24 / 25
24.過去の清算
しおりを挟む
おそらくギリギリだった。
フィアンマ様が暴れ出そうとする一歩前に間に合ってくれたらしい。
見たところまだ何も起こっていない。
一先ずホッとして、目の前で怯える彼に挨拶を。
「十年ぶりですが、お元気そうで何よりです」
「リザリー……なぜここに。それにアレクシスも」
「申し訳ありません殿下、いえ今は陛下でしたね。貴方との話は後にしましょう」
私はフレールから目を逸らし、フィアンマ様と向き合う。
「フィアンマ様、どうか怒りをお納め下さい」
「なぜじゃ? 主とて怒っておるじゃろう? この者の愚かさに。それに疑いもせず従う者共に」
「……はい。怒りはあります。ですが私は争いを望んでいるわけではありません。きっとイザベラ様も同じはずです」
私にはイザベラ様のことはわからない。
だから当てずっぽうで、今の言葉にも根拠はない。
それでも私は信じている。
ドラゴンと出会い国を造った偉大な魔女が、争うことを望んでいないと。
「ならば許すというのか?」
「許しません。だから私も、私なりに考えました。彼らに与える報いを。どうかそれを見届けてはくださいませんか?」
「ほう、面白いのう。良いじゃろう。ワシの怒りより、主の怒りのほうが本来は多いはずじゃ。その主がどう報いを与えるのか興味はあるぞ」
「ありがとうございます」
なんとか踏みとどまってくださったようだ。
しかし依然として怒りは感じている様子。
だからその怒り、私が代わりに晴らして見せましょう。
私はフレールのほうへ振り返る。
「フレール陛下、私は貴方に起こっています。でも、今さら謝ってほしいとは思っていません。そもそも謝られても手遅れです。私はもうこの国には戻らない。だから今日は、返してもらうつもりで来ました」
「返す? 一体何をかな?」
「すべてです」。この国で私がしてきたこと、もたらした物全てを回収します
私は天に右手をかざす。
この魔法は、逃げ回る十年間で新しく作りあげたもの。
いつかこんな瞬間が訪れた時、私を陥れた彼らに報いようと考案した。
帝都を守っているのは私が作った結界だ。
その結界と連動させることで、新魔法の効果を帝都中に行きわたらせる。
「――【不在証明】」
発動と同時に結界が消失する。
「何をした? 結界を破壊したのか?」
「結界だけではありません。私がこの国で作った物、生み出した技術で動いている物や新しい魔法……その全てを抹消しました」
「なっ、抹消……だと? そんな馬鹿げたことができるわけ……」
「残念ながらできてしまうんですよ」
驚愕する彼に冷たく言い放つ。
信じられない、という表情になるのもわかるが事実だ。
痕跡を忘却する魔法、【不在照明】。
結界を起点に、帝都ないに残る私の魔法式を全て破壊し、金輪際使用不可能にする。
加えて記録についても同様に消える。
私が書いた書物や研究資料の多くは白紙になっただろう。
「結界、人々が生活に使う魔導具も、軍事面を支える兵器、それ以外の様々な技術。私がこの国で残した物はたくさんあります。三百年分ですからね。きっと陛下が思っているより多いですよ」
三百年前にこの国を訪れ、かの王との約束を守り続けた。
この国を支え続けると誓って過ごした日々は、今でも鮮明に覚えている。
寂しくはあるし、約束を守れなかったことは謝りたい。
それもで、寛大な心をもつ彼ならば、きっと許してくれるだろう。
私が三百年の間に作り上げた物は全て、今この瞬間に消滅した。
「覚悟したほうが良いですよ。この国を支えていた物の多くがなくなりました。今頃帝都中で大混乱が起こっているはずです。貴方は王として、民衆の生活を守る義務があります」
「リザリー……お前は……」
「恨み事なら聞く気はありません。貴方が私を切り捨てたんだ。その代償は、しっかり自分の手で受け取ってください」
これが私になりの復讐だ。
傷つけるより、壊すよりも、彼らにはこっちのほうが効くだろう。
思い知れば良いと思う。
悪だと断じ、切り捨ててた物の大きさを。
私たち魔女の力を。
「ふ、ふははははははははは! 面白いやり方じゃな! ワシには思いつかんかったわ!」
「満足して頂けましたか?」
「うむ、満足とはまだわからんがのう。今後が楽しみじゃな」
「はい」
大変な思いをするだろう。
三百年分の消失はとてつもなく大きいのだから。
「それでは帰りましょうか? もうこんな場所にいる必要はありません」
「そうじゃのう。一発ぐらいぶん殴ってやろうかと思ったが、それはまた今後のお楽しみじゃ」
ニコニコしながら怖いことを言う。
放っておくと今すぐにでも暴れ出しそうな予感がする。
早々に立ち去るが吉だ。
「アレクも良い?」
「はい」
「ま、待ってくれリザリー! 話をしようじゃないか」
「もう話すことなんてありませんよ。この場所にも二度と戻ってくることはありません。さようなら、フレール」
そしてさようなら、ソルシエール帝国。
私の半生が詰まった場所。
消失した痕跡は二度と戻らない。
