3 / 9
3
しおりを挟む
プルとベル、二匹の猫だけじゃない。
私はとにかく動物には好かれる。
外を歩けば小鳥が肩に乗り、人間になれていない野生の動物ですら警戒せずに近寄ってくる。
獰猛な肉食動物も、私の前ではただの愛玩動物になる。
理由はよくわからない。
動物に好かれる香りでも発しているのだろうか。
それとも人間に嫌われることを引き換えに、動物には好かれる特別な力でもあるのだろうか。
「ねぇ、どうなの? どうして私を選んだの?」
「みぃー」
「ミャー!」
「ふふっ、わからないわね」
動物の言葉がわかるわけじゃない。
好意を示してくれていることはハッキリ伝わる。
二匹の頭を撫でてあげる。
「あなたたちがいれば……いいわ」
いくら人間に嫌われようと、こうしてすり寄ってくれる猫たち。
他にも外に出れば愉快な仲間たちはたくさんいる。
動物にすがる寂しい女ですって?
それでいいのよ。
私は何も、人間には期待していない。
もう、何も期待できない。
私の肩書だけで集まって、瞳の不気味さだけで離れていくような人たちに何を期待することがあるの?
トントントン――
唐突に扉をノックする音が聞こえる。
プルとベルはビクッと反応して、再びベッドに下に潜り込む。
「フリルヴェール、私だ」
お父様の声だ。
二匹がそそくさと隠れた理由がよくわかる。
私もあまり気が乗らないけど、部屋まで訪ねてきたのに無視はできないわね。
「どうぞお入りください」
扉を開け、お父様が顔を出す。
私にはまったく似ていない。
髪の色も、目の色も、漂う雰囲気も何一つ。
だけど私たちが血のつながった親子だ。
自分でも疑いたくなるけど。
「どうかなさいましたか? お父様」
「先ほど聞いたと思うが、婚約の件は白紙に戻ったようだな」
「ええ、破棄するとお聞きしました」
「……これで何度目かわかっているのか?」
「五回目です」
お父様の表情が険しくなっていく。
私は依然として普段通りに、ニコやかに接する。
「……はぁ、なぜ平然としていられる? 我がジルムット家は名門だ。その家の長女が五回も婚約の話を破談にされているというのに」
「五回も、同じ理由で破棄されているのです。慣れてしまいましたわ」
「それでは困るのだ。お前は早々に婚約し、この屋敷を出て行きなさい」
「私もそうしたいと思っていますわ」
この人も、私のことが嫌いだ。
実の娘なのに、憎たらしいと心底思っている。
肉親にも嫌われるなんて、本当に私って何者なのかしら?
「そうか。ならば私としても都合がいい。次の婚約の相手を用意した。早急に準備しなさい」
「準備? また顔合わせですか?」
「そうだが、これまでとは違う。すでに先方はお前との婚約を了承済みだ」
「あら、珍しいですね」
いつもなら考える時間がほしいと言われ、一週間ほど時間をあけたり、一度会ってから決めることがほとんどだった。
六人目の婚約者はよほど肝が据わっているのか……。
それとも単に権力しか見ていないのか。
どちらにしても、こういう場合は長続きしない。
「この部屋を出る準備をしなさい。お前には明日から、婚約者のもとで暮らしてもらう」
「明日から? 唐突ですね」
「だから急げと言っている。今日中に荷物をまとめておきなさい。もちろん、その寝床の下にいる汚らしい動物も一緒だ」
「──!」
お父様はベッドの下に視線を向ける。
私はとにかく動物には好かれる。
