1 / 26
1.落ちこぼれ
しおりを挟む
『ギフト』――
それは神から与えられし恩恵。
時に障害を打ち破る武力であり、時に難解を解き明かす知恵でもある。
人々はギフトによって繁栄を築きあげた。
故に、ギフトの有無は人間の存在価値であり、優劣を決める絶対的な基準となっていた。
ギフトを与えられた者とそうでない者では、あらゆる面で優劣がつく。
それも当然だろう。
いつの時代も、ギフトを持つ者たちが世界を動かしてきた。
優れたギフトの所有者だけが、素晴らしい栄光を手に入れてきた。
ギフトは、その人の運命を決める。
ギフトに選ばれるということは神に役目を与えられたということであり、運命に選ばれた存在であることを示す。
これだけ語れば、ギフトがどれほど重要な力か理解できるだろう。
と同時に、ぞっとしまうだろう。
人は生まれた瞬間にギフトを持っている。
後天的に得られることはない。
つまり、僕たちの人生は、運命は……生まれた瞬間に決定してしまうんだ。
僕たちは選べない。
選ぶのは神だ。
だから、従うしかない。
どんなに願おうと、僕たちの運命は変わらない。
英雄のような力を持たない者には、英雄になる未来は訪れない。
脇役は一生、脇役のまま……。
「あの、すみません。【幻想怪奇談】っていう本はどこにありますか?」
「その本なら二階の二列目の本棚の上から三段二十一冊目にありますよ」
「ありがとうございます」
「もし見つからなかったら言ってくださいね」
「はい」
女子生徒は軽く会釈をして、視界の右端にある階段を昇っていく。
カウンターで本を読んでいた僕は、彼女たちが無事に本を見つけられるまで待つことにした。
もう何度も読んだ本だ。
続きは本を開かなくても知っている。
僕は、本に関することなら一生忘れない。
しばらくして、女子生徒が階段を下りてきた。
手にはお目当ての本を抱えている。
どうやらちゃんと見つけられたみたいだ。
彼女は笑顔で僕の前まで歩いてきた。
「見つかったみたいですね」
「はい! ありがとうございます。これだけたくさんあると探すのが大変で。司書さんがいてくれて本当に助かります」
「あ、はははは……僕は司書じゃありませんけどね」
「え、そうなんですか? あ、確かに学園の制服……」
彼女は僕の格好を見てキョトンと首を傾げる。
そこへ別の女子生徒が通りかかる。
「ちょっと知らないの?」
「へ、なに?」
「ほら、プラトニア家の……」
「あ!」
僕が誰なのか気付いた彼女は、苦笑いをしながら去っていく。
最低限の会釈をして逃げるように。
「ははは……まるで悪者扱いだな」
思わず笑ってしまう。
僕が誰か知らない時は好意的だったのに、正体が分かった途端に微妙な反応をする。
もっとも、彼女を責める気にはなれない。
結局悪いのは僕なんだ。
僕が名家の落ちこぼれだから……。
◇◇◇
遡ること十五年と少し前。
名門貴族プラトニア家に二人目の息子が誕生した。
一人目、つまり兄は優れたギフトを持って生まれ、将来の成功を約束されていた。
それもあって、父と母は期待した。
二人目の息子も、さぞ優れたギフトを持って生まれてくると。
異能系ギフト、加護系ギフト、技能系ギフト……。
ギフトには様々な種類が存在する。
プラトニア家は代々優秀な戦士を輩出してきた家系であり、初代当主は悪魔から世界を救った英雄の一人とされている。
だから僕たちに求められているのは、戦うためのギフトだった。
最低でも戦闘に役立つギフトを持っていることが求められる。
そんな中、僕が生まれ持ったギフトは――
「な、なんだこのギフトは……?」
「『司書』? 見たことがないぞ」
ユニークギフトという。
稀に一人しかもたない特別なギフトを授かることがある。
僕のギフトはそういうものだったらしい。
両親は驚き、凄く喜んだ。
だけど、喜びは一瞬にして消え去った。
なぜならこのギフトの能力は、戦闘にまったく向いていなかった。
どころか……神の恩恵と呼ぶにはあまりにも不釣り合いな力だった。
ユニークギフト『司書』。
その能力は……。
本の統括。
具体的には、本を保管し管理することができる能力。
一度でも読んだ本の複製を作成し、それを自分だけが取り出せる異空間の本棚に保管する。
本の知識は忘れることがなく、いつでも取り出すことができる。
便利な能力ではある。
本が好きな人にとってはこれ以上のないギフトかもしれない。
そして本とは知識の結晶だ。
本を通してあらゆる知識を蓄積、保管できるこのギフトは優秀なように見える。
だけど実際は違う。
知識を学び、蓄える。
そんなこと、貴族の人間なら当たり前のようにやっている。
努力すれば誰にでもできることでしかない。
炎を自在に操ったり、見えないものが見えるようになったり。
そういう、努力では成しえない力こそがギフトだ。
僕が手にした僕だけのギフトは、世界中の誰にでもある平凡な能力でしかなかった。
ちょっと記憶力がいいだけの人間に何を期待する?
得られるギフトの数は両親が持っているギフトの数や質に影響する。
一般の人たちからすれば、ギフトを持っているだけで優れた人間だ。
貴族の場合はそうじゃない。
最低でも一つ、優れた貴族の家系なら三つ以上持っているのが普通とされている。
僕の両親も、四つのギフトを持っていた。
兄は六つのギフトをもって生まれた。
だけど僕に与えられたギフトは一つだけ……。
両親は絶望した。
期待が大きかった分、余計に落胆した。
この時点で僕の……。
ブラン・プラトニアの運命は決定した。
それは神から与えられし恩恵。
時に障害を打ち破る武力であり、時に難解を解き明かす知恵でもある。
人々はギフトによって繁栄を築きあげた。
故に、ギフトの有無は人間の存在価値であり、優劣を決める絶対的な基準となっていた。
ギフトを与えられた者とそうでない者では、あらゆる面で優劣がつく。
それも当然だろう。
いつの時代も、ギフトを持つ者たちが世界を動かしてきた。
優れたギフトの所有者だけが、素晴らしい栄光を手に入れてきた。
ギフトは、その人の運命を決める。
ギフトに選ばれるということは神に役目を与えられたということであり、運命に選ばれた存在であることを示す。
これだけ語れば、ギフトがどれほど重要な力か理解できるだろう。
と同時に、ぞっとしまうだろう。
人は生まれた瞬間にギフトを持っている。
後天的に得られることはない。
つまり、僕たちの人生は、運命は……生まれた瞬間に決定してしまうんだ。
僕たちは選べない。
選ぶのは神だ。
だから、従うしかない。
どんなに願おうと、僕たちの運命は変わらない。
英雄のような力を持たない者には、英雄になる未来は訪れない。
脇役は一生、脇役のまま……。
「あの、すみません。【幻想怪奇談】っていう本はどこにありますか?」
「その本なら二階の二列目の本棚の上から三段二十一冊目にありますよ」
「ありがとうございます」
「もし見つからなかったら言ってくださいね」
「はい」
女子生徒は軽く会釈をして、視界の右端にある階段を昇っていく。
カウンターで本を読んでいた僕は、彼女たちが無事に本を見つけられるまで待つことにした。
もう何度も読んだ本だ。
続きは本を開かなくても知っている。
僕は、本に関することなら一生忘れない。
しばらくして、女子生徒が階段を下りてきた。
手にはお目当ての本を抱えている。
どうやらちゃんと見つけられたみたいだ。
彼女は笑顔で僕の前まで歩いてきた。
「見つかったみたいですね」
「はい! ありがとうございます。これだけたくさんあると探すのが大変で。司書さんがいてくれて本当に助かります」
「あ、はははは……僕は司書じゃありませんけどね」
「え、そうなんですか? あ、確かに学園の制服……」
彼女は僕の格好を見てキョトンと首を傾げる。
そこへ別の女子生徒が通りかかる。
「ちょっと知らないの?」
「へ、なに?」
「ほら、プラトニア家の……」
「あ!」
僕が誰なのか気付いた彼女は、苦笑いをしながら去っていく。
最低限の会釈をして逃げるように。
「ははは……まるで悪者扱いだな」
思わず笑ってしまう。
僕が誰か知らない時は好意的だったのに、正体が分かった途端に微妙な反応をする。
もっとも、彼女を責める気にはなれない。
結局悪いのは僕なんだ。
僕が名家の落ちこぼれだから……。
◇◇◇
遡ること十五年と少し前。
名門貴族プラトニア家に二人目の息子が誕生した。
一人目、つまり兄は優れたギフトを持って生まれ、将来の成功を約束されていた。
それもあって、父と母は期待した。
二人目の息子も、さぞ優れたギフトを持って生まれてくると。
異能系ギフト、加護系ギフト、技能系ギフト……。
ギフトには様々な種類が存在する。
プラトニア家は代々優秀な戦士を輩出してきた家系であり、初代当主は悪魔から世界を救った英雄の一人とされている。
だから僕たちに求められているのは、戦うためのギフトだった。
最低でも戦闘に役立つギフトを持っていることが求められる。
そんな中、僕が生まれ持ったギフトは――
「な、なんだこのギフトは……?」
「『司書』? 見たことがないぞ」
ユニークギフトという。
稀に一人しかもたない特別なギフトを授かることがある。
僕のギフトはそういうものだったらしい。
両親は驚き、凄く喜んだ。
だけど、喜びは一瞬にして消え去った。
なぜならこのギフトの能力は、戦闘にまったく向いていなかった。
どころか……神の恩恵と呼ぶにはあまりにも不釣り合いな力だった。
ユニークギフト『司書』。
その能力は……。
本の統括。
具体的には、本を保管し管理することができる能力。
一度でも読んだ本の複製を作成し、それを自分だけが取り出せる異空間の本棚に保管する。
本の知識は忘れることがなく、いつでも取り出すことができる。
便利な能力ではある。
本が好きな人にとってはこれ以上のないギフトかもしれない。
そして本とは知識の結晶だ。
本を通してあらゆる知識を蓄積、保管できるこのギフトは優秀なように見える。
だけど実際は違う。
知識を学び、蓄える。
そんなこと、貴族の人間なら当たり前のようにやっている。
努力すれば誰にでもできることでしかない。
炎を自在に操ったり、見えないものが見えるようになったり。
そういう、努力では成しえない力こそがギフトだ。
僕が手にした僕だけのギフトは、世界中の誰にでもある平凡な能力でしかなかった。
ちょっと記憶力がいいだけの人間に何を期待する?
得られるギフトの数は両親が持っているギフトの数や質に影響する。
一般の人たちからすれば、ギフトを持っているだけで優れた人間だ。
貴族の場合はそうじゃない。
最低でも一つ、優れた貴族の家系なら三つ以上持っているのが普通とされている。
僕の両親も、四つのギフトを持っていた。
兄は六つのギフトをもって生まれた。
だけど僕に与えられたギフトは一つだけ……。
両親は絶望した。
期待が大きかった分、余計に落胆した。
この時点で僕の……。
ブラン・プラトニアの運命は決定した。
0
あなたにおすすめの小説
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる