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「美味い! 美味いよこれ!」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
私のお弁当を彼は美味しそうに頬張っていた。
美味しいと言ってくれることは嬉しいのに、状況が微妙だから素直に喜べない。
自分ために作っておいたお弁当を、まさか見知らぬ行き倒れの男の人にあげるなんて。
家出して早々よくわからない状況に陥ったな。
「このお弁当って君が作ったの?」
「は、はい」
「全部?」
「そうです……けど」
私がそう答えると、彼は目をキラキラと輝かせた。
「凄いね君! 僕が今まで会ってきた中で五本の指に入る料理人だよ!」
「そ、そうですか」
ものすごく褒めてもらっている。
彼はパクパクとお弁当を食べながら、徐々に元気を取り戻していった。
「いやー助かったよ! 新しいグルメを探して放浪してたら道に迷っちゃってさ~ 空腹で野垂れ死ぬところだったよ」
「は、はぁ……旅の人、なんですか?」
「ん、ちょっと違うかな? 一応グルメ探しも仕事の一環だし。そういえば自己紹介がまだだったね? 僕はヘルフスト、君は?」
「私はシスティーナです」
互いに自己紹介をした後、ヘルフスト君はお弁当を綺麗に食べ終わった。
最後に手を合わせて挨拶の言葉を口にする。
「ご馳走様でした! 命の危険を感じたけど、君みたいな料理人に出会えたのは幸福だったね! なんというか、みんなに愛される味だったよ」
「みんなに……」
「あれ? 何か変なこと言った?」
彼は褒めてくれているのだろう。
だけど私は、みんなと言われて否定したくなった。
「そんなことないです。私の料理は……貧乏臭くて食べられないと言われましたから」
「え、どういうこと?」
不意に出てしまった本音に後から気付く。
ハッとして私は首を振り、誤魔化す様に笑顔を作る。
「なんでもありません。それじゃ私はこれで――」
「待った」
立ち去ろうとした。
そんな私の手を、彼は握って引き留めた。
「何か悩みがあるんだよね? 良ければ聞かせてもらえないかな?」
「……でも」
「僕はこれでも義理堅い男なんだよ? 受けた恩は三倍にして返せって言うのが、うちのボスから言われてることなんだ。だからお弁当の分、何か力になりたいんだ」
「……楽しい話じゃありませんよ?」
「だからこそ聞くんだよ」
「変な人ですね」
私は彼に、今日までの出来事を話して聞かせた。
別に、何かしてもらえると期待したわけじゃない。
ただなんとなく、誰かに聞いてもらえば気持ちが楽になるかなって。
そう思っただけだ。
「なるほどね、酷い話だな~ ゴボウだって立派な野菜なのにさ」
「そうですよ。でも彼には分ってもらえませんでした。こんな根っこなんて食べられないって」
「まぁ見た目はよくないからね? それに貴族を相手にするなら、確かに食材としては合ってないよ。いや、素材というより君の料理がね」
「え……」
彼は私が作ったお弁当、その箱を指さす。
「君の料理はとても美味しかった。味も良いし、とっても食べやすい。万人に愛される料理って感じだ。だけどそれは、一部の人間には好かれない。特に貴族とかにはね」
「……そうですね」
私の料理が合っていないのは、もうわかっている。
今さら言われなくても。
「料理は食べる人のためにある。だから相手との相性も結構大事なんだ。料理人なら相手が求める料理を出さないとね」
「それは……私が悪かったといいたいんですか?」
「違う違う。悪かったのは料理でも君でもなくて、それを振る舞った環境だ」
「環境?」
何の話をしているのか、まだわからなかった。
環境が悪い?
それは屋敷がよくないってこと?
私はわからないまま彼の話に耳を傾ける。
「君の料理は大衆の味だ。それが活きる環境で提供してこそ、みんなが美味しさを共有できる。逆に高級なレストランで出しても場違いなんだ」
「場違い……じゃあ料理を変えればいいんですか?」
「それも違うよ。だって君は、今ある料理が好きでやっているんだろ? だったら辞めなくて良い。無理に変わらなくて良い。それに合った環境を見つければ良いんだ」
そう言って、彼は私の正面に立った。
「システィーナさん、僕から一つ提案がある」
「提案……ですか?」
「うん! 君の料理人として腕を、僕に貸してくれないかな?」
一瞬、懐かしさを感じる。
彼のことを私は知らない。
短い時間で打ち解けられたのも、彼から感じる雰囲気のお陰だと気づく。
彼は……お母様に似ていた。
「うちの旅団で働かない? 料理人として」
「旅団?」
「そう。風と共に各地を巡る旅の一団……僕たち『秋風』においでよ」
それが私と彼の出会い。
運命の出会い。
お母様との約束を果たし、私とみんなが幸せになれる居場所。
私にとって『秋風』は、そういう場所になる。
これから。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
こちら『国渡りの錬金術師』第三章の前日談的なお話でした!
本編が気になるという方、少しでも面白いと思ってくれた方がいましたら
下記のリンクから本編が見られるので、ぜひご覧下さい。
応援よろしくお願いします!