外を歩けば小鳥が肩に乗り、人間になれていない野生の動物ですら警戒せずに近寄ってくる。
獰猛な肉食動物も、私の前ではただの愛玩動物になる。
理由はよくわからない。
動物に好かれる香りでも発しているのだろうか。
それとも人間に嫌われることを引き換えに、動物には好かれる特別な力でもあるのだろうか。
「ねぇ、どうなの? どうして私を選んだの?」
「みぃー」
「ミャー!」
「ふふっ、わからないわね」
動物の言葉がわかるわけじゃない。
好意を示してくれていることはハッキリ伝わる。
二匹の頭を撫でてあげる。
「あなたたちがいれば……いいわ」
いくら人間に嫌われようと、こうしてすり寄ってくれる猫たち。
他にも外に出れば愉快な仲間たちはたくさんいる。
動物にすがる寂しい女ですって?
それでいいのよ。
私は何も、人間には期待していない。
もう、何も期待できない。
私の肩書だけで集まって、瞳の不気味さだけで離れていくような人たちに何を期待することがあるの?
トントントン――
唐突に扉をノックする音が聞こえる。
プルとベルはビクッと反応して、再びベッドに下に潜り込む。
「フリルヴェール、私だ」
お父様の声だ。
二匹がそそくさと隠れた理由がよくわかる。
私もあまり気が乗らないけど、部屋まで訪ねてきたのに無視はできないわね。
「どうぞお入りください」
扉を開け、お父様が顔を出す。
私にはまったく似ていない。
髪の色も、目の色も、漂う雰囲気も何一つ。
だけど私たちが血のつながった親子だ。
自分でも疑いたくなるけど。
「どうかなさいましたか? お父様」
「先ほど聞いたと思うが、婚約の件は白紙に戻ったようだな」
「ええ、破棄するとお聞きしました」
「……これで何度目かわかっているのか?」
「五回目です」
お父様の表情が険しくなっていく。
私は依然として普段通りに、ニコやかに接する。
「……はぁ、なぜ平然としていられる? 我がジルムット家は名門だ。その家の長女が五回も婚約の話を破談にされているというのに」
「五回も、同じ理由で破棄されているのです。慣れてしまいましたわ」
「それでは困るのだ。お前は早々に婚約し、この屋敷を出て行きなさい」
「私もそうしたいと思っていますわ」
この人も、私のことが嫌いだ。
実の娘なのに、憎たらしいと心底思っている。
肉親にも嫌われるなんて、本当に私って何者なのかしら?
「そうか。ならば私としても都合がいい。次の婚約の相手を用意した。早急に準備しなさい」
「準備? また顔合わせですか?」
「そうだが、これまでとは違う。すでに先方はお前との婚約を了承済みだ」
「あら、珍しいですね」
いつもなら考える時間がほしいと言われ、一週間ほど時間をあけたり、一度会ってから決めることがほとんどだった。
六人目の婚約者はよほど肝が据わっているのか……。
それとも単に権力しか見ていないのか。
どちらにしても、こういう場合は長続きしない。
「この部屋を出る準備をしなさい。お前には明日から、婚約者のもとで暮らしてもらう」
「明日から? 唐突ですね」
「だから急げと言っている。今日中に荷物をまとめておきなさい。もちろん、その寝床の下にいる汚らしい動物も一緒だ」
「──!」
お父様はベッドの下に視線を向ける。
2
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説

