます」
言い訳しても通じないなら、堂々と断るしか方法はない。
せめて誠意を示すように頭を下げて。
「よろしいのですか? 断ってしまっても」
「申し訳ありません。大変嬉しいお誘いですが、俺には王女様の護衛をする度胸がありません」
「あら、おかしなことを言うのですね? 度胸なら尚更でしょ?」
王女様の口調が、少しずつ崩れていく。
まるで偽装を剥がすように。
「悪魔をつれて学園に入学した人間なんて、あなたが初めてよ?」
「――!」
「はい。学園に通っている間、私のことを守ってほしいのです」
王女様はニコやかに語る。
学園の敷地内限定で、俺に護衛をしてほしいそうだ。
お願いの内容は簡単だ。
けれど当然、疑問は浮かぶ。
まず――
「なんでわざわざ護衛を? 王女様ならいくらでも護衛をつけられるでしょう?」
「はい。学園の外であれば」
俺は理解できず首を傾げる。
そんな俺を見て、王女様は少し呆れた顔をした。
「ご存じありませんか? 学園の敷地内に入れるのは関係者のみです。屋敷の使用人や護衛であっても同じです。なぜならこの学び舎の中では、全員が対等に扱われます。爵位や権威は関係ありませんから」
「……その割には、入学試験をパスできたりしていますよ?」
「そうですね。入学基準は平等を欠いています。私も何度か進言していますが、残念ながら変わってはくれませんでした」
王女様は困った顔をしながら笑う。
学園に入ることは不平等で、入ってしまえば爵位も関係なく平等。
というのがこの学園内でのルールらしい。
「ルールと言っても厳密に守られているわけではありません」
「では護衛も外から募っていいのではありませんか? 王女様なら誰も異を唱えないでしょう」
「それこそご法度です。人々の規範となるべき王族が進んでルールを破るなど、国民に笑われてしまいますよ」
「……そうですね。失礼いたしまいた」
俺は頭を下げて謝罪する。
王族というと何となく、横柄なイメージがあった。
少なくともこの人は、上に立つ者としての責任について考えているようだ。
さっきの言葉は俺が浅はかだったと反省する。
その上で、もう一つ大きな疑問を口にする。
「なぜ、俺なんですか?」
「あなたが適任だからです」
一秒も考える間もなく、ハッキリと王女様は答えた。
どんな理由で口にしているのだろう。
俺は続けて言う。
「失礼ですが荷が重すぎます。俺は今さっき学園に入学したばかりの一学生です。王女様の意図は測りかねますが、俺では王女様に満足いただけないかと」
本音を言うと面倒くさい。
学園に通っている間、この人の護衛をしなきゃいけないとか。
自由を妨害されるのは困るんだ。
ただでさえ、両耳に不釣り合いな者を連れているわけだし。
何とかして断りたいと思っている。
「そんなことはありません。この学園にあなたほど、私を守れる人はいませんよ」
しかし王女様は一歩も引かない。
俺に拘る意味はなんだ?
なんとなく理由を知ったら引き返せない気がするな。
俺はさっき仕入れたばかりの知識で対抗する。
「この学園には十傑という組織があるそうです。彼らは学園の生徒から選ばれた実力者と聞きます。俺より彼らに相談したほうがよいのではありませんか?」
「そうですね。彼らの実力は私も存じております。どなたも素晴らしい才能の持ち主です。いずれこの国を支える方々になるでしょう」
「それなら」
「いいえ、彼らの実力を知った上で、あなたのほう適任だと私は思っています」
学園生徒の最高機関、学生会十傑。
その彼らを差し置いて、俺みたいなよくわからない生徒を選ぶ?
この王女様は何を考えているんだ。
まったく読み取れない。
何を言っても返される予感がした俺は、腹をくくることにした。
「申し訳ありませんが、俺には荷が重すぎます」
言い訳しても通じないなら、堂々と断るしか方法はない。
せめて誠意を示すように頭を下げて。
「よろしいのですか? 断ってしまっても」
「申し訳ありません。大変嬉しいお誘いですが、俺には王女様の護衛をする度胸がありません」
「あら、おかしなことを言うのですね? 度胸なら尚更でしょ?」
王女様の口調が、少しずつ崩れていく。
まるで偽装を剥がすように。
「悪魔をつれて学園に入学した人間なんて、あなたが初めてよ?」
「――!」
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