魔剣鍛冶師の魔術道

日之影ソラ

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18.影縫

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 攻撃の勢いが増している。
 回避もギリギリ出来ているが、剣を取り換える隙がない。
 一瞬、ほんの一瞬でいいから時間を作れば。

「なんだいその眼は?」
「――?」
「まさかと思うが、まだ諦めていないのか? だとしたら愚かな男だね、グレイス・グローテル君」
「諦めるわけけないでしょ? この程度で諦められる夢なら、とっくの昔に捨ててる!」

 一瞬の時間を作れ!

「剣威召覧――千変!」

 名を呼び能力解放を解放する。
 千変を床に突き刺すと、刃がガラスのように砕けて四方に散る。
 散った欠片は俺を中心に漂い、正方形の結界となる。
 結界の効果は防御ではなく、触れた攻撃を反射すること。
 俺に迫る攻撃は結界に衝突した直後に反射され、一部がサイネル家当主リブロートへ向かう。

「反射の結界か? 中々面白いが所詮は悪あがきだね」

 彼は一切の動揺もなく、反射してきた攻撃を光の盾を生成して打ち消す。
 
「私が私の攻撃で倒されると思ったのかい? だとしたら浅はかだよ。それにその結界も、反射しきれない攻撃を受ければ消えるだろう!」

 パチンと指を鳴らし、俺の足元に術式を発動。
 千変で作り上げた結界ごと覆うように、新たな結界を展開した。
 効果は同じく反射、しかし内側に。
 彼の術式で展開された結界故に、壁に攻撃用の術式を展開することも容易だった。

「反射に反射を繰り返して砕けろ! 【爆砕渦ばくさいか】!」

 術式が発動し、結界と結界の間で爆裂が起こる。
 爆裂の威力は千変の反射と結界の反射を繰り返し、一気に増幅する。
 千変が耐えられない威力へと達したことで、結界ごと大きな音を立てて砕け散った。
 煙が室内を覆い隠し、視界を遮る。

「少々やりすぎたかな? まぁ死んでしまったのなら、賊として処理するまでだが」
「――剣威召覧」
「何!?」

 勝敗は決したと、気を抜いていたのだろう。
 煙の向こう側から聞こえる腑抜けた声を、さらに驚かせて見せよう。
 俺の固有魔剣、その二本目の初お披露目だ。

「――【影縫かげぬい】」

 煙をかき分け、漆黒の影が鞭のようにしなり蠢く。
 影の鞭は靭やかさと刃のごとき鋭利さを兼ね備え、爆風で倒れたテーブルや椅子を切刻み、俺の周囲を掃除していく。
 リブロートは驚き警戒しながら俺を睨む。
 その視線は斜めに下がり、俺の右手に握る黒い刃の剣へと向く。
 
「なんだ……その剣は? 先ほどの短剣ではないな」
「俺が作った固有魔剣の一振り、【影縫】だよ」
「固有魔剣だと? あの剣以外にも所持していたのか」
「一本だけなんて言ってない。さっきの結界は、ただこいつを取り出す時間がほしかっただけだ」

 千変には少々無理をさせてしまったな。
 あとで労いの意味を込めて、丁寧に手入れをしてやろう。

「影を操る魔剣……ふ、ふふっ、そうか。まだそんなものを持っていたか。少々驚きはしたが何の問題もない。この部屋に入った時点で、君と私の優劣は決定している」
「それはさっきまでの話だろう?」

 俺は影縫を床に突き刺す。
 その瞬間、部屋を覆っていた結界が砕け散った。

「なっ、馬鹿な!」
「気づいてなかったみたいだな? さっきの爆発の威力で、俺の足元に僅かな亀裂が入っていたんだよ」

 亀裂部分に剣を刺し、外側から影で攻撃して破壊した。
 こういう閉じ込める系の結界の特徴は、外からの攻撃には弱いということ。
 結界の強度を一時的に上げていれば亀裂も入らなかっただろうに。
 さっきの爆発で俺を倒せると確信していたのだろう。

「これでもう、先ほどのように四方から攻撃は出来ない」

 彼が離れた場所から術式を展開出来ていたのは、自身の魔力で生成した結界の壁を活用していたから。
 その壁がなくなった以上、俺を囲むように術式を発動することはできない。

「ふんっ! それがどうしたというのかな? 破壊されたならまた展開すればいいだけのこと!」
「その通り……でも、少し遅い」

 彼は結界を再び発動しようと、右手を高く振り上げた。
 が、そこからピクリとも動かない。
 否、動けない。

「なっ……なんだ? 身体が……」
「影を見てください」
「影……!?」

 彼の影に、俺の影から伸びる漆黒の鞭が突き刺さっている。
 糸のように細かく枝分かれし、まるで地面に影を縫い付けているように。

「この影縫は、影を縫い留め斬り裂く魔剣です。俺の影から伸びる刃に縫い付けられれば、もう動くことは出来ない」
「く、くそっ……」
「貴方の負けだ」
「ま、まだだ!」

 影縫を握りしめ、一歩前へと踏み出そうとした俺に、リブロートは強気な笑みを浮かべる。
 直後、彼の周囲に新たな結界が展開された。
 彼を覆う程度の小さい結界だが、その強度は一目でわかるほど。

「これは……そうか。あらかじめ術式を仕込んでいたのか」
「その通りだ。どうやらこの影縫のというのは、動きは封じても魔力の流れは止められていないようだからね? すでに展開済みの術式なら発動できる。私は君と違って本物の魔術師だ。こういう手も準備出来るのだよ」
「……そうでしょうね。そこは素直に羨ましい。けど、貴方の負けは変わらない」

 俺は剣を構えて一直線に駆け出す。

「無駄だ! 君程度の力ではこの結界を破ることはできない!」
「確かに強力な結界だ。破るのには一苦労しそうだけど、貴方は俺の言葉を忘れている」
「なんだと?」
「俺は言ったはずですよ? この影縫は影を縫い留め、魔剣だと」 

 狙いは最初から彼の身体ではない。
 結界で肉体は守れても、床に伸びる影は覆い隠せていない。
 だから手前で立ち止まり、影に向って剣を振るう。

「がっあ……」
「改めて言おう。俺の勝ちだ」
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