異世界ブシロード ~チートはいらないから剣をくれ!~

日之影ソラ

文字の大きさ
上 下
17 / 46
第三章 魔界生活

しおりを挟む
 俺とグリムは距離を取って向かい合う。
 一体魔王城のどこにコロシアムがあったのか疑問だが、広さは十分だ。
 修行していた森の中や川辺より広くて障害物もない。
 ここなら思いっきり戦える。
 他のみんなは邪魔にならないように離れていく。

「そうだ。さっき俺が負けたらの話をしていたけど、そっちが負けたらどうするんだ? お互いリスクが合ったほうが本気で戦えるだろ」
「はん! ありえねーけど、もしオレが負けたらお前のペットにでもなってやるよ」
「ペットか……別にそういう趣味はないんだが」

 それが彼女にとってのリスクになるなら別にいいか。
 
「それでいい。始めよう」

 俺は先に腰の刀を抜く。
 それを見たグリムが意味深な表情を見せる。

「剣か。それもじいさんに教わったのかよ」
「いいや。先生に教わっているのは魔力の扱い方だ。剣術は自分で身に着けた」
「そうかよ。じゃあとりあえず、小手調べだ」

 グリムが地面を蹴る。
 その衝撃に地面がひび割れ、一瞬にして俺の頭上にたどり着く。
 俺は後方に跳び避ける。

「よく躱したな!」

 思った以上に素早い。
 それに重い。
 躱した彼女の拳は地面に当たり、地面に大きくクレーターができる。
 細腕からは想像できないパワーに正直驚いた。
 
「じゃあもっと上げてくぜ!」

 避けた俺に彼女は再接近する。
 さっきより一段素早く、気づけば懐に潜り込んでいる。
 今度は回避が間に合わない。
 懐に目掛けて放たれる拳を、俺は左腕で防御する。

「ぐっ……」

 そのまま力負けして吹き飛ばされた。
 空中で受け身を取りそのまま着地する。
 追撃に備えたが彼女は攻めずにその場で待っていた。

「おいおい、大口叩いてこの程度かよ!」
「……」

 またしても驚かされた。
 速度とパワーがあがったことより、彼女の身体に触れて気づいた。
 俺や先生のように魔力を纏っているわけじゃない。
 魔力は体内で高速循環させることで身体能力を向上させることができる。
 それと体外での操作を併用することで、先生はドラゴンの硬度を勝る斬撃を放った。
 体内での強化は肉体的が限界が生じる。
 それを補い、さらなる強さを得るのが体外での操作なのに……。

「それを使わずにこれだけのパワーを発揮できるものなのか?」

 これが人間と悪魔の身体的差か?

「違うぞリイン!」

 遠くから先生の声が響く。
 先生は俺の戸惑いに気付き、アドバイスを口にする。

「グリムは夢魔なんだよ。彼女は夢を体現する悪魔だ」
「夢魔?」

 聞いたことはある。
 他人の夢に入り込んだり、感情を食べてしまう悪魔の異種だと。
 じゃあ今の力は夢魔の能力?

「そうだぜ! オレは自分のイメージをこの身体で体現できるんだ! オレが望めばこの身体は応えてくれる! 今のオレは、オレがイメージする最強の自分だ!」

 グリムが地面を割りながら跳躍し、俺目掛けて突進してくる。
 さらに速い。
 さすがに様子見で刀を使わないのは舐めすぎた。
 俺は魔力を全身に纏い、刃も覆うように循環させて受ける。
 
「今度は吹き飛ばなかったな!」

 両足と刀を握る腕に魔力を集中させた。
 二度も同じ失敗はしない。
 しかしイメージを具現化する力とは、なんでもありだな悪魔は。
 
「でも、無敵ってわけじゃないだろ?」
「あん?」

 彼女の拳を刀で受け止めながら、俺は笑みを浮かべる。
 おそらく彼女の能力は自分にしか使えない。
 他に影響を与えられるなら、戦いが始まった時点で決着がつく。
 なんの対策もしていなかったから。
 そしてあくまで、実現できるのは彼女がイメージできる範囲のことだけだ。

「なら、お前の想像を超えてやる!」
「はっ! やってみやがれ!」

 拳と刀が弾かれる。
 イメージで強化された肉体は、俺の刃も簡単には通さない。
 けれど無敵じゃない。
 先生は戦う前に言っていた。
 今の俺にはちょうどいい相手だと。
 それはたぶん、今の俺なら彼女のイメージを超えられるという意味だ。

 今度は俺のほうから動く。
 地面を蹴り、グリムの正面へ、とみせて右側面へ回る。
 一瞬つられたグリムだったが、すぐに体の向きを変えて俺の刀を受ける。

「さっきより速くなったな」
「様子見は終わったからな」
「はっ! けどダメだね。そんな刀じゃオレの身体は通らない!」
「それはどうかな?」

 余裕ぶって俺の刃を受け止めている右腕。
 しかし次の瞬間、通らないと豪語した刃が彼女の肌を斬る。

「痛っ!」 

 驚いた彼女は慌てて距離を取る。
 回避が速かったから、斬れたのは薄皮一枚。
 ツーと彼女の右腕から血が流れる。
 
 血は俺たちと同じ赤色なんだな。

「なんで斬れたんだ? オレは確かに斬れないイメージを」
「鋭いだろ! リインの魔力は特別鋭利だから気を付けたほうがいいぞ?」

 先生の声が響く。
 今度は俺ではなく、グリムに対するアドバイスだ。
 俺も貰ったから文句は言えない。
 彼女の力を教えてもらった分、こちらも手の内は晒してもいいだろう。

「魔力……特性か!」
「正解」

 俺が教える前に正解にたどり着いてしまった。
 ちょっと残念だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で一番の紳士たれ!

だんぞう
ファンタジー
十五歳の誕生日をぼっちで過ごしていた利照はその夜、熱を出して布団にくるまり、目覚めると見知らぬ世界でリテルとして生きていた。 リテルの記憶を参照はできるものの、主観も思考も利照の側にあることに混乱しているさなか、幼馴染のケティが彼のベッドのすぐ隣へと座る。 リテルの記憶の中から彼女との約束を思いだし、戸惑いながらもケティと触れ合った直後、自身の身に降り掛かった災難のため、村人を助けるため、単身、魔女に会いに行くことにした彼は、魔女の館で興奮するほどの学びを体験する。 異世界で優しくされながらも感じる疎外感。命を脅かされる危険な出会い。どこかで元の世界とのつながりを感じながら、時には理不尽な禍に耐えながらも、自分の運命を切り拓いてゆく物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...