「そ、そうですか。ありがとうございます」
私のお弁当を彼は美味しそうに頬張っていた。
美味しいと言ってくれることは嬉しいのに、状況が微妙だから素直に喜べない。
自分ために作っておいたお弁当を、まさか見知らぬ行き倒れの男の人にあげるなんて。
家出して早々よくわからない状況に陥ったな。
「このお弁当って君が作ったの?」
「は、はい」
「全部?」
「そうです……けど」
私がそう答えると、彼は目をキラキラと輝かせた。
「凄いね君! 僕が今まで会ってきた中で五本の指に入る料理人だよ!」
「そ、そうですか」
ものすごく褒めてもらっている。
彼はパクパクとお弁当を食べながら、徐々に元気を取り戻していった。
「いやー助かったよ! 新しいグルメを探して放浪してたら道に迷っちゃってさ~ 空腹で野垂れ死ぬところだったよ」
「は、はぁ……旅の人、なんですか?」
「ん、ちょっと違うかな? 一応グルメ探しも仕事の一環だし。そういえば自己紹介がまだだったね? 僕はヘルフスト、君は?」
「私はシスティーナです」
互いに自己紹介をした後、ヘルフスト君はお弁当を綺麗に食べ終わった。
最後に手を合わせて挨拶の言葉を口にする。
「ご馳走様でした! 命の危険を感じたけど、君みたいな料理人に出会えたのは幸福だったね! なんというか、みんなに愛される味だったよ」
「みんなに……」
「あれ? 何か変なこと言った?」
彼は褒めてくれているのだろう。
だけど私は、みんなと言われて否定したくなった。
「そんなことないです。私の料理は……貧乏臭くて食べられないと言われましたから」
「え、どういうこと?」
不意に出てしまった本音に後から気付く。
ハッとして私は首を振り、誤魔化す様に笑顔を作る。
「なんでもありません。それじゃ私はこれで――」
「待った」
立ち去ろうとした。
そんな私の手を、彼は握って引き留めた。
「何か悩みがあるんだよね? 良ければ聞かせてもらえないかな?」
「……でも」
「僕はこれでも義理堅い男なんだよ? 受けた恩は三倍にして返せって言うのが、うちのボスから言われてることなんだ。だからお弁当の分、何か力になりたいんだ」
「……楽しい話じゃありませんよ?」
「だからこそ聞くんだよ」
「変な人ですね」
私は彼に、今日までの出来事を話して聞かせた。
別に、何かしてもらえると期待したわけじゃない。
ただなんとなく、誰かに聞いてもらえば気持ちが楽になるかなって。
そう思っただけだ。
「なるほどね、酷い話だな~ ゴボウだって立派な野菜なのにさ」
「そうですよ。でも彼には分ってもらえませんでした。こんな根っこなんて食べられないって」
「まぁ見た目はよくないからね? それに貴族を相手にするなら、確かに食材としては合ってないよ。いや、素材というより君の料理がね」
「え……」
彼は私が作ったお弁当、その箱を指さす。
「君の料理はとても美味しかった。味も良いし、とっても食べやすい。万人に愛される料理って感じだ。だけどそれは、一部の人間には好かれない。特に貴族とかにはね」
「……そうですね」
私の料理が合っていないのは、もうわかっている。
今さら言われなくても。
「料理は食べる人のためにある。だから相手との相性も結構大事なんだ。料理人なら相手が求める料理を出さないとね」
「それは……私が悪かったといいたいんですか?」
「違う違う。悪かったのは料理でも君でもなくて、それを振る舞った環境だ」
「環境?」
何の話をしているのか、まだわからなかった。
環境が悪い?
それは屋敷がよくないってこと?
私はわからないまま彼の話に耳を傾ける。
「君の料理は大衆の味だ。それが活きる環境で提供してこそ、みんなが美味しさを共有できる。逆に高級なレストランで出しても場違いなんだ」
「場違い……じゃあ料理を変えればいいんですか?」
「それも違うよ。だって君は、今ある料理が好きでやっているんだろ? だったら辞めなくて良い。無理に変わらなくて良い。それに合った環境を見つければ良いんだ」
そう言って、彼は私の正面に立った。
「システィーナさん、僕から一つ提案がある」
「提案……ですか?」
「うん! 君の料理人として腕を、僕に貸してくれないかな?」
一瞬、懐かしさを感じる。
彼のことを私は知らない。
短い時間で打ち解けられたのも、彼から感じる雰囲気のお陰だと気づく。
彼は……お母様に似ていた。
「うちの旅団で働かない? 料理人として」
「旅団?」
「そう。風と共に各地を巡る旅の一団……僕たち『秋風』においでよ」
それが私と彼の出会い。
運命の出会い。
お母様との約束を果たし、私とみんなが幸せになれる居場所。
私にとって『秋風』は、そういう場所になる。
これから。
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てっきり最初は1人で生きていくのかなって思ったらすぐに仲間ができた
私個人の感想だけど仲間ができるのはもう少し先でも良かったんじゃないかなって思います
お料理、、とは
生きることに必要なことは当たり前ですが、
それ以外にも、、
大切な人(達)に
心をこめて、丁寧に、
お・も・て・な・し
の心をそえて、、、
心を豊かにする為のものでもあるのに、、、
わからんちんが多すぎるっ(#・ω・)
先が楽しみです!(*´ω`*)