優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ

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シロサギと大きな一歩

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「それじゃ、俺たちも宿がないか探そう」
「そうですね」

 これだけ広い村だ。
 見る限りお店もあったし、宿屋も探せば見つかるだろう。
 もうすっかり夜だ。
 これから進むのは危険だし、私もファルス様も疲れている。
 
「なんで? うちに泊まっていってよ!」

 宿の相談をしていた私たちを、ダン君が引き留める。

「部屋ならいっぱいあるよ!」
「いいのかい?」
「うん! 手伝ってくれたお礼!」
「ありがとう。そうだね。じゃあ、家の人に許可を貰えたら、お願いしようかな?」

 ファスル様がそう言うと、ダン君は元気よく返事をした。
 絶対大丈夫だからと彼の手を引き、玄関へと歩く。

「ただいまー!」
「ダン!」

 ダン君の声を聞いて、玄関にかけこんできた一人の女性。
 車いすに座っている。
 この世界にも車いすがあることに驚いた。
 見た目は一緒だけど木製だ。
 女性はダン君を見て涙目で安堵する。

「よかった。遅かったから心配していたのよ?」
「ごめんね母ちゃん。心配かけちゃって」

 車いすのままダン君を抱き寄せるお母さん。
 よほど心配していたのだろう。
 涙を流して安堵しながら、ダン君を力一杯抱きしめる。
 もう離さないと言わんばかりに。

「ねぇ母ちゃん、お願いがあるんだけどいいかな?」
「何?」
「お兄ちゃんたちを泊めてあげたいんだ!」
「……あなた方は……」

 ようやく私たちの存在に気が付いたようだ。
 ダン君の心配で頭がいっぱいだったのだろう。
 キョトンとした表情で私たちを見つめる。

「あのね。森で助けてもらったんだ!」
「初めまして、僕はファルスといいます」
「私はミモザです。こんばんは」

 いきなり見知らぬ男女を連れてきて、お母さんも困っている様子だ。
 ダン君が必死に何があったのか説明してくれている。
 あまり説明は上手じゃなくて、ファスル様が助け舟を出してあげていた。

「勇者様!?」
「そうなんだよ! 魔物もずばっと一瞬だったんだ!」

 説明が終わり、お母さんはファスル様の正体に一番驚いていた。
 その気持ちは凄くわかる。

「泊めてあげたいんだ。いい?」
「も、もちろん! こんなところでよければ! 今すぐ準備しますね!」
「お気になさらず。いつも通りで構いませんから」
「そ、そうはいきません。ダンを助けてくださったお礼もさせてください」

 お母さんは車いすをせっせと回し、私たちを家の中へと案内する。
 所々に段差を板でカバーしてあったり、車いすが通れるように工夫されていた。
 初めからそうだったわけじゃなさそうだ。
 手作り感があって、言い方は悪いけど素人っぽい。

「ダン! 二階のお部屋を片付けて、お布団を用意してちょうだい。私はお夕飯の準備をするから」
「わかった!」
「僕たちも手伝わせてください」
「いえ! お二人はどうぞおくつろぎください」
「そうはいきません。僕は勇者なので、じっとしていられないんです」

 そう言ってファルス様はダン君と一緒に二階へと昇っていく。
 その途中で振り返り、私に言う。

「ミモザはお母様を手伝ってあげてほしい」
「はい」
「よろしいのですか……?」
「はい。料理は心得ていますから」

 どうやら私も、じっとしていられない性格らしい。
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