異世界ブシロード ~チートはいらないから剣をくれ!~

日之影ソラ

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第一章 異世界の剣士

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 いつものように中庭で稽古をしていると、バタバタと慌ただしい足音が近づく。

「リイン! 俺と勝負しやがれ!」
「えぇ……またなの? 兄さん」
「今日こそお前を倒してやるから覚悟しろよ!」
「いや……やるとは一言も……まぁいいや」

 兄さんとここで最初に戦ってい以来、ほぼ毎日勝負を挑まれるようになった。
 よほどあの敗北が悔しかったらしい。
 俺が診ていないところで魔術の特訓をして、めきめきと実力を上げている。
 もっとも、今日まで一度も負けたことはないけど。

「次だ! もう一本!」
「今日はここまでだよ。あんまり同じ人とばかり戦うと癖がつくから嫌なんだ」
「関係あるか! 俺が勝つまで続けるんだよ!」
「勘弁してよ……」

 何度敗れても立ち上がり、諦めない根性は認めざるを得ない。
 和が兄ながらあっぱれだ。
 剣術を馬鹿にすることもなくなったし、少しは日常会話も増えた気がする。
 これはこれで悪くない関係……なのかな?

「くそっ! あと少しで勝てそうなのによぉ!」
「まだまだ負けないよ」
「けっ! そうやって余裕ぶってろよ。すぐにぶった押してやるからな!」

 そう言い残して去って行く兄さんの後姿に、俺はぼそりと本音を漏らす。

「余裕なんてない」

 正直、俺は焦っていた。
 確実に強くなる兄さんに対して?
 いいや、自分自身のことだ。
 あれから毎日特訓して、俺自身剣術に磨きはかかっている。
 背丈も伸びて、転生前の状態に近づいた。
 今の俺は、転生前の俺よりもはるかに強くなっている。

「……さてと」

 夜まで待って、みんなが寝静まる時間帯になる。
 誰もが寝息を立てる中、ひっそりと小さく足音を立てて屋敷を抜け出す。
 向かった先は森の奥にある渓谷だ。
 ここは普段、強い魔物がたくさんいるから近づかないようにと言われていた。
 俺はあえてそこに踏み入る。
 目的はもちろん、魔物と戦うことだ。

「いた! オオムカデの魔物!」

 確か名前はチャグロオオムカデだったか。
 像を超える巨大な体に、強靭な甲殻。
 口からは酸性の粘液を出す。
 きわめて厄介な相手だ。
 俺はあえて音をたててムカデに気付かせる。

「気づいたな?」

 俺は腰の刀に手をかける。
 この刀は俺が唯一持つ術式で作り出したものだ。
 俺の【剣製術式】は、消費する魔力の量、生み出す剣の大きさによって強度や切れ味が変わる。
 肉体の成長と共に増える魔力、一日に生成できる全てを注ぎ込んだ一振りだ。
 強靭なムカデの外殻も斬れる。

 野太刀自顕流。
 幕末の下級剣士に好まれた流派であり、かの新選組を震撼させた西国最強の流派。
 防御の型はなく、相手を叩き斬ることのみに特化した剣術。
 その神髄は、即抜斬!
 抜けば必殺、最速の――

「抜刀!」

 襲い掛かろうとするムカデよりも早く、刀を抜いて斬り裂く。
 硬い外殻の奥にある本体ごと両断し、ムカデの頭が真っ二つに切断されボトンと落下する。

「ふぅ……」

 魔物相手でも恐怖は感じない。
 ただ空しさが残る。
 どうしてだろう?
 確実に強くはなっているのに、なぜだかしっくりこない。
 
 俺は右手をグーパーしながら己の身体を確かめる。

 女神様によって手に入れたこの肉体は強靭だ。
 筋力訓練は前世でもやっていたけど、これほど力がついたことはない。
 まだ当時の年齢に届いていないのに、あの頃よりもはるかに強い力が宿っている。
 反射速度も、柔軟性も、元の世界だったら陸上競技全てにオリンピックに出れるし、余裕で金メダルだろう。
 加えて魔力だ。
 辺境でも貴族の出身だからということもあって、常人を遥かに超える速度で魔力が増えている。
 これも女神様のおかげだろう。
 攻撃の瞬間に魔力を放出することで、斬撃の威力は大幅に上昇する。
 今の俺なら、鋼鉄の塊だって両断できそうだ。
 
 それなのに……。

「なんだ? この違和感は?」

 今のままじゃダメだと、本能が警告している。
 地道に剣術を磨き、実戦経験を積んでも、最強には届かない。
 元の世界ならともかく、この世界では……。
 誰に指摘されたわけでもないのに、そんな漠然敵な不安が消えなかった。
 俺はこのモヤモヤを発散したくて、両親に内緒で夜な夜な魔物狩りをしている。
 
「と言っても、この辺りの魔物は大体戦ったしな。新しい狩場でも――」

 その時だった。
 月明かりが突如として掻き消える。
 夜の中にある漆黒。
 目に見えて大きすぎるそれは翼を広げ、俺の頭上を飛んでいる。

 噂には聞いていた。
 いることは知っていた。
 けれどこんな場所で巡り合うなんて予想外だ。

 この世界の魔物の頂点。
 全生物、生態系のトップに君臨する最強の生物。

「――ドラゴン!」
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