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第五章 新しい出会い
肆
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王都で一週間を過ごす。
特に目新しい変化はなく、一週間かけて王都を散策したり、暇を見つけて修行したり。
いたって平凡に過ごした。
そして迎えた入学日。
王都には特に目立つ建物が二つある。
一つは誰もが知っている。
誰が見ても一目瞭然。
この国のもっとも偉い人が住まう場所、王城だ。
大きさは魔王城より若干小さいけど、華やかな装飾と白さが際立ち、魔王城とは異なる存在感を放っている。
そしてもう一つ。
白が似合う王都の街並みで、唯一黒く染まった建物がある。
名を、王立魔術学院。
そのままだが、人類最高の教育機関らしい。
魔術と入っているが、魔術師でなくても何かしら光る才能があれば入学することができるとか。
本来なら入学試験をクリアして入る名門なのだが。
王国に属する貴族なら入学試験をパスできるという甘えた仕様のおかげで、俺は特になんの苦労なく入学を果たした。
他国の人間や貴族以外は、難しい試験を受けて入ってくる。
「なんだか申し訳ないな」
この世界は階級社会。
貴族と平民には確かな差がある。
俺のような辺境伯爵の息子でも、貴族であれば優遇され、それ以外は冷遇される。
元の世界の学歴社会よりひどいな。
「それにしてもでかいな」
目の前はすでに学園の建物だ。
どこかで見た記憶があるなと思ったら、以前に映像で見たロンドンと時計塔にそっくりだった。
別に行ったことはないけど、妙に親近感が湧く。
「リイン君!」
建物を見上げる俺を呼ぶ声。
この声には心当たりがあった。
俺は振り返り、彼女と一年半ぶりに再会する。
「久しぶり、アイリア」
「うん! 久しぶりだね! リイン君!」
彼女は元気な笑顔で駆け寄ってくる。
入学するという話は本当だったらしい。
駆け寄ってきたアイリアは俺の右手を握ると、嬉しそうに顔を近づける。
「会いたかったよ、リイン君! 突然いなくなってビックリしたんだから」
「ああ、悪かったな」
なんだか妙に両耳が振動しているような気がするが……。
グリムはともかくヴィルまで嫌がらせか?
アイリアが俺のイヤリングに気付く。
「あれ? そのイヤリングどうしたの?」
「お世話になってる先生にもらったんだ。大切な物だから常につけてるんだよ」
「そうなんだ! とっても似合ってるね! 大人っぽくて格好いい!」
「ありが――」
唐突に左右のイヤリングが揺れる。
風もないのに不自然に。
俺は咄嗟に首を振る。
「それより急ごうか。入学式の時間に遅れるぞ」
「ん? うん、そうだね!」
俺たちは建物に向かって歩き出す。
これで多少揺れても不自然じゃないし、周りに人が増えたから小声ならバレない。
「……おい、お前ら」
(ふんだ)
(……あの子がアイリア……)
「あとでお仕置きだな。グリムは」
(なんでオレだけなんだよ!)
ガミガミ脳内でうるさいグリムを無視しながら、俺はアイリアと一緒に学園内に入る。
内部の作りは元の世界の大学に近い。
俺たち以外にも入学者が列を作り、入学式の会場へと入る。
大きなホールを使っているのに、あふれそうになるほど人がいる。
「わー、凄い人だね」
「何人いるんだ? これ」
「えーっと、確か今年の入学者は三千人くらいだったかな」
「三千……多いわけだ」
いや、むしろ少ないほうなのか?
世界中から入学希望者が集まり、試験でほとんどふるい落とされる。
ここにいるのは選ばれし者……と、貴族のコネで入った奴ら。
俺も含めてな。
より一層申し訳ない気分だ。
その後、入学式は滞りなく進んだ。
特に面白い話もない。
ただ先生の話を聞いて、今後の学園生活について簡単なレクチャーがあっただけ。
詳しくはこの後、各教室に分かれて説明されるらしい。
授業の受け方も大学と同じシステムだった。
「一先ずこれで終わりだな」
「うん! リイン君!」
「なんだ?」
「明日から一緒に頑張ろうね!」
彼女は満面の笑みでそう言った。
またイヤリングが不自然に動きそうな気配を察する。
「ああ」
俺は自然に見えるように相槌をうって誤魔化す。
二度目はないぞ。
さて、ここで本日やるべきことは終わった。
説明まで時間がある。
イヤリングがうるさいし、一度宿屋に戻って荷物を持ってくるとしよう。
今日から寮での生活だ。
「それじゃ、俺は一旦戻って荷物を――」
「見つけたぜ! リイン!」
「――!」
俺を呼び留める声。
今の声は……。
「久しぶりだなぁ!」
「やっぱり兄さんの声か」
グエル兄さんが腕組みをして仁王立ちしていた。
ニヤリと笑いながら。
学園には入ればいずれ顔を会わせるとは思っていたけど、まさか初日からか。
「久しぶりだね、兄さん。元気そうでよかった」
「お前もな! この日を待ってたぜ……」
ああ、この流れ。
懐かしき感覚が蘇る。
「勝負しろ! リイン」
兄さんは指を俺に向ける。
屋敷で何度も挑まれた景色が重なる。
少し期待していた自分がいて、少し悔しい。
「――ふっ、いい――」
「と、言いたいところだが、今日はなしだ」
「……え?」
特に目新しい変化はなく、一週間かけて王都を散策したり、暇を見つけて修行したり。
いたって平凡に過ごした。
そして迎えた入学日。
王都には特に目立つ建物が二つある。
一つは誰もが知っている。
誰が見ても一目瞭然。
この国のもっとも偉い人が住まう場所、王城だ。
大きさは魔王城より若干小さいけど、華やかな装飾と白さが際立ち、魔王城とは異なる存在感を放っている。
そしてもう一つ。
白が似合う王都の街並みで、唯一黒く染まった建物がある。
名を、王立魔術学院。
そのままだが、人類最高の教育機関らしい。
魔術と入っているが、魔術師でなくても何かしら光る才能があれば入学することができるとか。
本来なら入学試験をクリアして入る名門なのだが。
王国に属する貴族なら入学試験をパスできるという甘えた仕様のおかげで、俺は特になんの苦労なく入学を果たした。
他国の人間や貴族以外は、難しい試験を受けて入ってくる。
「なんだか申し訳ないな」
この世界は階級社会。
貴族と平民には確かな差がある。
俺のような辺境伯爵の息子でも、貴族であれば優遇され、それ以外は冷遇される。
元の世界の学歴社会よりひどいな。
「それにしてもでかいな」
目の前はすでに学園の建物だ。
どこかで見た記憶があるなと思ったら、以前に映像で見たロンドンと時計塔にそっくりだった。
別に行ったことはないけど、妙に親近感が湧く。
「リイン君!」
建物を見上げる俺を呼ぶ声。
この声には心当たりがあった。
俺は振り返り、彼女と一年半ぶりに再会する。
「久しぶり、アイリア」
「うん! 久しぶりだね! リイン君!」
彼女は元気な笑顔で駆け寄ってくる。
入学するという話は本当だったらしい。
駆け寄ってきたアイリアは俺の右手を握ると、嬉しそうに顔を近づける。
「会いたかったよ、リイン君! 突然いなくなってビックリしたんだから」
「ああ、悪かったな」
なんだか妙に両耳が振動しているような気がするが……。
グリムはともかくヴィルまで嫌がらせか?
アイリアが俺のイヤリングに気付く。
「あれ? そのイヤリングどうしたの?」
「お世話になってる先生にもらったんだ。大切な物だから常につけてるんだよ」
「そうなんだ! とっても似合ってるね! 大人っぽくて格好いい!」
「ありが――」
唐突に左右のイヤリングが揺れる。
風もないのに不自然に。
俺は咄嗟に首を振る。
「それより急ごうか。入学式の時間に遅れるぞ」
「ん? うん、そうだね!」
俺たちは建物に向かって歩き出す。
これで多少揺れても不自然じゃないし、周りに人が増えたから小声ならバレない。
「……おい、お前ら」
(ふんだ)
(……あの子がアイリア……)
「あとでお仕置きだな。グリムは」
(なんでオレだけなんだよ!)
ガミガミ脳内でうるさいグリムを無視しながら、俺はアイリアと一緒に学園内に入る。
内部の作りは元の世界の大学に近い。
俺たち以外にも入学者が列を作り、入学式の会場へと入る。
大きなホールを使っているのに、あふれそうになるほど人がいる。
「わー、凄い人だね」
「何人いるんだ? これ」
「えーっと、確か今年の入学者は三千人くらいだったかな」
「三千……多いわけだ」
いや、むしろ少ないほうなのか?
世界中から入学希望者が集まり、試験でほとんどふるい落とされる。
ここにいるのは選ばれし者……と、貴族のコネで入った奴ら。
俺も含めてな。
より一層申し訳ない気分だ。
その後、入学式は滞りなく進んだ。
特に面白い話もない。
ただ先生の話を聞いて、今後の学園生活について簡単なレクチャーがあっただけ。
詳しくはこの後、各教室に分かれて説明されるらしい。
授業の受け方も大学と同じシステムだった。
「一先ずこれで終わりだな」
「うん! リイン君!」
「なんだ?」
「明日から一緒に頑張ろうね!」
彼女は満面の笑みでそう言った。
またイヤリングが不自然に動きそうな気配を察する。
「ああ」
俺は自然に見えるように相槌をうって誤魔化す。
二度目はないぞ。
さて、ここで本日やるべきことは終わった。
説明まで時間がある。
イヤリングがうるさいし、一度宿屋に戻って荷物を持ってくるとしよう。
今日から寮での生活だ。
「それじゃ、俺は一旦戻って荷物を――」
「見つけたぜ! リイン!」
「――!」
俺を呼び留める声。
今の声は……。
「久しぶりだなぁ!」
「やっぱり兄さんの声か」
グエル兄さんが腕組みをして仁王立ちしていた。
ニヤリと笑いながら。
学園には入ればいずれ顔を会わせるとは思っていたけど、まさか初日からか。
「久しぶりだね、兄さん。元気そうでよかった」
「お前もな! この日を待ってたぜ……」
ああ、この流れ。
懐かしき感覚が蘇る。
「勝負しろ! リイン」
兄さんは指を俺に向ける。
屋敷で何度も挑まれた景色が重なる。
少し期待していた自分がいて、少し悔しい。
「――ふっ、いい――」
「と、言いたいところだが、今日はなしだ」
「……え?」
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