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20.強さを求めて
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昼休みが終わる。
勉強会も休憩を挟みつつ続けていた。
「二人とも午後の授業はいいの?」
「大丈夫だよ。受けたい授業は午前中に済ませてきたから」
「オレもだ。つか授業とか聞いてもよくわかんねーし」
「あんたは寝てるからでしょうが」
好きを見つけては文句を言い合う二人だけど、さっきの話を聞いた後では微笑ましく見える。
これが二人にとっての交流なのだろう、と。
ただ、会話が増えてきたのは集中力が途切れている証拠だ。
僕は二人に提案する。
「一旦休憩にしましょうか」
「さんせーい」
「はぁ、疲れたぁ~ なんでこんなこと覚えなきゃなんねーんだよ。計算とか歴史とかさぁ~ ギフトと関係ねーじゃん」
「ホントよね。あんたと同じ意見とかムカつくけど」
二人とも大きなため息をこぼす。
本当に苦手、というか嫌いなんだろうね。
進級試験に筆記があるのは一年生だけだ。
一年では各ギフトに関することとは別に、一般教養や基礎知識を教わる。
筆記試験で問われる内容がまさにそれだった。
「二人ともしっかりして! 学園は学ぶところなんだよ?」
「わかってるっつの」
「優等生だよね。ニナって」
「私だって別に勉強が得意ってわけじゃないんだよ。むしろ苦手だからよくブランに教えてもらってるんだから。フレンダさんは得意そうだよね」
「私は……苦手ではないです。運動は苦手なので頭を使うほうが得意、だと思います」
フレンダさんはイメージ通りだ。
僕が二人を教えている間、ついでに勉強していたニナに質問され答えている場面があった。
「オレは戦ってるほうが楽だなぁー。あーあ、身体動かしてぇ」
「一人で走り回ってきたらいいじゃん」
「それじゃつまんねーだろ。相手がいねーとさ。学園の外だったら適当に魔獣でも探しに行くんだけどな」
「魔獣? 魔獣と戦っていたの?」
僕は驚いて思わず尋ねてしまった。
ジーク君はそれに答える。
「おう。森とかに入ってなんどか戦ったぜ。あいつら普通の猛獣より強いからな。つっても大型の魔獣とは戦ったことねーよ」
「そ、それでもすごいよ」
「そうか? なんか照れるな」
「ブランも戦ってことあるよね? とっても強い大型の魔物と」
そう言ったのはニナだった。
なぜかジーク君に張り合うように。
それを聞いたジーク君は身を乗り出して――
「本当かそれ! すげーなお前!」
「あ、えっと、ありがとう」
「なぁ! だったらオレと手合わせしてくれねーか! 勉強続きで身体がなまりそうなんだよ!」
「手合わせって」
いきなりそんなことを言われても困る。
戸惑う僕に、フィオさんが言う。
「嫌なら断ってもいいよ。こいつの思いつきだし」
「思いつきじゃねーよ! オレは強くなりねえーんだ。そのためには強いやつと戦うのが一番なんだよ!」
「まーた始まった」
呆れるフィオさん。
だけど僕は、ジーク君の意見に共感していた。
強くなりたいという気持ちは僕も同じだ。
「わかりました」
「いいのか!」
「はい。僕も……強くなりたいですから」
「いいね。その目が気に入ったぜ!」
◇◇◇
僕たちは場所を移した。
以前に魔獣と戦った訓練室は修繕中だったから、その隣を使う。
中の構造は同じだ。
向かい合う僕たちと、それを離れた場所から見守る三人。
「んじゃ始めようぜ。得物はなに使っても構わねーからな」
「ジーク君の武器は?」
「オレはこいつだ」
そう言って彼が見せたのは、硬く握られた拳だった。
つまり、彼の武器は素手。
「オレは『超身体』と『鋼鉄化』を持ってんだよ。こいつは殴り合いに特化してる。つーわけで俺の身体が武器なんだよ」
「わかりました。なら僕も――」
彼の戦い方に合わせよう。
肉弾戦、拳での戦いが得意な主人公はすぐ思いついた。
僕は本のタイトルを口にする。
「【竜拳道】」
ギフトの効果によって本が開かれる。
僕の両手には黒いグローブが装着された。
「お、なんだそれ? 本からグローブが出てきやがったぞ」
「これが僕のギフト『司書』の力です。本を開いている間だけ、僕は物語の主人公と同じ力を扱えます」
「主人公の力? そのグローブがそうだっていうのか?」
「はい。これが僕の武器です。この本の主人公なら、ジーク君とも気が合うと思いますよ」
僕は力強く拳を握る。
ギフトの効果を発動させたことで、今の僕は主人公と同じ状態にある。
彼の目からきっと、僕が戦う人に見えているはずだ。
「へぇ。ちなみに聞くけど、その本の主人公ってどんなやつなんだ?」
「世界で一番強い男になりたい。そう願って拳一つでいろんな強敵と戦った人ですよ。小さな獣から、最後には自分の何十倍もあるドラゴンと殴り合っていました」
「ははっ! ドラゴンとか! そいつは最高だな。ってことは今のお前は、ドラゴンと殴り合ったそいつと同じってことか」
「そういうことです」
幻想の怪物、ドラゴン。
誰もが知る物語の強敵と殴り合った経験が僕の中に入ってくる。
今なら……どれだけ分厚い壁だって打ち破れる気がするよ。
「いいね、相手にとって不足なしだ! さっさと始めようぜ!」
「はい!」
地面を蹴る。
