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19.最終試練『挑戦』
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「先生! 起きてください先生!」
「ぅ、うう……」
瞼を開ける。
そこには心配そうに私を見つめるアレクの顔があった。
肩を抱きかかえられ、支えられている感覚もある。
「アレク?」
「良かった。気が付いたんですね」
「私……もしかして眠ってたの?」
「はい。試練を始めるという音声が流れた直後でした。急に倒られて焦りましたよ。回復系の魔法も効かないし、幻惑を破る魔法も打ち消されて」
そうか。
私は試練の幻惑に囚われて、本体は意識ごと沈められたいたらしい。
外部からの干渉も完全絶つ威力はさすがドラゴンだ。
「あれ? アレクは大丈夫だったの?」
「僕はなんともありませんでした。試練の影響を受けたのは先生だけみたいです」
「私だけ……なんだ」
対象を一人に固定していた?
たぶん違うな。
試練の内容は『選択』、問われたのは後悔だ。
自身の選択を少なからず後悔していること。
「ねぇアレク、君はこうしておけばよかったーって。自分の選択を後悔したことってある?」
「後悔ならしてますよ。あの時に僕に力があれば先生を助けられたのにって」
「そっか。わかった」
それは後悔であっても、選択を悔いているわけじゃない。
自身の無力さを悔いているだけで、今こうしていることも、歩んできた道のりにも後悔はしていないんだね。
本当に君はまっすぐで素直だよ。
ちゃんと私に見習わなくちゃいけないな。
「ありがとうアレク。もう大丈夫」
起き上がり、現れた次の道への扉を見据える。
「行こう。次で最後の試練だよ」
「はい」
『腕試し』、『機転』、『知恵』、『選択』。
多少の認識違いはあれど、どれも異なる試練を突破し、最後の部屋へ向かう。
次を越えれば、いよいよドラゴンと対面することになるだろう。
そう考えると気も引きしまる。
そして――
私たちは最後の部屋にたどり着く。
特に驚きもない広いだけの空間で、それらしい仕掛けは見当たらない。
また幻惑系だろうか?
連続はさすがに考えにくいか。
「よくぞ最後の試練までたどり着いたのじゃ! 主らの力にワシも敬意を表そう。これで最後の試練、越えられればワシの元へ来ると良い。最終試練は『挑戦』じゃ。主らの全てをかけて挑むが良い」
部屋の中央にキラキラと粒子が集まる。
一粒一粒が高密度に圧縮された魔力の塊だ。
本来見えない魔力も、一定の密度まで小さくすれば視認で、実態を持つ。
「主らの相手はかつての偉人。時代の一端を築き上げた者にして、我が生涯における唯一無二の親友――」
粒子は集まり、形を成す。
綺麗なバイオレットの長い髪、透き通るような白い肌、瑠璃色の瞳。
彼女は妖艶な笑みを浮かべる。
「先生、まさか彼女は……」
「ええ」
ドラゴンは口にする。
偉大な者の名を。
「創国の魔女イザベラじゃ」
圧倒的な魔力が突風のように流れ出ている。
創国、ドラゴンの友、つまりはこの国を最初に造った魔女。
二千年前に生きていた私の大先輩。
「挑戦っていうのは、彼女を倒せってことみたいだね」
「先生、僕は先陣を――」
「待ってアレク。私一人にやらせてくれないかな?」
「え、先生? それは……僕が足手纏いになると」
私は首を横に振る。
「違うわ。ただ彼女には、私が一人で挑みたいと思ったの。同じ魔女として、大先輩の胸を借りたい。じゃないと鈍った勘が取り戻せないのよ」
「そうでしたか。ならお任せします。先生が本気になれば誰にも負けませんよね?」
「もちろんよ。久しぶりに先生らしいところを見せてあげるわ」
「はい! 期待しています!」
アレクは私の勝利を信じてくれている。
それを嬉しく思いながら、私は立ち塞がる彼女の前へと歩み寄る。
互いに声が聞こえるほどの距離まで近づいて、私は彼女に語り掛ける。
「こんにちは、魔女イザベラ。会えて光栄だわ」
返事はない。
彼女はにこやかなまま動かない。
「会話は……できないよね」
残念だけど、彼女は本物の魔女じゃない。
ドラゴンの力で作り上げられた幻想。
記録と力の顕現に過ぎない。
襲って来ないのは、こちらからの攻撃を待っているのだろう。
「よろしくお願いします」
例え記録でも、そこにいなくても、最大限の礼儀を見せる。
私は深く頭を下げた。
だけどこれで、もう遠慮はしない。
顔をあげてすぐ、私は右手をかざして魔法陣を展開する。
「――【連鎖爆殺】」
一つに見せかけて、重ねるように二十の魔法陣を展開。
同時に爆発系魔法を発動させる。
一瞬にして放たれた大爆発は煙を巻き散らし、突風が四方へ吹き荒れる。
ほとんど不意打ちに近い一撃、それも高威力だ。
普通の相手なら今のでバラバラに身体が吹き飛んでしまうだろう。
だけど今回の相手は一味どころかもっと違う。
爆発で生まれた煙を吹き飛ばし、無傷のイザベラが顔を出す。
「さすがに防がれたみたいだね。でも無傷か……ちょっとショックだな」
今ので倒せないにしろ、相当のダメージを期待していた。
実際は全くの無傷、かすり傷すらない。
魔力の消費もほぼ見受けられないし、何事もなかったと言われても信じられる。
「良かった。これで全力を出せそうだよ」
古き魔女と現代の魔女。
どちらが上か、今ここで決めても良いよね?
