優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ

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千羽鶴と勇者様

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 聞いたことがある。
 数年前、王国が管理する聖剣に選ばれた人物がいると。
 平和な時代だからこそ、あまり大きな話題にはならなかったけど。
 一時的に噂が流れた。
 現代に新しい勇者様が誕生したと。

「あなたが……勇者ファルス様?」
「うん。初めましてだね? ミモザ」
「どうして私の名前を?」
「これが教えてくれたんだ」

 彼の肩に、私が折った鶴が乗っていた。
 そしてもう一羽、さっき飛び立ったばかりの鶴が、私の手元に戻ってきている。

「その鶴は……」
「君が折ってくれたものだろう?」
「はい」

 いつのものかはわからない。
 ただ、私が以前に折って飛ばした鶴の一羽であることは明白だった。
 今も私の魔力が感じられる。

「勇者様の元にも、届いていたんですね」 
「うん。僕はこの子に救われた。僕は仲間と一緒に、世界を巡る旅をしているんだ。その最中、どうしても解決できない問題にぶつかって、困っている時にこの子が来た」

 勇者様は語ってくれた。
 私が飛ばした鶴の一羽は、勇者パーティーを救っていた。
 彼らが守ろうとした人々を、私の鶴が助けてくれた。
 
「それ以来、この子はずっと僕たちと一緒に旅をしてくれている。いつかお礼を言いたいと思っていたんだ」
「そうだったんですか」

 ホッとした。
 実は少し不安だったんだ。
 飛び立った鶴たちは、ちゃんと誰かの役に立っているだろうか。
 邪魔をしていないか。
 煙たがられてはいないだろうか。
 それが今、答えとなって私の前にある。
 こんなにも嬉しいことはない。

「あれ……?」

 なぜだろう?
 涙がこぼれて来た。
 悲しい涙じゃないはずだ。
 嬉しくて、涙がこぼれ落ちている。
 けれど、それだけじゃなくて……。

「なんで……?」
 
 どうしてこんなにも、安心しているのだろうか。
 理解できなかった。
 役に立っていたことが嬉しい。
 それは今までも、ずっと感じていたことじゃないの?
 お姉様の役に……立っていたはずじゃないの?
 今さらなんで、こんなにも心が……。

「君のことは、この子を通して教えてもらった。誰かのために生きようとする子がいる。まるで僕たち勇者みたいだ」
「え……?」

 私が……勇者みたい?

「けど、君自身はどうなのかな?」
「私自身……?」
「君は見知らぬ誰かのために頑張れる子だ。この子が僕たちを助けてくれたように、君の想いは世界のどこかで、必ず誰かの役に立っているよ」
「そうなら……嬉しいですね」

 私は笑みをこぼした。
 そんな私を見て、勇者様は優しく笑う。

「そう思えるのも、君の心が優しいからだよ。でも……」

 彼はゆっくり歩み寄り、鶴を受け止めている私の手に、そっと手を添えた。
 温かくて、大きな手だった。

「君は、君自身の幸せを求めてもいいんだ」
「――!」
 
 心が震えた。

「私の……」
「誰かの役に立ちたい。その想いは素敵だし、素晴らしいことだ。だけど忘れてはいけない。これは君の人生なんだ」
「私の……人生……」
「そうだよ。誰かのために……だけじゃない。君は君自身のために生きていいんだ」

 勇者様の言葉が、私の想いを揺らす。
 ずっと不安だった。
 今のままでいいのか。
 見知らぬ誰かを支えるために生きる。
 そう決めたのに、どうして悩むのか自分でもわからなかった。
 不安の答えが、ようやくわかった気がする。

「私は……誰かに感謝されたい。よく頑張ったねって褒めてもらいたい。私がいてよかったって思って貰いたい」
「うん」
「全部……自己満足だった」

 私はただ、誰かに認められたかったんだ。
 頑張っている自分を、誰かの支えになっていることを。
 何もできなかった過去を背負い、新たな生を手に入れたからこそ。
 私は、私の存在意義を示したかった。
 誰かのためなんて綺麗事を並べて、結局は自分のためじゃないか。

「それでもいいんだよ。見返りなんかじゃない。君が他人のために、人生を使おうとしていたことは本物だ。何より、困っている誰かを助けたい。その想いは本音だろう?」
「……はい」

 そうだ。
 困っている人がいたら助けたい。
 顔も名前も知らない誰かでも、苦しんでいるなら支えてあげたい。
 私がそうしてもらったように、今度は私が支える側になる。
 自己満足でも、その想いに嘘はなかった。

「なら、僕たちと一緒に来ないかい?」
「勇者様と……?」

 彼は小さく頷く。
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