17 / 46
第三章 魔界生活
肆
しおりを挟む
俺とグリムは距離を取って向かい合う。
一体魔王城のどこにコロシアムがあったのか疑問だが、広さは十分だ。
修行していた森の中や川辺より広くて障害物もない。
ここなら思いっきり戦える。
他のみんなは邪魔にならないように離れていく。
「そうだ。さっき俺が負けたらの話をしていたけど、そっちが負けたらどうするんだ? お互いリスクが合ったほうが本気で戦えるだろ」
「はん! ありえねーけど、もしオレが負けたらお前のペットにでもなってやるよ」
「ペットか……別にそういう趣味はないんだが」
それが彼女にとってのリスクになるなら別にいいか。
「それでいい。始めよう」
俺は先に腰の刀を抜く。
それを見たグリムが意味深な表情を見せる。
「剣か。それもじいさんに教わったのかよ」
「いいや。先生に教わっているのは魔力の扱い方だ。剣術は自分で身に着けた」
「そうかよ。じゃあとりあえず、小手調べだ」
グリムが地面を蹴る。
その衝撃に地面がひび割れ、一瞬にして俺の頭上にたどり着く。
俺は後方に跳び避ける。
「よく躱したな!」
思った以上に素早い。
それに重い。
躱した彼女の拳は地面に当たり、地面に大きくクレーターができる。
細腕からは想像できないパワーに正直驚いた。
「じゃあもっと上げてくぜ!」
避けた俺に彼女は再接近する。
さっきより一段素早く、気づけば懐に潜り込んでいる。
今度は回避が間に合わない。
懐に目掛けて放たれる拳を、俺は左腕で防御する。
「ぐっ……」
そのまま力負けして吹き飛ばされた。
空中で受け身を取りそのまま着地する。
追撃に備えたが彼女は攻めずにその場で待っていた。
「おいおい、大口叩いてこの程度かよ!」
「……」
またしても驚かされた。
速度とパワーがあがったことより、彼女の身体に触れて気づいた。
俺や先生のように魔力を纏っているわけじゃない。
魔力は体内で高速循環させることで身体能力を向上させることができる。
それと体外での操作を併用することで、先生はドラゴンの硬度を勝る斬撃を放った。
体内での強化は肉体的が限界が生じる。
それを補い、さらなる強さを得るのが体外での操作なのに……。
「それを使わずにこれだけのパワーを発揮できるものなのか?」
これが人間と悪魔の身体的差か?
「違うぞリイン!」
遠くから先生の声が響く。
先生は俺の戸惑いに気付き、アドバイスを口にする。
「グリムは夢魔なんだよ。彼女は夢を体現する悪魔だ」
「夢魔?」
聞いたことはある。
他人の夢に入り込んだり、感情を食べてしまう悪魔の異種だと。
じゃあ今の力は夢魔の能力?
「そうだぜ! オレは自分のイメージをこの身体で体現できるんだ! オレが望めばこの身体は応えてくれる! 今のオレは、オレがイメージする最強の自分だ!」
グリムが地面を割りながら跳躍し、俺目掛けて突進してくる。
さらに速い。
さすがに様子見で刀を使わないのは舐めすぎた。
俺は魔力を全身に纏い、刃も覆うように循環させて受ける。
「今度は吹き飛ばなかったな!」
両足と刀を握る腕に魔力を集中させた。
二度も同じ失敗はしない。
しかしイメージを具現化する力とは、なんでもありだな悪魔は。
「でも、無敵ってわけじゃないだろ?」
「あん?」
彼女の拳を刀で受け止めながら、俺は笑みを浮かべる。
おそらく彼女の能力は自分にしか使えない。
他に影響を与えられるなら、戦いが始まった時点で決着がつく。
なんの対策もしていなかったから。
そしてあくまで、実現できるのは彼女がイメージできる範囲のことだけだ。
「なら、お前の想像を超えてやる!」
「はっ! やってみやがれ!」
拳と刀が弾かれる。
イメージで強化された肉体は、俺の刃も簡単には通さない。
けれど無敵じゃない。
先生は戦う前に言っていた。
今の俺にはちょうどいい相手だと。
それはたぶん、今の俺なら彼女のイメージを超えられるという意味だ。
今度は俺のほうから動く。
地面を蹴り、グリムの正面へ、とみせて右側面へ回る。
一瞬つられたグリムだったが、すぐに体の向きを変えて俺の刀を受ける。
「さっきより速くなったな」
「様子見は終わったからな」
「はっ! けどダメだね。そんな刀じゃオレの身体は通らない!」
「それはどうかな?」
余裕ぶって俺の刃を受け止めている右腕。
しかし次の瞬間、通らないと豪語した刃が彼女の肌を斬る。
「痛っ!」
驚いた彼女は慌てて距離を取る。
回避が速かったから、斬れたのは薄皮一枚。
ツーと彼女の右腕から血が流れる。
血は俺たちと同じ赤色なんだな。
「なんで斬れたんだ? オレは確かに斬れないイメージを」
「鋭いだろ! リインの魔力は特別鋭利だから気を付けたほうがいいぞ?」
先生の声が響く。
今度は俺ではなく、グリムに対するアドバイスだ。
俺も貰ったから文句は言えない。
彼女の力を教えてもらった分、こちらも手の内は晒してもいいだろう。
「魔力……特性か!」
「正解」
俺が教える前に正解にたどり着いてしまった。
ちょっと残念だ。
一体魔王城のどこにコロシアムがあったのか疑問だが、広さは十分だ。
修行していた森の中や川辺より広くて障害物もない。
ここなら思いっきり戦える。
他のみんなは邪魔にならないように離れていく。
