無能と罵られた落ちこぼれの貴族、英雄たちの力を手に入れヒーローになる ~ハズレギフト『司書』が実は最強の無敵のユニークギフトでした~

日之影ソラ

文字の大きさ
上 下
12 / 26

12.勇気を出して

しおりを挟む
 僕たちはカウンターから移動して、ソファーに彼女を案内する。
 テーブルを挟んで向かい合うように座り、ニナが入れてくれたお茶を並べて話す。

「い、一年のフレンダ・シークロールです」
「フレンダさんだね! 私も同じ一年だよ!」
「あ、はい。えっと、知ってます。ニナ・ブランドールさん……ですよね」
「そうだよ! あれ? もしかして話したことあったかな? おかしいなぁ、私勉強は苦手だけど人の顔と名前を覚えるのは自信あったのに」

 そう言ってニナはうーんと考え始める。
 頑張って思い出そうとしているみたいだ。

「い、いえ。話すのは初めてです。プランドールさんは有名人だから、一方的に知ってただけです」
「ゆ、有名人っていわれると照れるなぁ。そんなことないと思うけど」

 事実、彼女は有名人だ。
 炎系統に特化したギフトホルダーで、入学時点で能力値は学年トップクラス。
 在校生全体でも実力は上位に入る。
 明るく活発で人当たりのいい性格もあって友達も多い。
 人の輪の中心にいることが多い彼女は、おそらく在校生のほぼ全員から顔と名前を覚えられている。

「これからよろしくね! フレンダさん!」
「は、はい。よろしくお願いします。プランドールさん」
「ニナでいいよ~ 一年生同士なんだし敬語もいらないからね」
「わ、私はこのほうが慣れていて。でも、名前は頑張ります」

 明るく接するニナにたじたじな様子。
 どうやら彼女は人見知りみたいだ。
 ニナもそれを察してか、必要以上に強要したり質問したりしない。
 それからフレンダさんは恐る恐る僕に視線を向けた。
 
「ブラン・プラトニアです。初めまして、ですよね? 僕も一年生なんだ。あまり授業に出てないから知らないかもしれないけど」
「いえ……知ってます」

 彼女は言いにくそうに答えた。
 僕と彼女に面識はない。
 ただ、知っているというのには納得できる。
 ニナとは全く別の意味で、僕も有名人ではあるから。
 全然嬉しくはないけどね。

 彼女は不安そうに僕を見つめる。

 相談をしに来てくれたみたいだけど、やっぱり僕が相手だと不安に感じるのだろうか。
 頼りないと思われたら、せっかく来てくれたのに帰ってしまうかもしれない。
 ここは堂々と構えて、頼れる同級生を目指そう。
 僕はわざとらしく一回咳ばらいをする。

「えっと、相談に来てくれたんですよね?」
「は、はい。掲示板の張り紙を見て……」

 僕はニナに視線を向ける。
 嬉しそうな横顔が見られてホッとする。
 張り紙の効果はちゃんとあったんだと、現実に証明されたことが僕も嬉しい。

「相談内容を聞いてもいいですか?」
「はい……」

 返事をした彼女だったけど、すぐには話し出さなかった。
 周りを気にしてキョロキョロしたり、怯えているように見える。
 この反応だけでも、よほど怖い目にあっているのだろうと推測できた。

「大丈夫ですよ。ここには僕たちしかいません。他に聞かれる心配はありませんから」
「……はい。実は……私……ずっと誰かに見られている気がするんです」
「見られている? それって」
「ストーカーってこと?」

 僕に続いてニナが尋ねた。
 ちょっぴり大きな声で言ったからフレンダさんも驚いてビクッと身体を震わせる。
 緊張のせいかと思ったけど、今の反応は怯えだ。
 ニナも気づき、ヒソヒソ声で言う。

「ごめんね。もしかして今もあるの?」
「い、いえ、学園の中だとありません」
「じゃあ視線を感じるのは学園の外なんですね?」

 僕の質問に彼女はうなずいて答えた。
 彼女は詳細を語る。

「ひと月くらい前から……登下校中に視線を感じるようになって、誰かが後ろにいるような感じがしたんです」
「完全なストーカーだね。誰かわかる?」
「わからないんです。私……その、ギフトで『鷹の眼』を持っているんです」

 自身を中心とした一定範囲内を俯瞰的に見ることができるギフト。
 それが『鷹の眼』。
 範囲に個人差はあるものの、上空から周囲を把握できるこのギフトは秀でた索敵能力を持つ。
 物陰や壁の反対側まで見ることができる便利な力だ。

