優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ

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キツツキと樵

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 旅をするのは初めてだった。
 前世を含めても、同じ場所に長くいることがほとんどだったから。
 今さら思う。
 常に屋根があって、温かな布団があったことは恵まれていたと。

「もう遅いし、今夜はここで休憩にしよう」
「はい」

 旅をしていれば、野宿をする機会もある。
 王都を出発して二日目の夜。
 老夫婦の村を出発した私たちは、森の中で夜を迎えて野宿をすることになった。

「枝を集めよう。火を起こさないと、それから調理も」
「料理なら私がやります」
「ありがとう。じゃあ僕は火を起こす準備をしておくよ」
「はい!」

 簡単に役割分担をした。
 ファルス様は小枝を集め、火を起こす。
 その間に私は、食材を水で洗って、調理の準備をした。
 食材は老夫婦からの差し入れだ。
 村で取れた野菜や穀物を、少しだけ分けて貰えた。
 いいことをすると、自分にもいいことになって帰ってくる。
 ファルス様が言っていた通りだ。

 火をおこし、鍋を置いて野菜を煮る。
 簡単なスープ作りだ。
 
「助かるよ。僕は料理が苦手でね。いつもは仲間に任せていたんだ」
「そうだったんですね」

 役に立てたのならよかった。
 料理と呼ぶには簡単すぎて、もっと調理器具があればと思ったけど、野宿中に贅沢は言えない。
 それでも次は、もう少し手の込んだ料理をしたい。
 道具が揃っていなくてもできる料理を考えておこう。

 夕食をとって眠る前に、私は一日の出来事を日記に記す。
 ずっと続けている日課だ。
 
「日記をつけているんだね?」
「はい」
「どんなことを書いているんだい?」
「えっと、いろいろです」

 ファルス様が日記に興味を示した。
 内容を知りたそうだったけど、少し恥ずかしくて隠してしまった。

「無理に覗く気はないから安心して」
「い、いえ! 見てもらってもいいんですが……恥ずかしくて」

 特別なことを書いているわけじゃない。
 その日に何があったか、とか。
 何を思ったのか。
 明日は何をしよう?
 これからの目標は決まったか。
 そういう私の気持ちもハッキリと書いてあるから、心を見せるみたいで恥ずかしい。

「さっきも言ったけど、無理に覗く気はないよ。でも、興味はある。君がこれまで何を想い、何を感じていたのか」
「……」

 恥ずかしい……けど。
 そんな風に期待されると、見せてもいいかな?
 なんて、思ってしまう自分がいて。

「ど、どうぞ」
「ありがとう。じゃあ見させてもらうね」

 ファルス様に日記帳を手渡した。
 彼はページをめくり、私が書いた日記を見つめる。
 やっぱり恥ずかしい。
 少しでも恥ずかしさを誤魔化すために、日課の鶴を折り始める。

「……君らしいね」
「え? 私らしい……ですか」
「うん。やっぱり君は、僕の思った通りの人だった」

 そう言って、彼は日記帳を閉じた。
 短い時間だった。
 たぶん数日分の内容しか見ていないけど、彼には何かが伝わったらしい。
 噛みしめるような横顔で頷き、日記帳を私に返す。

「ありがとう」
「どう、いたしまして?」
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