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第三章 魔界生活

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 睨んでいるほうがぼそりという。

「おい……なんで人間がここにいるんだよ」
「に、人間? 本当に?」
「久しぶりだな、グリム」
「あ! 爺さんじゃん! 帰ってきてたんだ!」

 俺を睨んでいた少女は、今さら先生の存在に気付いたらしい。
 途端に可愛らしく笑顔になって、先生の前まで駆け寄ってきた。

「元気そうだな」
「もちろん! オレはいつでも元気だぜ!」

 こっちの長い髪を後ろで結び、少年チックに見える子がグリムという名前らしい。
 一人称はオレだけど、たぶん女の子だ。
 そしてもう一人、俺に驚いてオドオドしている子がヴィルか。

「お、お帰りなさいませ。おじさま」
「ヴィルも久しぶりだ。ワシがいない間寂しくなかったか」
「めっちゃ寂しがってたぜ! 爺さんがいないとピーピー泣くんだ」
「そ、そんなことないよお姉ちゃん!」

 ヴィルはアワアワしながら否定する。
 やっぱりこの二人は姉妹なのか?
 姉がグリムで、妹がヴィルのほう?
 姉妹にしては容姿が似すぎている……ほとんど髪型と……あとは体系の一部の差か。
 身長とか顔つきは一緒だ。

「相変わらず仲いいな。その調子でこいつとも仲良くしてやってくれ」
「――こいつって、じいさんが連れてきたのか? この人間」
「おう。ワシの弟子だ」
「で、弟子? おじいさまの」

 二人は改めて俺を見る。
 変わらずグリムのほうは俺を睨み、ヴィルは驚きながらじーっと見ている。
 いきなり人間が魔王城にいたら当然驚く。
 二人の反応は何らおかしくない。
 ここは大人らしく、礼儀をしっかり見せよう。
 年齢的には十三歳だけど、前世も含めたら三十代だしな。

「リイン・ウェルトです。これからしばらくお世話になります。よろしくお願いします」

 俺は頭を下げた。

「よ、よろしくお願いします」

 ヴィルのほうは応えるようにお辞儀をしてくれた。
 問題はもう一人。
 明らかに俺の存在を認めないぞと睨んでいたグリムだ。

「ちょっとじいさん、こんなのがホントに弟子なの? 小間使いの間違いじゃなくて?」
「……」
「おいおい酷いこというな。こいつは人間だが見どころがある」
「えぇ~ オレには弱そうなガキンちょにしか見えないけどな~」
「……」

 俺は葛藤していた。
 今日からここでお世話になるんだ。
 部外者である俺を快く思わない者がいる。
 別に不自然じゃない。
 種族だって違うんだから当然だ。
 文句があるなら甘んじて受け入れなければならない。
 そう、俺が我慢すればいいんだ。
 多少何を言われても気にしなければ……。

「こんな弱そうな子供、うちで暮らすなんて無理じゃないの?」
「――お前のほうが子供だろ」

 無理でした。
 どうやら俺は、子供に子供扱いされたり、弱いと馬鹿にされるのが我慢できないらしい。
 気づけば苛立ちが声に漏れていた。

「は? オレに言ってんのか?」
「他に誰がいる? チンチクリンはお前だけだろ」
「チン! なんだと! 人間のガキの癖に!」
「お前のほうがガキだろう! 見た目どうみても俺より年下じゃないか!」
「残念でした! オレは悪魔だぞ! 見た目と年齢は比例しない! オレはお前ら人間の成人年齢を超えてるだよ!」
「だったら俺も前世を含めたら三十歳超えてるからな!」

 自分でも後から馬鹿らしいと思える言い争い。
 その横で、魔王が先生に尋ねる。

「前世って言ってるけど、あの子転生者なの?」
「おう。女神から力を貰えるっていうのに、必要ないからって放棄したらしいぞ。面白いだろ?」
「へぇ、面白いわね。だから気に入ったの?」
「まぁな。それだけじゃねーが」

 二人が俺の話をしていることに気付きながら、俺の気持ちは目の前のうるさい子供で手いっぱいだった。

「弱いとか言ってな? 俺から見ればお前のほうがよっぽど弱そうだぞ」
「どこがだよ! オレの強さがわからないなんて節穴だな!」
「そっちこそだろ!」
「ちっ! じゃあ見せてみろよ! お前がちゃんと強いのかどうか!」
「あ! いいわねそれ!」

 パンと手を叩く音が響く。
 手を叩いたのは魔王アスタロト。
 音が鳴った直後、俺たちはコロシアムの中心にいた。

「え?」
「魔王様?」
「ちょうどいいわ。ここで戦って見せてもらおうじゃない」

 魔王が俺たちを一緒で移動させた?
 手を叩いただけで?
 どういう術式を持ってるんだ?

「そうだな。戦えリイン、今のお前にはちょうどいい相手だ」
「先生……まぁ先生が言うなら」

 俺はグリムと視線を合わせる。

「戦ってやるよ」
「そうこなくっちゃな! オレが勝ったら、お前はオレのペットにしてやるよ」
「……」
「何だよその顔? 怖気づいたのか?」

 俺はキョトンとした表情をしていた。
 その理由は意外だったからだ。

「てっきりここから出て行けって言われると思ったんだけど」
「は? ここ魔界だぞ? 一人で帰れるわけねーじゃん」
「……お前、意外といい奴なのか」
「はぁ? 誰がいい奴だよ! 負けたら首輪つけて散歩してやるからな!」

 ガミガミ言いながら滞在は最初から認めてくれている。
 しかも帰り道を心配って……。
 口うるさくて子供っぽいけど、思いやりの気持ちはあるらしい。
 本人は不服そうだが。

「いいからかかってこいよ! 弱腰なら吹き飛ばして人間界に戻してやるよ!」
「それはないな」

 もしかすると案外、仲良くなれるかもしれない。
 戦う前からそんな予感がして、少しだけ楽しくなった。
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