一直線に正面へ、狙う場所も決まっている。
力強く握った拳がぶつかり合う。
勉強会も休憩を挟みつつ続けていた。
「二人とも午後の授業はいいの?」
「大丈夫だよ。受けたい授業は午前中に済ませてきたから」
「オレもだ。つか授業とか聞いてもよくわかんねーし」
「あんたは寝てるからでしょうが」
好きを見つけては文句を言い合う二人だけど、さっきの話を聞いた後では微笑ましく見える。
これが二人にとっての交流なのだろう、と。
ただ、会話が増えてきたのは集中力が途切れている証拠だ。
僕は二人に提案する。
「一旦休憩にしましょうか」
「さんせーい」
「はぁ、疲れたぁ~ なんでこんなこと覚えなきゃなんねーんだよ。計算とか歴史とかさぁ~ ギフトと関係ねーじゃん」
「ホントよね。あんたと同じ意見とかムカつくけど」
二人とも大きなため息をこぼす。
本当に苦手、というか嫌いなんだろうね。
進級試験に筆記があるのは一年生だけだ。
一年では各ギフトに関することとは別に、一般教養や基礎知識を教わる。
筆記試験で問われる内容がまさにそれだった。
「二人ともしっかりして! 学園は学ぶところなんだよ?」
「わかってるっつの」
「優等生だよね。ニナって」
「私だって別に勉強が得意ってわけじゃないんだよ。むしろ苦手だからよくブランに教えてもらってるんだから。フレンダさんは得意そうだよね」
「私は……苦手ではないです。運動は苦手なので頭を使うほうが得意、だと思います」
フレンダさんはイメージ通りだ。
僕が二人を教えている間、ついでに勉強していたニナに質問され答えている場面があった。
「オレは戦ってるほうが楽だなぁー。あーあ、身体動かしてぇ」
「一人で走り回ってきたらいいじゃん」
「それじゃつまんねーだろ。相手がいねーとさ。学園の外だったら適当に魔獣でも探しに行くんだけどな」
「魔獣? 魔獣と戦っていたの?」
僕は驚いて思わず尋ねてしまった。
ジーク君はそれに答える。
「おう。森とかに入ってなんどか戦ったぜ。あいつら普通の猛獣より強いからな。つっても大型の魔獣とは戦ったことねーよ」
「そ、それでもすごいよ」
「そうか? なんか照れるな」
「ブランも戦ってことあるよね? とっても強い大型の魔物と」
そう言ったのはニナだった。
なぜかジーク君に張り合うように。
それを聞いたジーク君は身を乗り出して――
「本当かそれ! すげーなお前!」
「あ、えっと、ありがとう」
「なぁ! だったらオレと手合わせしてくれねーか! 勉強続きで身体がなまりそうなんだよ!」
「手合わせって」
いきなりそんなことを言われても困る。
戸惑う僕に、フィオさんが言う。
「嫌なら断ってもいいよ。こいつの思いつきだし」
「思いつきじゃねーよ! オレは強くなりねえーんだ。そのためには強いやつと戦うのが一番なんだよ!」
「まーた始まった」
呆れるフィオさん。
だけど僕は、ジーク君の意見に共感していた。
強くなりたいという気持ちは僕も同じだ。
「わかりました」
「いいのか!」
「はい。僕も……強くなりたいですから」
「いいね。その目が気に入ったぜ!」
◇◇◇
僕たちは場所を移した。
以前に魔獣と戦った訓練室は修繕中だったから、その隣を使う。
中の構造は同じだ。
向かい合う僕たちと、それを離れた場所から見守る三人。
「んじゃ始めようぜ。得物はなに使っても構わねーからな」
「ジーク君の武器は?」
「オレはこいつだ」
そう言って彼が見せたのは、硬く握られた拳だった。
つまり、彼の武器は素手。
「オレは『超身体』と『鋼鉄化』を持ってんだよ。こいつは殴り合いに特化してる。つーわけで俺の身体が武器なんだよ」
「わかりました。なら僕も――」
彼の戦い方に合わせよう。
肉弾戦、拳での戦いが得意な主人公はすぐ思いついた。
僕は本のタイトルを口にする。
「【竜拳道】」
ギフトの効果によって本が開かれる。
僕の両手には黒いグローブが装着された。
「お、なんだそれ? 本からグローブが出てきやがったぞ」
「これが僕のギフト『司書』の力です。本を開いている間だけ、僕は物語の主人公と同じ力を扱えます」
「主人公の力? そのグローブがそうだっていうのか?」
「はい。これが僕の武器です。この本の主人公なら、ジーク君とも気が合うと思いますよ」
僕は力強く拳を握る。
ギフトの効果を発動させたことで、今の僕は主人公と同じ状態にある。
彼の目からきっと、僕が戦う人に見えているはずだ。
「へぇ。ちなみに聞くけど、その本の主人公ってどんなやつなんだ?」
「世界で一番強い男になりたい。そう願って拳一つでいろんな強敵と戦った人ですよ。小さな獣から、最後には自分の何十倍もあるドラゴンと殴り合っていました」
「ははっ! ドラゴンとか! そいつは最高だな。ってことは今のお前は、ドラゴンと殴り合ったそいつと同じってことか」
「そういうことです」
幻想の怪物、ドラゴン。
誰もが知る物語の強敵と殴り合った経験が僕の中に入ってくる。
今なら……どれだけ分厚い壁だって打ち破れる気がするよ。
「いいね、相手にとって不足なしだ! さっさと始めようぜ!」
「はい!」
地面を蹴る。
一直線に正面へ、狙う場所も決まっている。
力強く握った拳がぶつかり合う。
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