「ぅ、うう……」
瞼を開ける。
そこには心配そうに私を見つめるアレクの顔があった。
肩を抱きかかえられ、支えられている感覚もある。
「アレク?」
「良かった。気が付いたんですね」
「私……もしかして眠ってたの?」
「はい。試練を始めるという音声が流れた直後でした。急に倒られて焦りましたよ。回復系の魔法も効かないし、幻惑を破る魔法も打ち消されて」
そうか。
私は試練の幻惑に囚われて、本体は意識ごと沈められたいたらしい。
外部からの干渉も完全絶つ威力はさすがドラゴンだ。
「あれ? アレクは大丈夫だったの?」
「僕はなんともありませんでした。試練の影響を受けたのは先生だけみたいです」
「私だけ……なんだ」
対象を一人に固定していた?
たぶん違うな。
試練の内容は『選択』、問われたのは後悔だ。
自身の選択を少なからず後悔していること。
「ねぇアレク、君はこうしておけばよかったーって。自分の選択を後悔したことってある?」
「後悔ならしてますよ。あの時に僕に力があれば先生を助けられたのにって」
「そっか。わかった」
それは後悔であっても、選択を悔いているわけじゃない。
自身の無力さを悔いているだけで、今こうしていることも、歩んできた道のりにも後悔はしていないんだね。
本当に君はまっすぐで素直だよ。
ちゃんと私に見習わなくちゃいけないな。
「ありがとうアレク。もう大丈夫」
起き上がり、現れた次の道への扉を見据える。
「行こう。次で最後の試練だよ」
「はい」
『腕試し』、『機転』、『知恵』、『選択』。
多少の認識違いはあれど、どれも異なる試練を突破し、最後の部屋へ向かう。
次を越えれば、いよいよドラゴンと対面することになるだろう。
そう考えると気も引きしまる。
そして――
私たちは最後の部屋にたどり着く。
特に驚きもない広いだけの空間で、それらしい仕掛けは見当たらない。
また幻惑系だろうか?
連続はさすがに考えにくいか。
「よくぞ最後の試練までたどり着いたのじゃ! 主らの力にワシも敬意を表そう。これで最後の試練、越えられればワシの元へ来ると良い。最終試練は『挑戦』じゃ。主らの全てをかけて挑むが良い」
部屋の中央にキラキラと粒子が集まる。
一粒一粒が高密度に圧縮された魔力の塊だ。
本来見えない魔力も、一定の密度まで小さくすれば視認で、実態を持つ。
「主らの相手はかつての偉人。時代の一端を築き上げた者にして、我が生涯における唯一無二の親友――」
粒子は集まり、形を成す。
綺麗なバイオレットの長い髪、透き通るような白い肌、瑠璃色の瞳。
彼女は妖艶な笑みを浮かべる。
「先生、まさか彼女は……」
「ええ」
ドラゴンは口にする。
偉大な者の名を。
「創国の魔女イザベラじゃ」
圧倒的な魔力が突風のように流れ出ている。
創国、ドラゴンの友、つまりはこの国を最初に造った魔女。
二千年前に生きていた私の大先輩。
「挑戦っていうのは、彼女を倒せってことみたいだね」
「先生、僕は先陣を――」
「待ってアレク。私一人にやらせてくれないかな?」
「え、先生? それは……僕が足手纏いになると」
私は首を横に振る。
「違うわ。ただ彼女には、私が一人で挑みたいと思ったの。同じ魔女として、大先輩の胸を借りたい。じゃないと鈍った勘が取り戻せないのよ」
「そうでしたか。ならお任せします。先生が本気になれば誰にも負けませんよね?」
「もちろんよ。久しぶりに先生らしいところを見せてあげるわ」
「はい! 期待しています!」
アレクは私の勝利を信じてくれている。
それを嬉しく思いながら、私は立ち塞がる彼女の前へと歩み寄る。
互いに声が聞こえるほどの距離まで近づいて、私は彼女に語り掛ける。
「こんにちは、魔女イザベラ。会えて光栄だわ」
返事はない。
彼女はにこやかなまま動かない。
「会話は……できないよね」
残念だけど、彼女は本物の魔女じゃない。
ドラゴンの力で作り上げられた幻想。
記録と力の顕現に過ぎない。
襲って来ないのは、こちらからの攻撃を待っているのだろう。
「よろしくお願いします」
例え記録でも、そこにいなくても、最大限の礼儀を見せる。
私は深く頭を下げた。
だけどこれで、もう遠慮はしない。
顔をあげてすぐ、私は右手をかざして魔法陣を展開する。
「――【連鎖爆殺】」
一つに見せかけて、重ねるように二十の魔法陣を展開。
同時に爆発系魔法を発動させる。
一瞬にして放たれた大爆発は煙を巻き散らし、突風が四方へ吹き荒れる。
ほとんど不意打ちに近い一撃、それも高威力だ。
普通の相手なら今のでバラバラに身体が吹き飛んでしまうだろう。
だけど今回の相手は一味どころかもっと違う。
爆発で生まれた煙を吹き飛ばし、無傷のイザベラが顔を出す。
「さすがに防がれたみたいだね。でも無傷か……ちょっとショックだな」
今ので倒せないにしろ、相当のダメージを期待していた。
実際は全くの無傷、かすり傷すらない。
魔力の消費もほぼ見受けられないし、何事もなかったと言われても信じられる。
「良かった。これで全力を出せそうだよ」
古き魔女と現代の魔女。
どちらが上か、今ここで決めても良いよね?
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