「そうだ。さっき俺が負けたらの話をしていたけど、そっちが負けたらどうするんだ? お互いリスクが合ったほうが本気で戦えるだろ」
「はん! ありえねーけど、もしオレが負けたらお前のペットにでもなってやるよ」
「ペットか……別にそういう趣味はないんだが」
それが彼女にとってのリスクになるなら別にいいか。
「それでいい。始めよう」
俺は先に腰の刀を抜く。
それを見たグリムが意味深な表情を見せる。
「剣か。それもじいさんに教わったのかよ」
「いいや。先生に教わっているのは魔力の扱い方だ。剣術は自分で身に着けた」
「そうかよ。じゃあとりあえず、小手調べだ」
グリムが地面を蹴る。
その衝撃に地面がひび割れ、一瞬にして俺の頭上にたどり着く。
俺は後方に跳び避ける。
「よく躱したな!」
思った以上に素早い。
それに重い。
躱した彼女の拳は地面に当たり、地面に大きくクレーターができる。
細腕からは想像できないパワーに正直驚いた。
「じゃあもっと上げてくぜ!」
避けた俺に彼女は再接近する。
さっきより一段素早く、気づけば懐に潜り込んでいる。
今度は回避が間に合わない。
懐に目掛けて放たれる拳を、俺は左腕で防御する。
「ぐっ……」
そのまま力負けして吹き飛ばされた。
空中で受け身を取りそのまま着地する。
追撃に備えたが彼女は攻めずにその場で待っていた。
「おいおい、大口叩いてこの程度かよ!」
「……」
またしても驚かされた。
速度とパワーがあがったことより、彼女の身体に触れて気づいた。
俺や先生のように魔力を纏っているわけじゃない。
魔力は体内で高速循環させることで身体能力を向上させることができる。
それと体外での操作を併用することで、先生はドラゴンの硬度を勝る斬撃を放った。
体内での強化は肉体的が限界が生じる。
それを補い、さらなる強さを得るのが体外での操作なのに……。
「それを使わずにこれだけのパワーを発揮できるものなのか?」
これが人間と悪魔の身体的差か?
「違うぞリイン!」
遠くから先生の声が響く。
先生は俺の戸惑いに気付き、アドバイスを口にする。
「グリムは夢魔なんだよ。彼女は夢を体現する悪魔だ」
「夢魔?」
聞いたことはある。
他人の夢に入り込んだり、感情を食べてしまう悪魔の異種だと。
じゃあ今の力は夢魔の能力?
「そうだぜ! オレは自分のイメージをこの身体で体現できるんだ! オレが望めばこの身体は応えてくれる! 今のオレは、オレがイメージする最強の自分だ!」
グリムが地面を割りながら跳躍し、俺目掛けて突進してくる。
さらに速い。
さすがに様子見で刀を使わないのは舐めすぎた。
俺は魔力を全身に纏い、刃も覆うように循環させて受ける。
「今度は吹き飛ばなかったな!」
両足と刀を握る腕に魔力を集中させた。
二度も同じ失敗はしない。
しかしイメージを具現化する力とは、なんでもありだな悪魔は。
「でも、無敵ってわけじゃないだろ?」
「あん?」
彼女の拳を刀で受け止めながら、俺は笑みを浮かべる。
おそらく彼女の能力は自分にしか使えない。
他に影響を与えられるなら、戦いが始まった時点で決着がつく。
なんの対策もしていなかったから。
そしてあくまで、実現できるのは彼女がイメージできる範囲のことだけだ。
「なら、お前の想像を超えてやる!」
「はっ! やってみやがれ!」
拳と刀が弾かれる。
イメージで強化された肉体は、俺の刃も簡単には通さない。
けれど無敵じゃない。
先生は戦う前に言っていた。
今の俺にはちょうどいい相手だと。
それはたぶん、今の俺なら彼女のイメージを超えられるという意味だ。
今度は俺のほうから動く。
地面を蹴り、グリムの正面へ、とみせて右側面へ回る。
一瞬つられたグリムだったが、すぐに体の向きを変えて俺の刀を受ける。
「さっきより速くなったな」
「様子見は終わったからな」
「はっ! けどダメだね。そんな刀じゃオレの身体は通らない!」
「それはどうかな?」
余裕ぶって俺の刃を受け止めている右腕。
しかし次の瞬間、通らないと豪語した刃が彼女の肌を斬る。
「痛っ!」
驚いた彼女は慌てて距離を取る。
回避が速かったから、斬れたのは薄皮一枚。
ツーと彼女の右腕から血が流れる。
血は俺たちと同じ赤色なんだな。
「なんで斬れたんだ? オレは確かに斬れないイメージを」
「鋭いだろ! リインの魔力は特別鋭利だから気を付けたほうがいいぞ?」
先生の声が響く。
今度は俺ではなく、グリムに対するアドバイスだ。
俺も貰ったから文句は言えない。
彼女の力を教えてもらった分、こちらも手の内は晒してもいいだろう。
「魔力……特性か!」
「正解」
俺が教える前に正解にたどり着いてしまった。
ちょっと残念だ。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
最後の大陸
斎藤直
ファンタジー
黄昏を迎えつつある世界。最後の大陸に同居する人類は、それでもなお共生する道を選ばず、醜い争いを続ける。
レイ・カヅラキは誰の言葉も信じないと断言する。
嘘、虚飾、嫉妬そして自尊心を嫌う彼の信念は、歪められた世界に風穴を開けることができるだろうか。
魔法も超絶パワーも奇跡もご都合主義もない世界。等身大の人間たちの物語。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる