優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ

文字の大きさ
上 下
9 / 28
キセキレイと道案内

1

しおりを挟む
 ミモザが去ったことで、一人になったユリア。
 宮廷の執務室に静寂が流れる。

「……ふざけてるわ」

 彼女はまだ、現実を受け入れていなかった。
 見下していた妹が、不出来な愚妹が勇者様に選ばれた。
 そんなことはありえない。
 何かの間違いだと思いたい。
 しかし、手元には国王陛下からの通達書がある。

 ミモザ・アリステラを本日付で、勇者パーティーの魔法使いに任命する。

「っ――」

 ぐしゃっと通達書を握りしめるユリア。
 悔しさで表情が歪む。
 
 どうして……。

「私じゃないの?」

 常に選ばれてきた。
 才能も、美貌も、将来性も……。
 何もかも優れていたし、生まれながらに有していた。
 彼女は人生の勝者だった。
 対照的にミモザは、大した才能もなく、冷遇されていた。
 彼女は敗者だった。
 少なくともユリアはそう思っていた。
 この先も一生、この優劣は覆ることはない。
 はずだったのに……。

「なんなのよ!」

 くしゃくしゃになった通達書を床にたたきつける。
 ペシっ悲しい音が響いた。
 すでに決定し、ミモザは旅立った。
 もはや怒りをぶつける先すら見当たらない。
 彼女はただ怒り、徐々に焦りを感じ始めていた。

「このままじゃ終わらないわ。絶対に……」

 ユリアは決意する。
 自身の存在を、有用性を国王にアピールし、ミモザよりも優れていることを知らしめる。
 そうすることでミモザではなく、自分こそが勇者パーティーに相応しいと認識させようと。
 
「ふふっ、選ばれたら断ってやるわ」

 そして自分ではなく、ミモザを選んだ勇者ファルスへの嫌がらせに心を脅される。
 しかし、彼女は知らない。
 否、ミモザ自身も気づいていない。
 彼女に秘められた才能と、選ばれた本当の意味を……。

  ◇◇◇

 人生、何が起こるかわからない。
 病弱なまま一生を終えたと思ったら、新しい世界で生まれ変わった。
 奇跡が起こった。
 今もそうだ。
 勇者様がは私を見つけて、仲間に誘ってくれたこと。
 これも紛れもない奇跡だろう。
 噛みしめるように、私は折り紙の鶴にお礼を言う。

「ありがとう」

 この子が導いてくれた。
 勇者ファルス様との縁を大切にしよう。

 ガタンと馬車が揺れる。
 身体がビクッと反応して、わずかに浮いた。

「ごめんね。この辺りは小石が多いんだ」
「大丈夫です。すみません。馬車の操縦を任せてしまって」

 王都を出発して数時間が経過している。
 すでに王都は見えなくなって、草原の街道を進んでいた。
 予めファルス様が馬車を借りてくれて、彼の操縦で仲間たちとの合流を目指している。

「いいよ。旅のおかげで慣れているからね。街から街の距離が離れている時は、仲間と交代で馬車を走らせているんだ」
「そうなのですね。じゃあ、私も操縦できるように頑張ります」
「無理はしなくていいよ。これ、結構力もいるしね。女の子には大変だ」
「大丈夫です! これでも体力には自信がありますから!」

 力こぶはできないけど、腕を曲げて元気さをアピールしてみた。
 手綱を握っているから後ろは見えないのに、やった後から少し恥ずかしくなる。
 体力に自信があるのは本当だ。
 特別何か運動をしてきたわけじゃない。
 毎日夜遅くまで働いて、仕事のために宮廷を走り回っていたら、自然と体力もついただけだ。

「私にもできることは手伝いたいんです」
「そうか。じゃあ、今度操縦の仕方を教えるよ」
「ありがとうございます!」
「こちらこそ」

 女性として気遣ってくれることは、素直に嬉しかった。
 けれど私も勇者パーティーの一員になったんだ。

「私にできることは、何でも言ってください!」
「真面目だね。そんなに気負わなくてもいいんだよ?」
「いえ、私にできることはしたいんです! 付与魔法以外は得意じゃないですけど……家事はできますし、雑用でもいいです!」

 屋敷での扱いも放置だったし、時には宮廷で寝泊まりをする機会もあった。
 そのおかげもあって、家事全般は一人でこなせる。
 あまりいい経験ではないけれど、こういう機会には役立てるはずだ。

「そんなことないよ。君には、君にしかできないことがある」
「私にしかできない……こと?」
「うん、そうだよ。せっかくだ。合流まで時間があるし、その話でも――?」
「ファルス様?」
「ごめん、少し止まるよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄令嬢は、前線に立つ

あきづきみなと
ファンタジー
「婚約を破棄する!」 おきまりの宣言、おきまりの断罪。 小説家に○ろうにも掲載しています。

品がないと婚約破棄されたので、品のないお返しをすることにしました

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中
ファンタジー
品がないという理由で婚約破棄されたメリエラの頭は真っ白になった。そして脳内にはリズミカルな音楽が流れ、華美な羽根を背負った女性達が次々に踊りながら登場する。太鼓を叩く愉快な男性とジョッキ片手にフ~と歓声をあげるお客も加わり、まさにお祭り状態である。 だが現実の観衆達はといえば、メリエラの脳内とは正反対。まさか卒業式という晴れの場で、第二王子のダイキアがいきなり婚約破棄宣言なんてするとは思いもしなかったのだろう。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。 1話だいたい1500字くらいを想定してます。 1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。 更新は不定期。 完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。 恋愛とファンタジーの中間のような話です。 主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)

ラララキヲ
ファンタジー
 学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。 「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。  私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」 「……フフフ」  王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!  しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?  ルカリファスは楽しそうに笑う。 ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...