【完結】契約結婚だったはずが、冷徹公爵が私を手放してくれません!
21時完結
恋愛
公爵家の没落を救うため、冷徹と名高い公爵ヴィンセントと契約結婚を結んだリリア。愛のない関係のはずが、次第に見せる彼の素顔に心が揺れる。しかし契約の期限が近づく中、周囲の陰謀や彼の過去が二人を引き裂こうとする。契約から始まった偽りの結婚が、やがて真実の愛へと変わる――。

殿下、私は困ります!!
IchikoMiyagi
恋愛
公爵令嬢ルルーシア=ジュラルタは、魔法学校で第四皇子の断罪劇の声を聞き、恋愛小説好きが高じてその場へと近づいた。
すると何故だか知り合いでもない皇子から、ずっと想っていたと求婚されて?
「ふふふ、見つけたよルル」「ひゃぁっ!!」
ルルは次期当主な上に影(諜報員)見習いで想いに応えられないのに、彼に惹かれていって。
皇子は彼女への愛をだだ漏らし続ける中で、求婚するわけにはいかない秘密を知らされる。
そんな二人の攻防は、やがて皇国に忍び寄る策略までも雪だるま式に巻き込んでいき――?
だだ漏れた愛が、何かで報われ、何をか救うかもしれないストーリー。
なろうにも投稿しています。

婚約破棄されたので、契約不履行により、秘密を明かします
tartan321
恋愛
婚約はある種の口止めだった。
だが、その婚約が破棄されてしまった以上、効力はない。しかも、婚約者は、悪役令嬢のスーザンだったのだ。
「へへへ、全部話しちゃいますか!!!」
悪役令嬢っぷりを発揮します!!!

国王陛下は仮面の下で笑う ~宮廷薬師がダメなら王妃になれ、ってどういうことですか~
佐崎咲
恋愛
若くして国王となったユーティス=レリアードは、愚王と呼ばれていた。
幼少の頃に毒を盛られた後遺症でネジが飛んだのだろうともっぱらの噂だった。
そんなユーティスが幼い頃縁のあった薬師の少女リリアの元を訪ねてくる。
用件は「信頼できるリリアに宮廷薬師として王宮に来てほしい」というもの。
だがリリアは毒と陰謀にまみれた王宮なんてまっぴらごめんだった。
「嫌。」の一言で断ったところ、重ねられたユーティスの言葉にリリアはカッとなり、思い切り引っぱたいてしまう。
しかしその衝撃によりユーティスは愚王の仮面を脱ぎ、再び賢王としての顔を町の人々に向ける。
リリアは知っていた。そのどちらも彼がかぶっている仮面に過ぎないことを。
だけど知らなかった。それら全てが彼の謀略であることを。
すべては、リリアを王妃にするためだった。
張り巡らされたユーティスの罠に搦めとられたリリアは、元ののんびりした生活に戻ることはできるのか。
========
本編完結しましたが、書ければ番外編など追加していく予定です。
なろうにも掲載していますが、構成など異なります。
最終章は、こちらではじれじれ編。
なろうは、一発殴りに行っての砂糖吐く激甘仕様(アイリーン無双入り)です。
どっちも書きたくてこうなりました……。
※無断転載・複写はお断りいたします。
平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子
深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……?
タイトルそのままのお話。
(4/1おまけSS追加しました)
※小説家になろうにも掲載してます。
※表紙素材お借りしてます。

身代わりで嫁入りした先は冷血公爵でした
日之影ソラ
恋愛
公爵家に仕える侍女サラ。彼女が仕えるリーゼお嬢様はとっても我儘で夢見がち。運命の相手と出会うことを夢見るお嬢様は、いつも侍女のサラに無理難題を押し付ける。それに何とか応えようと努力するサラ。
ある日、貴族同士の交流目的で開かれたパーティーに出席したことをきっかけに、リーゼに縁談の話が持ちかかる。親同士が勝手に盛り上がり決めてしまった縁談に、表向きは嬉しそうに従うリーゼだったが、内心は怒り心頭だった。
親が勝手に決めた相手、しかもその人物は冷血公爵とさえ呼ばれる不愛想な男。絶対に結婚したくないリーゼは、サラに思わぬ提案をする。
「ちょっとサラ! 私の代わりに冷血公爵に嫁入りしなさい」
またしても無理難題を押し付けられ、従うしかないサラは変装して嫁入りすることに。
自分をリーゼと偽り窮屈な日々が始まる……と思ったら、冷血だと思っていた公爵様の意外な優しさに触れて?

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~
日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。
十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。
さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。
異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。
美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ
青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人
世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。
デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女
小国は栄え、大国は滅びる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる