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11.初めての相談者

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 二年生以上は外部からの依頼を受ける。
 依頼は校舎一階ロビーの掲示板に張り出されていて、好きなものを自分たちで選ぶ。
 選ぶといってもなんでも受けられるわけじゃない。
 学年の指定、人数の制限、必須ギフトの指定など。
 細かな条件設定がされているものがあり、そういう依頼は限られた者しか受けられない。
 依頼には難易度に分けてポイントが設定されている。
 二年生以降の成績は、この依頼の成果によって大きく左右される。

「楽に稼げる依頼ないかな~」
「あるわけないだろ。真面目に探せって、ん? なんだこれ」
「どうした?」
「これ見ろよ」

 複数の生徒たちが一か所に注目した。
 他の依頼書の形式とは異なる書き方をした一枚の張り紙。
 そこには大きくこう書かれていた。

「「お悩み相談?」」

 難しい依頼の補助から学園生活での悩みごとまで。
 どんな問題もバッチリ解決します!
 ご希望の方は図書館までお越しください。

 可愛らしいイラストも添えられて、明るい雰囲気が溢れる募集用紙だった。
 注目した生徒たちは互いに顔を見合う。
 
「なんで図書館?」
「さぁ? というか胡散臭いなこれ。関わらないでおこう」

 反応は冷ややかである。
 二人は張り紙を無視して依頼を探し始めた。

  ◇◇◇

「ぜーんぜん来ないよ!」
「そうだね」

 僕とニナは図書館で相談者が来るのを待っていた。
 今はちょうど授業と授業の間。
 調べものをするために図書館へ足を運ぶ人たちも多い。
 僕はカウンターで受付をしながら、ニナもその手伝いをしてくれていた。
 
「そのうちきっと来るよ。ゆっくり待とうよ」
「ブランはのんびり過ぎだよ! もう十日経ってるんだよ? 張り紙だって作ったし、友達に話して宣伝もした。なのに誰も来ないなんて……あの張り紙もいい出来だと思ったんだけどなぁ」
「張り紙はよかったよ。可愛らしくて僕は好きだった」
「本当? じゃあなんで来ないんだろう」
「……たぶん僕が原因じゃないかな」

 少し前まで、僕は学園でもいないような扱いだった。
 名家の落ちこぼれという評判が広まり、みんな腫物を扱うような視線を向ける。
 それが今、変わろうとしていた。
 魔獣を撃退したという噂は注目度の高いものだった。
 ただ、噂は噂のままで確定した事実として広まったわけじゃなかった。
 理由は、騒ぎの原因を作った当人が容疑を否認しているからだ。
 学園側も今回の件について正式に公表していない。
 だから未だに噂の域を出ず、僕に対する評価も完全に覆ったわけじゃない。

「興味はあると思うんだ。それでもやっぱり、僕に頼ることをよく思わない人は多いんじゃないかな」
「そんなことないよ! ブランは誰より頼りになるんだから」
「ありがとう。けど、僕のことを知らない人の多いからね。仕方がないことだと思うよ」
「うぅ、またそうやって自分を悪く言って」

 別にそんなつもりじゃなかったんだけど……。
 あの日を境に、僕は俯かないと決めた。
 今でも決意は変わっていないし、今の発言も決して後ろ向きな意味で言った訳じゃない。
 ただの現状把握だ。
 僕がこの学園の人たちにどう思われているか。
 辛くとも正面から受け止めて、乗り越えていくしかないのだから。

「今すぐに見方が変わるわけじゃないからさ。気長に待とうよ」
「ブランはそういうけど、もうすぐ進級試験もあるし、終わったらあっという間に二年生だよ? このままだと何もないまま進級しちゃいそうだよ」
「それは……うん、よくないよね」
「でしょ? だからせめて一人くらい来てくれないかな~ こうパッとした相談じゃなくてもいいから! 一つでも相談を解決したらその評判が広まって、他のみんなも頼りやすくなるよね」

 その通りではあるのだけど、中々思い通りにはいかない。
 同じような会話をここ数日何度か繰り返している。
 
「そういえばニナ、授業は受けなくていいの? 最近ずっとここにいるよね」
「大丈夫。一年で必要な授業はもう受け終わってるから!」
「もう? 凄いな」
「私のギフトは炎系統に特化してるからね。そんなに多くないんだ」

 学園の授業はギフトの系統や性質によって科目が分かれている。
 長い歴史の中で、ギフトの特徴は解明されてきた。
 使い方はもちろん、個人差のバリエーションも周知され始めている。
 先人たちの知識と経験を元にして、次に続く人たちが正しく力が使えるように。
 そういう教育をする場所がこの学園だ。

「授業っていったらブランは一つも出てないよね?」
「僕のギフトは特殊だから」
「そうじゃなくても受けておいたほうがよかったんじゃないの? 試験には共通科目の筆記テストもあるんだよ」
「大丈夫だよ。知識は本を読んでいれば身に付くし、一度覚えたら忘れないから」

 ギフトのおかげもあって、授業で教わるような知識は身に着けている。
 筆記テストで満点を取るくらいなら全然……。

「ニナ?」
「どこが役に立たないギフトなんだか」
「あははは……ほ、ほら試験前でわからないところがあったら聞いてよ。僕の中にある知識で応えら荒れるものなら教えるから」

 ニナは実技が得意な反面、何かを覚えたりするのは苦手だったりする。
 以前にあった中間試験では、筆記だけギリギリだった。
 これで機嫌を直してもらえないだろうか。

「本当? 勉強教えてくれるの?」
「もちろんだよ」
「やったー!」
 
 あっさりニコニコ顔になった。
 ホッとする反面、彼女の素直さがちょっと心配になる。
 危ない人に騙されたりしないかな、とか。
 そんな心配が頭の隅に過ったころ。

「あ、あの……」

 僕たちの前に、一人の女子生徒がやってきた。

「はい。本をお探しですか?」
「い、いえ……その……相談したいことがあって」

 モジモジしながら彼女は答えた。
 相談という言葉にビクッと反応し、僕とニナは顔を見合わせ興奮する。
 ついに初めての相談者がやってきた。 
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