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1.落ちこぼれ
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『ギフト』――
それは神から与えられし恩恵。
時に障害を打ち破る武力であり、時に難解を解き明かす知恵でもある。
人々はギフトによって繁栄を築きあげた。
故に、ギフトの有無は人間の存在価値であり、優劣を決める絶対的な基準となっていた。
ギフトを与えられた者とそうでない者では、あらゆる面で優劣がつく。
それも当然だろう。
いつの時代も、ギフトを持つ者たちが世界を動かしてきた。
優れたギフトの所有者だけが、素晴らしい栄光を手に入れてきた。
ギフトは、その人の運命を決める。
ギフトに選ばれるということは神に役目を与えられたということであり、運命に選ばれた存在であることを示す。
これだけ語れば、ギフトがどれほど重要な力か理解できるだろう。
と同時に、ぞっとしまうだろう。
人は生まれた瞬間にギフトを持っている。
後天的に得られることはない。
つまり、僕たちの人生は、運命は……生まれた瞬間に決定してしまうんだ。
僕たちは選べない。
選ぶのは神だ。
だから、従うしかない。
どんなに願おうと、僕たちの運命は変わらない。
英雄のような力を持たない者には、英雄になる未来は訪れない。
脇役は一生、脇役のまま……。
「あの、すみません。【幻想怪奇談】っていう本はどこにありますか?」
「その本なら二階の二列目の本棚の上から三段二十一冊目にありますよ」
「ありがとうございます」
「もし見つからなかったら言ってくださいね」
「はい」
女子生徒は軽く会釈をして、視界の右端にある階段を昇っていく。
カウンターで本を読んでいた僕は、彼女たちが無事に本を見つけられるまで待つことにした。
もう何度も読んだ本だ。
続きは本を開かなくても知っている。
僕は、本に関することなら一生忘れない。
しばらくして、女子生徒が階段を下りてきた。
手にはお目当ての本を抱えている。
どうやらちゃんと見つけられたみたいだ。
彼女は笑顔で僕の前まで歩いてきた。
「見つかったみたいですね」
「はい! ありがとうございます。これだけたくさんあると探すのが大変で。司書さんがいてくれて本当に助かります」
「あ、はははは……僕は司書じゃありませんけどね」
「え、そうなんですか? あ、確かに学園の制服……」
彼女は僕の格好を見てキョトンと首を傾げる。
そこへ別の女子生徒が通りかかる。
「ちょっと知らないの?」
「へ、なに?」
「ほら、プラトニア家の……」
「あ!」
僕が誰なのか気付いた彼女は、苦笑いをしながら去っていく。
最低限の会釈をして逃げるように。
「ははは……まるで悪者扱いだな」
思わず笑ってしまう。
僕が誰か知らない時は好意的だったのに、正体が分かった途端に微妙な反応をする。
もっとも、彼女を責める気にはなれない。
結局悪いのは僕なんだ。
僕が名家の落ちこぼれだから……。
◇◇◇
遡ること十五年と少し前。
名門貴族プラトニア家に二人目の息子が誕生した。
一人目、つまり兄は優れたギフトを持って生まれ、将来の成功を約束されていた。
それもあって、父と母は期待した。
二人目の息子も、さぞ優れたギフトを持って生まれてくると。
異能系ギフト、加護系ギフト、技能系ギフト……。
ギフトには様々な種類が存在する。
プラトニア家は代々優秀な戦士を輩出してきた家系であり、初代当主は悪魔から世界を救った英雄の一人とされている。
だから僕たちに求められているのは、戦うためのギフトだった。
最低でも戦闘に役立つギフトを持っていることが求められる。
そんな中、僕が生まれ持ったギフトは――
「な、なんだこのギフトは……?」
「『司書』? 見たことがないぞ」
ユニークギフトという。
稀に一人しかもたない特別なギフトを授かることがある。
僕のギフトはそういうものだったらしい。
両親は驚き、凄く喜んだ。
だけど、喜びは一瞬にして消え去った。
なぜならこのギフトの能力は、戦闘にまったく向いていなかった。
どころか……神の恩恵と呼ぶにはあまりにも不釣り合いな力だった。
ユニークギフト『司書』。
その能力は……。
本の統括。
具体的には、本を保管し管理することができる能力。
一度でも読んだ本の複製を作成し、それを自分だけが取り出せる異空間の本棚に保管する。
本の知識は忘れることがなく、いつでも取り出すことができる。
便利な能力ではある。
本が好きな人にとってはこれ以上のないギフトかもしれない。
そして本とは知識の結晶だ。
本を通してあらゆる知識を蓄積、保管できるこのギフトは優秀なように見える。
だけど実際は違う。
知識を学び、蓄える。
そんなこと、貴族の人間なら当たり前のようにやっている。
努力すれば誰にでもできることでしかない。
炎を自在に操ったり、見えないものが見えるようになったり。
そういう、努力では成しえない力こそがギフトだ。
僕が手にした僕だけのギフトは、世界中の誰にでもある平凡な能力でしかなかった。
ちょっと記憶力がいいだけの人間に何を期待する?
