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キセキレイと道案内

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「さぁ、君の力は精霊を生み出すことだ。その力で、新しい命を生み出してくれ」
「はい!」

 自分のことは案外、自分じゃわからない。
 ファルス様に力を教わった。
 私に何ができるのか。
 やることは変わらないのに、いつものよりも気持ちが楽だ。

 折り紙を取り出し、膝の上で折る。
 それをファルス様は眺めている。

「鶴かい?」
「いえ、今回はキセキレイという鳥をイメージして折っています」
「キセキレイ? 聞いたことのない鳥の名前だね」

 それは当然だろう。
 この世界には存在しない鳥の種類だ。
 前世ではほとんどベッドの上で過ごした。
 退院しても自宅待機で、退屈な時間を紛らわすために、動画を眺めていたりした。
 その中で、動物の紹介をしている動画があった。

 キセキレイ。
 体長二十センチほどの小鳥で、見た目はスズメに少し似ている。
 彼らは人や車の行く先を少しずつ移動しながら、餌となるカゲロウやユスリカなどの餌をさがす習性がある。
 その様子は、まるで道案内をしてくれているようだった。

 村までの道案内をしてもらうには、この鳥が一番だろうと思った。
 折り方のレシピはない。
 私が知っているキセキレイの見た目から、それに近づくように折っていく。
 前世でもやることがなかった私は、暇を見つけて折り紙を折っていた。
 お陰で今は、初見の物でもある程度は近い形に折ることができる。

「できました!」
「凄いな。ちゃんと鳥に見える。鶴とも違う」
「ありがとうございます」

 ここに魔法を……ううん、精霊を宿す。
 方法は今までと同じ、付与魔法の要領でいいはずだ。
 飛行、探索、案内。
 付与する効果をイメージして、一緒に私の願いを込める。
 二人の住む村を探してほしい。
 二人を無事に送り届けられますように。

 効果が付与されたことで、キセキレイの折り紙はパタパタと飛び上がる。
 そのまま上昇し、ぐるぐると周囲を飛び回る。

「探してくれているんだね」
「はい」

 しばらく待つ。
 すると、キセキレイの折り紙はゆっくりと降下してきた。
 私の手のひらに留まる。

「見つかった?」

 小さく頷いたように見えた。

「じゃあ、案内してもらっていいかな?」

 私がお願いすると、キセキレイの折り紙は跳び上がり、馬車の先頭を舞う。
 こっちだぞ、と、教えてくれている。

「よし、出発だ」
「はい!」

 キセキレイの道案内に従いながら、ファルス様が馬車を走らせる。
 飛ぶ鳥を見つめながら思う。
 確かに、あれがただの付与魔法による行動には見えない。
 私の想いに応えて村を探し、案内を頼んで頷いた。
 まるで、生きている本物の鳥のように羽ばたく。

「本当に……」
「精霊だよ。君の想いから生まれた。いわば君の心の分身だ」
「私の……」

 分身。
 私は自分の胸に手を当てる。
 今までも、私の心が形になって、命を宿して羽ばたいていた。
 それが多くの人の元に届き、支えになっていたのだとしたら……。

「嬉しいです」
「そうか」

 自己満足なんかじゃなかった。
 私の想いは、善意は、誰かに伝わっていたんだ。
 精霊となり、折り紙に宿って。
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