「怖いけど『鷹の眼』で確認したんです。でも……誰もいませんでした。誰もいないのに視線はずっと感じるんです」
「見えないけど視線だけ……考えられるのは『不可視』のギフトを持っているか。フレンダさんの眼の範囲外から『千里眼』で見ているか……かな」
「学園では大丈夫なら生徒じゃなさそうだね」
「それはわからないよ。学園の中で感じないのも、生徒だから堂々とできるっていう可能性もあるから」
「あ、確かに……」

 残念ながら容疑者は学園の関係者に限らない。
 被害者が女性だから、おそらく犯人は男性だと思うけど……。
 そこも断定はできないな。
 
「一か月も前からって、ずっと? 毎日?」
「はい……最近は家の中でも感じるようになって……怖くて、もう」
「フレンダさん……」

 彼女は恐怖で震えている。
 今にも泣き出しそうな顔をしながら。
 そんな彼女にニナが優しく尋ねる。

「そんな怖かったなら誰かに相談しなかったの?」
「……私の家は辺境の領主で、王都にも知り合いがいなくて……相談できる相手がいなかったんです」
「じゃあ先生は?」
「先生も……私みたいな辺境の出身の相手は、してくれないと思って」

 彼女は下を向く。
 そんなことない、とは言えなかった。
 この学園ではギフトが全てだ。
 ただ、身分がまったく関係ないかと言われたら別なんだ。
 貴族はプライドが高い人が多くいる。
 自分の家に誇りを持っているからであって、決して悪いことじゃない。
 中には他の貴族を見下すような人もいるけど。
 彼女が後ろ向きなのも、そういう貴族たちを見てきたからなのだろう。
 教員も例外じゃない。
 現に僕も、まともに相手をしてくれたのはユグリット先生だけだった。
 彼女は親元を離れ、王都で一人暮らしをしているらしい。
 だから両親に相談することも難しかった。

「我慢してれば……そのうち無くなるかと思ったんです。でも変わらなくて……最近は家の中にいても視線を感じるようになって」
「家の中でも? 大丈夫なの? 何かされたり」
「視線だけです。で、でも怖くて……いつか何かされるんじゃないかって」

 怖いのは当然だ。
 見えない誰かにずっと見られている。
 男の僕でもぞっとする。
 そんな恐怖に彼女は一月も耐えてきた。
 誰にも相談できず、一人きりで。

「わかった。僕たちがなんとかしてみせるよ」
「プラトニア君……」

 気ッと相談するのも勇気が必要だったはずだ。
 その勇気に、応えたいと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」  パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。  彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。  彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。  あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。  元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。  孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。 「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」  アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。  しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。  誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。  そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。  モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。  拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。  ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。  どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。  彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。 ※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。 ※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。 ※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

都市伝説と呼ばれて

松虫大
ファンタジー
アルテミラ王国の辺境カモフの地方都市サザン。 この街では十年程前からある人物の噂が囁かれていた。 曰く『領主様に隠し子がいるらしい』 曰く『領主様が密かに匿い、人知れず塩坑の奥で育てている子供がいるそうだ』 曰く『かつて暗殺された子供が、夜な夜な復習するため街を徘徊しているらしい』 曰く『路地裏や屋根裏から覗く目が、言うことを聞かない子供をさらっていく』 曰く『領主様の隠し子が、フォレスの姫様を救ったそうだ』等々・・・・ 眉唾な噂が大半であったが、娯楽の少ない土地柄だけにその噂は尾鰭を付けて広く広まっていた。 しかし、その子供の姿を実際に見た者は誰もおらず、その存在を信じる者はほとんどいなかった。 いつしかその少年はこの街の都市伝説のひとつとなっていた。 ある年、サザンの春の市に現れた金髪の少年は、街の暴れん坊ユーリに目を付けられる。 この二人の出会いをきっかけに都市伝説と呼ばれた少年が、本当の伝説へと駆け上っていく異世界戦記。 小説家になろう、カクヨムでも公開してましたが、この度アルファポリスでも公開することにしました。

嫌味なエリート治癒師は森の中で追放を宣言されて仲間に殺されかけるがギフト【痛いの痛いの飛んでいけぇ〜】には意外な使い方があり

竹井ゴールド
ファンタジー
 森の中で突然、仲間に追放だと言われた治癒師は更に、 「追放出来ないなら死んだと報告するまでだ、へっへっへっ」  と殺されそうになる。  だが、【痛いの痛いの飛んでけぇ〜】には【無詠唱】、【怪我移植(移植後は自然回復のみ)】、【発動予約】等々の能力があり······· 【2023/1/3、出版申請、2023/2/3、慰めメール】

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

処理中です...