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千羽鶴と勇者様

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 彼は小さく頷く。

「僕たちは旅をしている。恒常的な平和を維持することが目的だ。終わりのない旅……困っている人を見つけて助ける。それを続けて行く旅」
「素敵な旅ですね」

 私は涙を拭って笑顔でそう言った。
 心からそう思ったから。

「君のやりたいことは何だい?」
「私は……困っている誰かの支えになりたいです」

 その想いに嘘はない。

「それをして、君は何を得る」
「ただ、感謝の言葉さえあれば、私が頑張れます」

 認めてくれる人が、優しい言葉があればいい。
 私を必要としてくれる誰かのために、この力を、人生を使いたいと思う。

「なら、一緒に行こう。君が求めているものは、ここにある」

 彼は手を差し伸べる。

「……いいのでしょうか。私より、お姉様のほうが魔法使いとして優秀です」
「魔法使いとしては、ね?」

 含みのある言い方だった。
 私は首を傾げる。

「君には君にしかない才能がある」
「私にしかない……」

 才能?
 それって……。

「その話も旅の中でしよう。これまでの冒険で、君の力に助けられたことがたくさんあるんだ。聞いてくれるかい?」
「はい! 聞きたいです」

 私の力が、どうやって勇者様や人々を救ったのか。
 見えなくてもいいと思っていたけど、やっぱり知りたいと思った。

「なら、そろそろ手をとってほしいな」
「あ、すみません! はい!」

 私は慌てて彼の手を取る。
 改めて触れると、なんて大きくて優しい手なのだろう。
 触れているだけで安心するような……。
 心が温まるような。

「これからよろしく。ミモザ」
「はい! 精一杯頑張ります! 勇者様!」
「ファルスでいいよ」
「ファルス様?」
「様もいらないんだけど、まぁ追々でいいかな」

 彼は呆れたように笑う。

 こうして私は、平和を維持する勇者パーティーの一員となった。
 後のこの出会いを運命だと感じる。
 私は、彼らと共に旅をするために、この世界に生まれ落ちたのだと。

  ◇◇◇

「――どういうこと?」

 翌日、私はお姉様に報告をした。
 案の定、お姉様は驚いた。

「説明した通りです。私は本日より、勇者パーティーに同行します」

 お姉様に書類を見せた。
 ファルス様が朝一番に国王陛下へ説明し、許可を貰ってくれたらしい。
 これで正式に、私は勇者パーティーの一員になった。
 それに伴い、お姉様の補佐役を降りることになったから、その報告も兼ねている。

「今までお世話になりました。お姉様のおかげで、たくさんの経験ができました。心から感謝しています」
「ありえないわ。なんであなたが……ミモザが選ばれるのよ」
「……そうですね」
「私のほうが優れているのよ? 魔法使いとしても、女性としても!」
「そう思います」
「だったらどうしてあなたなの? 何をしたの?」
「何も……私も驚いていることです」

 焦り、取り乱すお姉様に、私は冷静に答える。

「ファルス様は私を選んでくださいました。勇者パーティーの旅に、私が必要だからと」
「意味がわからないわ。私のほうがいいじゃない」
「かもしれません。それでも……」

 選ばれたのは私だった。
 その事実が、お姉様には耐えられないのだろう。

「ふざけているわね。誰のおかげで宮廷入りまでしたと思っているの? 全部私のおかげでしょ?」
「はい。だから感謝しています」
「恩を仇で返すのね!」
「そう思われても仕方ありません」

 覚悟の上だ。
 罵倒されてもいい。
 それでも……。

「私がいなくても、お姉様なら一人でやれるはずです」
「――!」

 誰でもいいわけじゃない。
 ファルス様と話して、自分を見つめ直して気づいたことがある。
 誰かの助けになりたい。
 その想いに嘘はないけど……。
 私の助けが必要ない人にまで、届いてほしいとは思わない。
 少なくともお姉様には、私の助けは必要ないだろう。
 自分でも言っていたことだ。

「だから、私のことを必要としてくれる人と一緒に、これからは頑張ってみます」
「ミモザ……」
「お姉様も、お姉様の役割を頑張ってください。きっとお姉様なら、一人でも大丈夫です」
「当たり前よ。馬鹿にしないで」

 そう言うと思った。
 だから心置きなく、この場所を去れる。
 両親にも挨拶は済んでいる。
 あとは一歩を踏み出すだけだった。

「お世話になりました。どうかお元気で」

 お辞儀をして、背を向ける。
 予感がした。
 きっともう、この部屋に戻ることは……ないだろう。

 歩き出し、待ってくれている彼に声をかける。

「お待たせしました。ファルス様」
「もう行けるか?」
「はい。行きましょう」

 助けを必要としている人たちに、私の想いが届くように。
 勇者パーティーとして、旅に出る。

 終わりのない旅路が、終わりを迎えるまで。
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