300年『宮廷魔法使い』として国を支え続けた魔女ですが、腹黒王子にはめられて国外追放されました ~今さら戻れと言っても無駄です~

日之影ソラ

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19.最終試練『挑戦』

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「先生! 起きてください先生!」
「ぅ、うう……」

 瞼を開ける。
 そこには心配そうに私を見つめるアレクの顔があった。
 肩を抱きかかえられ、支えられている感覚もある。

「アレク?」
「良かった。気が付いたんですね」
「私……もしかして眠ってたの?」
「はい。試練を始めるという音声が流れた直後でした。急に倒られて焦りましたよ。回復系の魔法も効かないし、幻惑を破る魔法も打ち消されて」

 そうか。
 私は試練の幻惑に囚われて、本体は意識ごと沈められたいたらしい。
 外部からの干渉も完全絶つ威力はさすがドラゴンだ。

「あれ? アレクは大丈夫だったの?」
「僕はなんともありませんでした。試練の影響を受けたのは先生だけみたいです」
「私だけ……なんだ」

 対象を一人に固定していた?
 たぶん違うな。
 試練の内容は『選択』、問われたのは後悔だ。
 自身の選択を少なからず後悔していること。
 
「ねぇアレク、君はこうしておけばよかったーって。自分の選択を後悔したことってある?」
「後悔ならしてますよ。あの時に僕に力があれば先生を助けられたのにって」
「そっか。わかった」

 それは後悔であっても、選択を悔いているわけじゃない。
 自身の無力さを悔いているだけで、今こうしていることも、歩んできた道のりにも後悔はしていないんだね。
 本当に君はまっすぐで素直だよ。
 ちゃんと私に見習わなくちゃいけないな。

「ありがとうアレク。もう大丈夫」

 起き上がり、現れた次の道への扉を見据える。

「行こう。次で最後の試練だよ」
「はい」

 『腕試し』、『機転』、『知恵』、『選択』。
 多少の認識違いはあれど、どれも異なる試練を突破し、最後の部屋へ向かう。
 次を越えれば、いよいよドラゴンと対面することになるだろう。
 そう考えると気も引きしまる。
  
 そして――

 私たちは最後の部屋にたどり着く。
 特に驚きもない広いだけの空間で、それらしい仕掛けは見当たらない。
 また幻惑系だろうか?
 連続はさすがに考えにくいか。

「よくぞ最後の試練までたどり着いたのじゃ! 主らの力にワシも敬意を表そう。これで最後の試練、越えられればワシの元へ来ると良い。最終試練は『挑戦』じゃ。主らの全てをかけて挑むが良い」

 部屋の中央にキラキラと粒子が集まる。
 一粒一粒が高密度に圧縮された魔力の塊だ。
 本来見えない魔力も、一定の密度まで小さくすれば視認で、実態を持つ。
 
「主らの相手はかつての偉人。時代の一端を築き上げた者にして、我が生涯における唯一無二の親友とも――」

 粒子は集まり、形を成す。
 綺麗なバイオレットの長い髪、透き通るような白い肌、瑠璃色の瞳。
 彼女は妖艶な笑みを浮かべる。

「先生、まさか彼女は……」
「ええ」

 ドラゴンは口にする。
 偉大な者の名を。

「創国の魔女イザベラじゃ」

 圧倒的な魔力が突風のように流れ出ている。
 創国、ドラゴンの友、つまりはこの国を最初に造った魔女。
 二千年前に生きていた私の大先輩。

「挑戦っていうのは、彼女を倒せってことみたいだね」
「先生、僕は先陣を――」
「待ってアレク。私一人にやらせてくれないかな?」
「え、先生? それは……僕が足手纏いになると」

 私は首を横に振る。

「違うわ。ただ彼女には、私が一人で挑みたいと思ったの。同じ魔女として、大先輩の胸を借りたい。じゃないと鈍った勘が取り戻せないのよ」
「そうでしたか。ならお任せします。先生が本気になれば誰にも負けませんよね?」
「もちろんよ。久しぶりに先生らしいところを見せてあげるわ」
「はい! 期待しています!」

 アレクは私の勝利を信じてくれている。
 それを嬉しく思いながら、私は立ち塞がる彼女の前へと歩み寄る。
 互いに声が聞こえるほどの距離まで近づいて、私は彼女に語り掛ける。

「こんにちは、魔女イザベラ。会えて光栄だわ」

 返事はない。
 彼女はにこやかなまま動かない。

「会話は……できないよね」

 残念だけど、彼女は本物の魔女じゃない。
 ドラゴンの力で作り上げられた幻想。
 記録と力の顕現に過ぎない。
 襲って来ないのは、こちらからの攻撃を待っているのだろう。

「よろしくお願いします」

 例え記録でも、そこにいなくても、最大限の礼儀を見せる。
 私は深く頭を下げた。
 だけどこれで、もう遠慮はしない。
 顔をあげてすぐ、私は右手をかざして魔法陣を展開する。

「――【連鎖チェイン爆殺エクスプロード】」

 一つに見せかけて、重ねるように二十の魔法陣を展開。
 同時に爆発系魔法を発動させる。
 一瞬にして放たれた大爆発は煙を巻き散らし、突風が四方へ吹き荒れる。
 ほとんど不意打ちに近い一撃、それも高威力だ。
 普通の相手なら今のでバラバラに身体が吹き飛んでしまうだろう。

 だけど今回の相手は一味どころかもっと違う。

 爆発で生まれた煙を吹き飛ばし、無傷のイザベラが顔を出す。

「さすがに防がれたみたいだね。でも無傷か……ちょっとショックだな」

 今ので倒せないにしろ、相当のダメージを期待していた。
 実際は全くの無傷、かすり傷すらない。
 魔力の消費もほぼ見受けられないし、何事もなかったと言われても信じられる。

「良かった。これで全力を出せそうだよ」

 古き魔女と現代の魔女。
 どちらが上か、今ここで決めても良いよね?
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