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「心を見透かす? そんなことできたらもっと楽だったわね」

 呆れてしまう。
 彼らが私を嫌う理由は、単純にイメージだ。
 私の瞳が、雰囲気がそうさせる。
 心を覗く力なんて私の眼には宿っていない。
 人の心なんてわかったことがない。
 幾度も悪感情をぶつけられ、裏切られてきた。
 おかげで表情や仕草から、相手の考えを予想することはできるようになった。
 その程度なんだ。
 私には特別な力なんてない。
 彼らにもそう伝えている。
 けど、信じてもらえない。
 本能的な恐怖でもあるのだろうか。
 私を見た人たちは、こぞって同じ反応をする。
 恐ろしい者でも見るみたいに眉を顰め、自然に足が後ろへと向く。
 小さいころからずっと、私は人間に嫌われてきた。
 それでも婚約の話が続けてくるのは、私がジルムット家の長女だからだろう。

 王国に属する貴族の中でも古株で、王族に追随する権力、地位を持っている私の家と懇意にすることで、自分たちの地位を確かなものにする。
 そのために長女である私との婚約は美味しい話だった。
 加えて私は嫌われ者で、競争率は低い。
 所詮は政治的な道具、愛のない婚約だ。
 適当に相手をして、地位と権力だけ手に入れられたらそれでいい。
 私と婚約した五人の貴族たちは、皆そういう考えだっただろう。
 ただ、彼らは耐えられなかった。
 私と対面し、会話し、共に時間を過ごすことに。
 耐えかねて婚約破棄を言い渡す。
 平均して一月くらいが限界のようだ。
 
「そんなに怖いかしら? 私の眼は」

 鏡に向かって問いかける。
 別段、自分で見ても恐怖は感じない。
 ただの瑠璃色の眼だ。
 他人は先入観があっていけない。
 私は心が読めるなんて噂もあって、関わりのない人間にすら怖がられている。
 人間であれば誰でも、私のことを嫌うのだろう。
 両親……肉親でさえそうなのだから。

「みゃあ~」
「ん? ああ、ごめんなさい。もう出てきていいわよ」

 ベッドの下から二匹の猫が顔を出す。
 白い毛並みの猫と、虎の猫。
 二匹は私の足元にすり寄って、甘えて声で鳴く。

「みゃー」
「マーオ」
「わかってるわ。ご飯の時間ね」

 ちょうどお昼過ぎ。
 二匹にご飯をあげている時間だ。
 私はせっせと二匹分のご飯を用意してあげる。
 ご飯を見た途端にはしゃぎだす。
 夢中になって食べている姿はとても愛らしい。

「ふふっ、そんなに急がなくてもなくならないわよ」

 動物はいい。
 人間と違って、悪感情を向けてこない。
 私は人間には嫌われるけど、動物たちには好かれるらしい。
 白いほうはプル、虎柄はベル。
 一年ほど前、外を歩いている時に子猫を見つけて保護したのがきっかけで、今ではこうして一緒に生活している。

「みゃ、みゅあー」
「水ね。すぐに用意するわ」

 私には人の心を覗く力はない。
 だけどなんだか、動物たちの言葉は感じられる。
 聞こえて理解できるわけじゃない。
 本当になんとなく、何を伝えたいのかが頭に浮かぶんだ。
 そのおかげもあって、動物たちとのコミュニケーションは良好。

「人間相手とは大違いね……」
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