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「今度のお相手は聞きましたか?」
「そういえば、まだ聞いていなかったわね」
「あら? そんなんですね。だったら私が教えてあげます。なんと、あの冷徹で有名な公爵様ですよ」
「冷徹……? ああ、リンドブルム公爵家の」

 氷の公爵。
 そう呼ばれている人物がいるという噂があった。
 極度の人間嫌いで、王都の貴族でありながら、この地を離れて辺境で暮らしているとか。
 だから私にも王都を出るように言われたのね。
 それにしても、人間に嫌われる私の相手に、人間嫌いの公爵を当てるなんて……。

「うまくいくと思っているのかしら」

 お父様もお相手もどうかしているわ。
 これは最短日数で戻ってくることになりそうね。

「お姉さまがいなくなってしまうなんて寂しいです」
「そう」

 思ってもいないでしょう?

「この子たちも一緒に行ってしまうんですよね」

 リベルはベッドの下へと近づく。
 彼女は私と正反対だ。

「シャー!」
「まー怖い。まるでお姉さまみたいですね」

 二匹は近づいたリベルに威嚇をしている。
 何度顔を合わせてもこれだ。
 リベルは動物には心底嫌われるらしい。
 表面には見えない腹黒さを動物は感じ取っているのかもしれない。
 ただ、彼女自身は気にしていない様子で、嫌われても関係ないと言わんばかりに笑顔を見せる。

「それじゃあ私は行きますね。お姉さまは頑張ってください」
「ええ、あなたもね」
「はい。では……さようなら」

 最後にとびきりの嫌な笑顔を見せるリベル。
 彼女とは容姿は似ているけど、性格も生き方も正反対に近い。
 小さいころから私のことが嫌いらしくて、仲良くできなかった。
 この屋敷に私の味方といえる人間は一人もいない。
 生まれた場所なのに、どうしてこうも居心地が悪いのだろうか。

「どこかにないかしら……私が安らげる場所は」

 実はやりたいことはある。
 でも、今の私には到底できそうにない。
 いつか、このしがらみから解放される日が来たら……。
 来るかわからない未来を思い浮かべ、私は明日のための荷造りをする。
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