20 / 46
第四章 新たな一歩
弐
しおりを挟む
激戦を終えて一段落した後。
俺はグリムとヴィルに魔王城の中を案内してもらうことになった。
「ここがお前の部屋だ」
「広いな」
最初に案内されたのは、俺がこれから睡眠をとる部屋だった。
黒い扉を開けた先には、貴族の屋敷顔負けの広々とした部屋が用意されている。
ベッドも大きくて布団はフカフカだ。
悪魔の部屋だから、もっとゴツゴツして禍々しい場所をイメージしていた。
他にも窓ガラスにカーテン。
衣装台や鏡があったり、おしゃれたソファーも用意されている。
どれも人間の世界にあるものだ。
実際は俺たち人間の暮らしと変わらないのかも。
「となりがオレとヴィルの部屋だから」
「な、何か困ったことがあったらいつでも呼んでください」
「うん、ありがとう」
不服そうに腕組みをするグリムの隣に、ヴィルはオドオドしながら立っている。
彼女と目を合わせると、なぜか視線を逸らされる。
まだ警戒されているのだろうか。
別に慣れ合うつもりはなかったけど、これから一年半を一緒に過ごす間柄だ。
円滑な修行生活を送るためにも、最低限はコミュニケーションをとるべきだろう。
「二人は一緒の部屋なんだな」
「なんだよ? 文句でもあんのか?」
「別に文句はないよ。仲いいなとおもって。二人は姉妹?」
「えっと、双子……です。人間でいうところの」
ヴィルがもじもじしながらそう答えた。
双子は予想通り。
けど、その後に続いた一言が気になって疑問の視線を向ける。
するとグリムが答える。
「オレたちは夢魔なんだよ。夢魔っていうのは誰かの夢から生まれるんだ」
「夢から?」
「そうだよ。オレとヴィルは同じ夢から生まれた夢魔だ」
「なるほど、だから双子か」
人間と同じように、生みの親が同じ。
ただし人間と異なるのは、彼女たちが夢を司る悪魔であること。
夢から生まれるなんて、いかにも異世界チックだ。
「そういうお前はどうなんだよ」
「ん? 俺は上に兄がいる」
「そうじゃなくて前の話だ! じいさんが言ってたぞ? お前、転生者なんだってな」
「ああ、そっちの話か」
戦いが終わってから、先生に俺のことを聞いていたグリム。
先生は俺が転生者であることを教えていた。
別に隠しているわけじゃないから問題ない。
「こことは別の世界から来たんだよな? どんな世界だったんだ?」
「普通だよ普通。魔術も何もない。俺が生まれた国も時代も平和だった」
「へぇー、人間にとってはいいことじゃないのか?」
「普通は……な」
今だからハッキリ思える。
あの世界で、俺は異端だった。
異常者と表現してもしっくりきてしまう。
戦争は悪いことで、死は恐ろしいもの。
一般常識は理解していながら、俺の魂は否定していた。
魂は戦いを求め、目的のためなら命もいらない。
本気でそう思っていたんだ。
「俺には……こっちの世界のほうが合っているよ」
生死の価値はまだわからない。
けれどこの世界は、思いっきり戦うことができる。
強さを求めることを誰も否定しない。
「元の世界は窮屈だった。こっちは自由に生きられる」
「ふぅーん。でもお前貴族なんだろ? 人間の貴族っていろいろメンドクサイって聞くぜ?」
「その辺はまぁ、上手くやるよ。よくも悪くも、学園を卒業するまでの辛抱だ。俺は家を継ぐわけじゃないから」
「一年半後に一回戻るんだっけか? その後はどうするんだよ」
「……まだ、決めてない」
学園を卒業した時、果たして俺はどこまで理想に近づけているだろうか。
まだ何年も先の話でうまくイメージできない。
「学校……か。どんなとこなんだろうな」
「行ったことないのか?」
「当たり前だろ? オレたちは生まれてからずっと魔王城いるんだよ」
「そうだったのか」
じゃあ二人を生んだ夢の主って、魔王城にいた誰かなのか?