得られるギフトの数は両親が持っているギフトの数や質に影響する。
一般の人たちからすれば、ギフトを持っているだけで優れた人間だ。
貴族の場合はそうじゃない。
最低でも一つ、優れた貴族の家系なら三つ以上持っているのが普通とされている。
僕の両親も、四つのギフトを持っていた。
兄は六つのギフトをもって生まれた。
だけど僕に与えられたギフトは一つだけ……。
両親は絶望した。
期待が大きかった分、余計に落胆した。
この時点で僕の……。
ブラン・プラトニアの運命は決定した。
それは神から与えられし恩恵。
時に障害を打ち破る武力であり、時に難解を解き明かす知恵でもある。
人々はギフトによって繁栄を築きあげた。
故に、ギフトの有無は人間の存在価値であり、優劣を決める絶対的な基準となっていた。
ギフトを与えられた者とそうでない者では、あらゆる面で優劣がつく。
それも当然だろう。
いつの時代も、ギフトを持つ者たちが世界を動かしてきた。
優れたギフトの所有者だけが、素晴らしい栄光を手に入れてきた。
ギフトは、その人の運命を決める。
ギフトに選ばれるということは神に役目を与えられたということであり、運命に選ばれた存在であることを示す。
これだけ語れば、ギフトがどれほど重要な力か理解できるだろう。
と同時に、ぞっとしまうだろう。
人は生まれた瞬間にギフトを持っている。
後天的に得られることはない。
つまり、僕たちの人生は、運命は……生まれた瞬間に決定してしまうんだ。
僕たちは選べない。
選ぶのは神だ。
だから、従うしかない。
どんなに願おうと、僕たちの運命は変わらない。
英雄のような力を持たない者には、英雄になる未来は訪れない。
脇役は一生、脇役のまま……。
「あの、すみません。【幻想怪奇談】っていう本はどこにありますか?」
「その本なら二階の二列目の本棚の上から三段二十一冊目にありますよ」
「ありがとうございます」
「もし見つからなかったら言ってくださいね」
「はい」
女子生徒は軽く会釈をして、視界の右端にある階段を昇っていく。
カウンターで本を読んでいた僕は、彼女たちが無事に本を見つけられるまで待つことにした。
もう何度も読んだ本だ。
続きは本を開かなくても知っている。
僕は、本に関することなら一生忘れない。
しばらくして、女子生徒が階段を下りてきた。
手にはお目当ての本を抱えている。
どうやらちゃんと見つけられたみたいだ。
彼女は笑顔で僕の前まで歩いてきた。
「見つかったみたいですね」
「はい! ありがとうございます。これだけたくさんあると探すのが大変で。司書さんがいてくれて本当に助かります」
「あ、はははは……僕は司書じゃありませんけどね」
「え、そうなんですか? あ、確かに学園の制服……」
彼女は僕の格好を見てキョトンと首を傾げる。
そこへ別の女子生徒が通りかかる。
「ちょっと知らないの?」
「へ、なに?」
「ほら、プラトニア家の……」
「あ!」
僕が誰なのか気付いた彼女は、苦笑いをしながら去っていく。
最低限の会釈をして逃げるように。
「ははは……まるで悪者扱いだな」
思わず笑ってしまう。
僕が誰か知らない時は好意的だったのに、正体が分かった途端に微妙な反応をする。
もっとも、彼女を責める気にはなれない。
結局悪いのは僕なんだ。
僕が名家の落ちこぼれだから……。
◇◇◇
遡ること十五年と少し前。
名門貴族プラトニア家に二人目の息子が誕生した。
一人目、つまり兄は優れたギフトを持って生まれ、将来の成功を約束されていた。
それもあって、父と母は期待した。
二人目の息子も、さぞ優れたギフトを持って生まれてくると。
異能系ギフト、加護系ギフト、技能系ギフト……。
ギフトには様々な種類が存在する。
プラトニア家は代々優秀な戦士を輩出してきた家系であり、初代当主は悪魔から世界を救った英雄の一人とされている。
だから僕たちに求められているのは、戦うためのギフトだった。
最低でも戦闘に役立つギフトを持っていることが求められる。
そんな中、僕が生まれ持ったギフトは――
「な、なんだこのギフトは……?」
「『司書』? 見たことがないぞ」
ユニークギフトという。
稀に一人しかもたない特別なギフトを授かることがある。
僕のギフトはそういうものだったらしい。
両親は驚き、凄く喜んだ。
だけど、喜びは一瞬にして消え去った。
なぜならこのギフトの能力は、戦闘にまったく向いていなかった。
どころか……神の恩恵と呼ぶにはあまりにも不釣り合いな力だった。
ユニークギフト『司書』。
その能力は……。
本の統括。
具体的には、本を保管し管理することができる能力。
一度でも読んだ本の複製を作成し、それを自分だけが取り出せる異空間の本棚に保管する。
本の知識は忘れることがなく、いつでも取り出すことができる。
便利な能力ではある。
本が好きな人にとってはこれ以上のないギフトかもしれない。
そして本とは知識の結晶だ。
本を通してあらゆる知識を蓄積、保管できるこのギフトは優秀なように見える。
だけど実際は違う。
知識を学び、蓄える。
そんなこと、貴族の人間なら当たり前のようにやっている。
努力すれば誰にでもできることでしかない。
炎を自在に操ったり、見えないものが見えるようになったり。
そういう、努力では成しえない力こそがギフトだ。
僕が手にした僕だけのギフトは、世界中の誰にでもある平凡な能力でしかなかった。
ちょっと記憶力がいいだけの人間に何を期待する?
得られるギフトの数は両親が持っているギフトの数や質に影響する。
一般の人たちからすれば、ギフトを持っているだけで優れた人間だ。
貴族の場合はそうじゃない。
最低でも一つ、優れた貴族の家系なら三つ以上持っているのが普通とされている。
僕の両親も、四つのギフトを持っていた。
兄は六つのギフトをもって生まれた。
だけど僕に与えられたギフトは一つだけ……。
両親は絶望した。
期待が大きかった分、余計に落胆した。
この時点で僕の……。
ブラン・プラトニアの運命は決定した。
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