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翌日。
私は動物たちと戯れる。
日をまたぐごとに動物の数が増えていた。
森には私が思っていた以上にたくさんの動物たちが暮らしている。
たくさんの動物たちに囲まれて、ここはまさに天国だ。
「ミャオ」
「ベル?」
手を膝にチョンと乗せる。
また誰か見ていると。
アイセ様が私たちのことを観察していた。
今度は外に出て。
「やっぱり……」
羨ましそうに見える。
さらに次の日。
「……」
アイセ様は仕事の合間に何度も別宅の近くを通り過ぎる。
その度にこっちをチラチラ見ていた。
さすがに気になる。
私だけじゃなくて動物たちも意識していた。
また通りかかる。
「みゃー」
「ミャーオー」
「プル? ベル?」
突然二匹が走り出し、アイセ様の元へ向かった。
二匹とも興奮しているわけじゃない。
襲い掛かるわけではなく、足元ですり寄る。
心配になった。
もしアイセ様が動物も嫌いなら、二匹がひどい目に合うんじゃないかと。
けど、不安は杞憂だった。
「ふっ」
アイセ様が笑った。
プルとベルにすり寄られて、氷のようだった表情が温かく溶けた。
その瞬間、疑問の答えを得る。
「動物、お好きなんですね」
「――!」
ビクッと身体を震わせる。
図星だったみたいだ。
アイセ様は目を逸らしながら言う。
「……悪いか?」
「いえ、そんなことは。ちょっと意外ではありますけど」
「……」
「触ってもいいと思いますよ。プルとベルも、待っています」
触りたいという気持ちが全身から出ている。
二匹とも警戒していないし、触ってあげたほうが喜ぶ。
私のお友達は本能的に、その人間がいい人かどうか見分けられる。
プルとベルが心を許したのなら……。
「撫でてあげてください」
「そ、そうか」
この人はたぶん、いい人なのだろう。
だって初めて、プルとベルが私以外に頭を撫でさせたから。
「気持ちいいな」
「そうでしょう?」
「みゃーあ」
「マオ」
気持ちよさそうな二匹と、それを見て微笑む氷の公爵様。
どこが氷なんだか。
私がアイセ様に近づくと、他の動物たちも集まってくる。
「この動物たちは皆そうなのか?」
「私のお友達です」
「そうか。初めてだな。俺を怖がらずに近寄ってくるのは」
「私で慣れていますからね」
「……いや、君もだ」
アイセ様は私と視線を合わせる。
不思議な瞳でじっと見つめる。
「君は怖がらないんだな」
「それは私が言うべきことではありませんか? アイセ様こそ、私が怖くありませんか」
「あの噂か? あいにく俺は信じてない。そもそも嘘だろう? あの噂は」
驚いた。
噂を知って、それを嘘だと確信している目だ。
「どうしてわかるんですか?」
「俺が本物を持っているからだ」
「え?」
「……どうやら君は知らないらしいな。俺の眼のことを」
「眼……?」
彼の眼には秘密があった。
人の心を見透かす……本物の眼を彼は持っていた。
私は動物たちと戯れる。
日をまたぐごとに動物の数が増えていた。
森には私が思っていた以上にたくさんの動物たちが暮らしている。
たくさんの動物たちに囲まれて、ここはまさに天国だ。
「ミャオ」
「ベル?」
手を膝にチョンと乗せる。
また誰か見ていると。
アイセ様が私たちのことを観察していた。
今度は外に出て。
「やっぱり……」
羨ましそうに見える。
さらに次の日。
「……」
アイセ様は仕事の合間に何度も別宅の近くを通り過ぎる。
その度にこっちをチラチラ見ていた。
さすがに気になる。
私だけじゃなくて動物たちも意識していた。
また通りかかる。
「みゃー」
「ミャーオー」
「プル? ベル?」
突然二匹が走り出し、アイセ様の元へ向かった。
二匹とも興奮しているわけじゃない。
襲い掛かるわけではなく、足元ですり寄る。
心配になった。
もしアイセ様が動物も嫌いなら、二匹がひどい目に合うんじゃないかと。
けど、不安は杞憂だった。
「ふっ」
アイセ様が笑った。
プルとベルにすり寄られて、氷のようだった表情が温かく溶けた。
その瞬間、疑問の答えを得る。
「動物、お好きなんですね」
「――!」
ビクッと身体を震わせる。
図星だったみたいだ。
アイセ様は目を逸らしながら言う。
「……悪いか?」
「いえ、そんなことは。ちょっと意外ではありますけど」
「……」
「触ってもいいと思いますよ。プルとベルも、待っています」
触りたいという気持ちが全身から出ている。
二匹とも警戒していないし、触ってあげたほうが喜ぶ。
私のお友達は本能的に、その人間がいい人かどうか見分けられる。
プルとベルが心を許したのなら……。
「撫でてあげてください」
「そ、そうか」
この人はたぶん、いい人なのだろう。
だって初めて、プルとベルが私以外に頭を撫でさせたから。
「気持ちいいな」
「そうでしょう?」
「みゃーあ」
「マオ」
気持ちよさそうな二匹と、それを見て微笑む氷の公爵様。
どこが氷なんだか。
私がアイセ様に近づくと、他の動物たちも集まってくる。
「この動物たちは皆そうなのか?」
「私のお友達です」
「そうか。初めてだな。俺を怖がらずに近寄ってくるのは」
「私で慣れていますからね」
「……いや、君もだ」
アイセ様は私と視線を合わせる。
不思議な瞳でじっと見つめる。
「君は怖がらないんだな」
「それは私が言うべきことではありませんか? アイセ様こそ、私が怖くありませんか」
「あの噂か? あいにく俺は信じてない。そもそも嘘だろう? あの噂は」
驚いた。
噂を知って、それを嘘だと確信している目だ。
「どうしてわかるんですか?」
「俺が本物を持っているからだ」
「え?」
「……どうやら君は知らないらしいな。俺の眼のことを」
「眼……?」
彼の眼には秘密があった。
人の心を見透かす……本物の眼を彼は持っていた。
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