グリムの強さの秘密……少し興味はある。
そうこうしながら案内を続けて、最後の部屋にたどり着く。
と言っても知っている部屋だ。
王座の間と呼ばれている魔王が普段いる部屋。
魔王城の一番上にあって、扉も大きくて仰々しい。
グリムが片手をかざすと、またしても扉は勝手に開いた。
「案内終わったぜー」
「おう、ご苦労様」
「おかえりなさい。三人とも」
王座には魔王が座り、その傍らに先生が立っていた。
「どうだったかしら? あたしの城は」
「広かった。それに頑丈そうだ」
「ええ、世界で一番硬い城よ」
「じゃあピッタリだ。ここなら思いっきり刀を振るえる」
俺は先生と視線を合わせる。
先生と離れたくなくて無理やりついてきた。
我ながら大胆なことをしたと思う。
この選択は、間違いじゃない。
「これからもご指導よろしくお願いします! 先生」
「おう」
「それと、これからお世話になります」
「ええ、楽しくやりましょう」
こうして俺の……新しい生活が始まる。
おそらく史上初となる。
人間の少年が、魔王城で共に暮らすのは。
俺はグリムとヴィルに魔王城の中を案内してもらうことになった。
「ここがお前の部屋だ」
「広いな」
最初に案内されたのは、俺がこれから睡眠をとる部屋だった。
黒い扉を開けた先には、貴族の屋敷顔負けの広々とした部屋が用意されている。
ベッドも大きくて布団はフカフカだ。
悪魔の部屋だから、もっとゴツゴツして禍々しい場所をイメージしていた。
他にも窓ガラスにカーテン。
衣装台や鏡があったり、おしゃれたソファーも用意されている。
どれも人間の世界にあるものだ。
実際は俺たち人間の暮らしと変わらないのかも。
「となりがオレとヴィルの部屋だから」
「な、何か困ったことがあったらいつでも呼んでください」
「うん、ありがとう」
不服そうに腕組みをするグリムの隣に、ヴィルはオドオドしながら立っている。
彼女と目を合わせると、なぜか視線を逸らされる。
まだ警戒されているのだろうか。
別に慣れ合うつもりはなかったけど、これから一年半を一緒に過ごす間柄だ。
円滑な修行生活を送るためにも、最低限はコミュニケーションをとるべきだろう。
「二人は一緒の部屋なんだな」
「なんだよ? 文句でもあんのか?」
「別に文句はないよ。仲いいなとおもって。二人は姉妹?」
「えっと、双子……です。人間でいうところの」
ヴィルがもじもじしながらそう答えた。
双子は予想通り。
けど、その後に続いた一言が気になって疑問の視線を向ける。
するとグリムが答える。
「オレたちは夢魔なんだよ。夢魔っていうのは誰かの夢から生まれるんだ」
「夢から?」
「そうだよ。オレとヴィルは同じ夢から生まれた夢魔だ」
「なるほど、だから双子か」
人間と同じように、生みの親が同じ。
ただし人間と異なるのは、彼女たちが夢を司る悪魔であること。
夢から生まれるなんて、いかにも異世界チックだ。
「そういうお前はどうなんだよ」
「ん? 俺は上に兄がいる」
「そうじゃなくて前の話だ! じいさんが言ってたぞ? お前、転生者なんだってな」
「ああ、そっちの話か」
戦いが終わってから、先生に俺のことを聞いていたグリム。
先生は俺が転生者であることを教えていた。
別に隠しているわけじゃないから問題ない。
「こことは別の世界から来たんだよな? どんな世界だったんだ?」
「普通だよ普通。魔術も何もない。俺が生まれた国も時代も平和だった」
「へぇー、人間にとってはいいことじゃないのか?」
「普通は……な」
今だからハッキリ思える。
あの世界で、俺は異端だった。
異常者と表現してもしっくりきてしまう。
戦争は悪いことで、死は恐ろしいもの。
一般常識は理解していながら、俺の魂は否定していた。
魂は戦いを求め、目的のためなら命もいらない。
本気でそう思っていたんだ。
「俺には……こっちの世界のほうが合っているよ」
生死の価値はまだわからない。
けれどこの世界は、思いっきり戦うことができる。
強さを求めることを誰も否定しない。
「元の世界は窮屈だった。こっちは自由に生きられる」
「ふぅーん。でもお前貴族なんだろ? 人間の貴族っていろいろメンドクサイって聞くぜ?」
「その辺はまぁ、上手くやるよ。よくも悪くも、学園を卒業するまでの辛抱だ。俺は家を継ぐわけじゃないから」
「一年半後に一回戻るんだっけか? その後はどうするんだよ」
「……まだ、決めてない」
学園を卒業した時、果たして俺はどこまで理想に近づけているだろうか。
まだ何年も先の話でうまくイメージできない。
「学校……か。どんなとこなんだろうな」
「行ったことないのか?」
「当たり前だろ? オレたちは生まれてからずっと魔王城いるんだよ」
「そうだったのか」
じゃあ二人を生んだ夢の主って、魔王城にいた誰かなのか?
グリムの強さの秘密……少し興味はある。
そうこうしながら案内を続けて、最後の部屋にたどり着く。
と言っても知っている部屋だ。
王座の間と呼ばれている魔王が普段いる部屋。
魔王城の一番上にあって、扉も大きくて仰々しい。
グリムが片手をかざすと、またしても扉は勝手に開いた。
「案内終わったぜー」
「おう、ご苦労様」
「おかえりなさい。三人とも」
王座には魔王が座り、その傍らに先生が立っていた。
「どうだったかしら? あたしの城は」
「広かった。それに頑丈そうだ」
「ええ、世界で一番硬い城よ」
「じゃあピッタリだ。ここなら思いっきり刀を振るえる」
俺は先生と視線を合わせる。
先生と離れたくなくて無理やりついてきた。
我ながら大胆なことをしたと思う。
この選択は、間違いじゃない。
「これからもご指導よろしくお願いします! 先生」
「おう」
「それと、これからお世話になります」
「ええ、楽しくやりましょう」
こうして俺の……新しい生活が始まる。
おそらく史上初となる。
人間の少年が、魔王城で共に暮らすのは。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~
夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】
「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」
アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。
理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。
もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。
自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。
王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると
「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」
オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが……
アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。
そして今日も大きなあの声が聞こえる。
「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」
と
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。
最後の大陸
斎藤直
ファンタジー
黄昏を迎えつつある世界。最後の大陸に同居する人類は、それでもなお共生する道を選ばず、醜い争いを続ける。
レイ・カヅラキは誰の言葉も信じないと断言する。
嘘、虚飾、嫉妬そして自尊心を嫌う彼の信念は、歪められた世界に風穴を開けることができるだろうか。
魔法も超絶パワーも奇跡もご都合主義もない世界。等身大の人間たちの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる