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シロサギと大きな一歩

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 ダン君の樵を手伝って、大量の薪を手に入れた。
 途中からコツを掴んだファルス様は、次々に大きな木を切り倒し、薪へと変えて行く。
 
「やりすぎたかな……」

 ファルス様はちょっぴり後悔している様子だった。
 明らかに一人では運べない量になっている。
 楽しさで夢中になり、その後のことを考えていなかったようだ。
 まるで子供みたいで、少し笑ってしまう。

「ふふっ」
「勇者のお兄ちゃん切りすぎだよ!」
「ごめん……」
「大丈夫です。私もお手伝いしますから」

 魔法使いと呼ばれたことが嬉しくて、私もちょっぴりテンションが上がっていた。
 こんなこともあろうかと、牛を折り紙で数匹作ってある。
 牛には物を運ぶ力が付与されている。

「この子たちに持ってもらいましょう」
「牛だ!」
「助かるよ。さすがに僕一人じゃ運べそうにないからね」

 私は笑顔で返す。
 ファルス様のお役に立てたなら光栄だ。
 倒した木はさらに切って、薪の状態にしてロープで結ぶ。
 切る作業よりこの作業のほうが地道で大変だった。
 結局帰りは夜になり、ダン君を馬車に乗せて、彼が暮らしているという村まで案内してもらった。
 
「ここが俺の村だよ!」

 案内された村は、老夫婦が暮らしていた村より数倍大きかった。
 街とまでば呼べないけど、建物も多く人通りもある。
 老人ばかりというわけでもなくて、若い男女の姿も見受けられた。
 建物は木造で新しい気がする。
 村そのものの歴史が浅いのかもしれない。

「こっちこっち! もうすぐだよ!」

 そのままダン君の家まで案内してもらうことに。
 馬車を走らせ、その背後に薪が浮かんでいる。
 注目を集めないはずもなく、道行く人たちに凝視された。

「な、なんだあれ?」
「どうなっているの? 薪が浮かんでいるわ」
「大注目だね」
「は、恥ずかしいですね……」
「慣れたほうがいい。これからもっと、いろんな人の目に映るんだ」

 さすがの勇者様は堂々としている。
 見られることに慣れている証拠だ。
 私も勇者パーティーの一員になったのだから、これくらいは慣れないと。

「一緒にいるのダンじゃないか?」
「あの二人は誰だ? 知らない顔だ」
「……」

 慣れるだろうか?
 前世も含めて今まで、注目なんてされてこなかった人生だ。
 こうして見つめられるだけでも恥ずかしい。
 私は視線を下げていた。

「あそこだ!」

 ダン君の声で視線を上げる。
 指をさした先に建っている一軒の家。
 二階建ての木造建築。
 前世の世界での山荘に雰囲気が似ている。
 森の外観とマッチしていて、ちょうどいい見た目だった。
 明かりが一階部分についている。
 家の横には、薪を蓄えておくための収納スペースがあった。

「ダン君、薪はこっちでいい?」
「うん! そこに重ねて置いておいてほしい!」
「わかった」

 折り紙の牛に指示を出し、薪を重ねて詰んでいく。
 スペースがいっぱいになるほどの薪だ。
 ダン君もその光景に満足げな表情を見せる。
 ファルス様がダン君に尋ねる。

「この薪はどうするんだい?」
「自分たちで使う用と、残りは他の家に売りに行くんだ!」
「そうか。偉いな」
「えへへ」

 ファルス様に頭を撫でられて嬉しそうに笑うダン君。
 微笑ましい光景だ。
 勇者様に褒められるなんて、子供からすれば一生の思い出になるだろう。
 ちょっぴり羨ましくさえ思う。
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