優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ

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千羽鶴と勇者様

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「やっと終わった」

 お姉様から命じられた仕事が終わったのは、定時を一時間ほど超えたあたりだった。
 仕事は終わっても、研究が残っている。
 お姉様が集めた資料や調査書をまとめる仕事だ。

「この量だと、今日中に終わるかな」

 少し不安だけど、悩んでいても終わらない。
 私はさっそく取り掛かる。

「あ、そういえば……」

 結局戻ってはこなかった。
 夕方には戻ると言っていたお姉様は、未だに姿を見せたい。
 すでに夕日は沈んでいる。

「直接屋敷に戻られたのかな」

 それならそれで構わない。
 私とは違って、お姉様はいろんな人から頼られている。
 お忙しい人だ。
 お姉様には、お姉様にしかできない役割がある。

 ――私には?

「早く終わらせないと」

 一瞬だけ浮かんだ不安を首を振って誤魔化し、作業を続けた。
 それから三時間と少し。
 ようやく終わったのは、日付が変わる前だった。

「思ったより早く終わった。ちょうどいいし、ここで書いちゃおう」

 私はカバンから日記帳を取り出した。
 三年前くらいから始めた日記も、すでに二冊目の後半に突入していた。
 ここまで続くと見返すのも大変だ。

 私は今日あったことを記す。
 反省点と、明日やることを残して。

「よし」

 日記を書き終わったら、もう一つの日課を始める。
 取り出したのは折り紙だ。
 私は日記を書いてから、折り紙を折ることが日課になっている。
 折るのは鶴だ。
 折り方は前世で教わった。
 いつか私が、誰かの無事を祈れるように。
 そんな日が来るように。

 もちろん、ここは異世界。
 ただの折り紙じゃない。

「完成。じゃあ、いってらっしゃい」

 折ったばかりの鶴は、パタパタと羽ばたいて窓から飛んでいく。
 これは私が新しく開発した付与魔法の使い方だ。
 簡単に言うと、折り紙に意思を持たせることができる。
 私の心、想いを付与魔法で折り紙に与え、意思を持った鶴はどこかへ飛んでいく。
 どこへ行くかは、私にもわからない。
 私が折り紙に込めた願いは、どこかで困り苦しむ誰かの元へ届きますように。
 鶴にはもう一つ、記した文字の効果を与える、という付与を施してある。
 困った時、辛い時、この鶴が助けになればいい。
 かつて私を、顔も知らない人たちが支えてくれたように。
 同じことができたらいいなと、始めたことだ。

「あ……」

 そういえば、今のでちょうど千羽目だった。
 千羽鶴。
 人々が願いを込めた千羽の鶴。
 私の願いは届いただろうか。

 私の……。

「願い……か」

 誰かの役に立ちたい。
 そのために生きると決めて、今日まで頑張ってきた。
 でも、時折思ってしまう。
 今のままでいいのか。
 私がやりたいことは……本当にこれなのか。
 不安になる。
 誰でもいいんだ。
 誰か、答えを教えてほしい。

 そう、願っていた。

「やっと見つけた」
「え?」

 一羽の鶴が、戻ってきた。
 窓が開いている。
 吹き抜ける優しい風と共に、一人の青年が私と目を合わせる。

「あなたは……誰?」
「初めまして。優しい折り紙をくれた人。僕はファルス、王国から勇者の役割を与えられた人間だ」
「勇者……様?」
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