決別は済ませた。
これからは、新しい日々。
明るい未来が、きっと待っている。
そう信じて進もう。
フィアンマ様が暴れ出そうとする一歩前に間に合ってくれたらしい。
見たところまだ何も起こっていない。
一先ずホッとして、目の前で怯える彼に挨拶を。
「十年ぶりですが、お元気そうで何よりです」
「リザリー……なぜここに。それにアレクシスも」
「申し訳ありません殿下、いえ今は陛下でしたね。貴方との話は後にしましょう」
私はフレールから目を逸らし、フィアンマ様と向き合う。
「フィアンマ様、どうか怒りをお納め下さい」
「なぜじゃ? 主とて怒っておるじゃろう? この者の愚かさに。それに疑いもせず従う者共に」
「……はい。怒りはあります。ですが私は争いを望んでいるわけではありません。きっとイザベラ様も同じはずです」
私にはイザベラ様のことはわからない。
だから当てずっぽうで、今の言葉にも根拠はない。
それでも私は信じている。
ドラゴンと出会い国を造った偉大な魔女が、争うことを望んでいないと。
「ならば許すというのか?」
「許しません。だから私も、私なりに考えました。彼らに与える報いを。どうかそれを見届けてはくださいませんか?」
「ほう、面白いのう。良いじゃろう。ワシの怒りより、主の怒りのほうが本来は多いはずじゃ。その主がどう報いを与えるのか興味はあるぞ」
「ありがとうございます」
なんとか踏みとどまってくださったようだ。
しかし依然として怒りは感じている様子。
だからその怒り、私が代わりに晴らして見せましょう。
私はフレールのほうへ振り返る。
「フレール陛下、私は貴方に起こっています。でも、今さら謝ってほしいとは思っていません。そもそも謝られても手遅れです。私はもうこの国には戻らない。だから今日は、返してもらうつもりで来ました」
「返す? 一体何をかな?」
「すべてです」。この国で私がしてきたこと、もたらした物全てを回収します
私は天に右手をかざす。
この魔法は、逃げ回る十年間で新しく作りあげたもの。
いつかこんな瞬間が訪れた時、私を陥れた彼らに報いようと考案した。
帝都を守っているのは私が作った結界だ。
その結界と連動させることで、新魔法の効果を帝都中に行きわたらせる。
「――【不在証明】」
発動と同時に結界が消失する。
「何をした? 結界を破壊したのか?」
「結界だけではありません。私がこの国で作った物、生み出した技術で動いている物や新しい魔法……その全てを抹消しました」
「なっ、抹消……だと? そんな馬鹿げたことができるわけ……」
「残念ながらできてしまうんですよ」
驚愕する彼に冷たく言い放つ。
信じられない、という表情になるのもわかるが事実だ。
痕跡を忘却する魔法、【不在照明】。
結界を起点に、帝都ないに残る私の魔法式を全て破壊し、金輪際使用不可能にする。
加えて記録についても同様に消える。
私が書いた書物や研究資料の多くは白紙になっただろう。
「結界、人々が生活に使う魔導具も、軍事面を支える兵器、それ以外の様々な技術。私がこの国で残した物はたくさんあります。三百年分ですからね。きっと陛下が思っているより多いですよ」
三百年前にこの国を訪れ、かの王との約束を守り続けた。
この国を支え続けると誓って過ごした日々は、今でも鮮明に覚えている。
寂しくはあるし、約束を守れなかったことは謝りたい。
それもで、寛大な心をもつ彼ならば、きっと許してくれるだろう。
私が三百年の間に作り上げた物は全て、今この瞬間に消滅した。
「覚悟したほうが良いですよ。この国を支えていた物の多くがなくなりました。今頃帝都中で大混乱が起こっているはずです。貴方は王として、民衆の生活を守る義務があります」
「リザリー……お前は……」
「恨み事なら聞く気はありません。貴方が私を切り捨てたんだ。その代償は、しっかり自分の手で受け取ってください」
これが私になりの復讐だ。
傷つけるより、壊すよりも、彼らにはこっちのほうが効くだろう。
思い知れば良いと思う。
悪だと断じ、切り捨ててた物の大きさを。
私たち魔女の力を。
「ふ、ふははははははははは! 面白いやり方じゃな! ワシには思いつかんかったわ!」
「満足して頂けましたか?」
「うむ、満足とはまだわからんがのう。今後が楽しみじゃな」
「はい」
大変な思いをするだろう。
三百年分の消失はとてつもなく大きいのだから。
「それでは帰りましょうか? もうこんな場所にいる必要はありません」
「そうじゃのう。一発ぐらいぶん殴ってやろうかと思ったが、それはまた今後のお楽しみじゃ」
ニコニコしながら怖いことを言う。
放っておくと今すぐにでも暴れ出しそうな予感がする。
早々に立ち去るが吉だ。
「アレクも良い?」
「はい」
「ま、待ってくれリザリー! 話をしようじゃないか」
「もう話すことなんてありませんよ。この場所にも二度と戻ってくることはありません。さようなら、フレール」
そしてさようなら、ソルシエール帝国。
私の半生が詰まった場所。
消失した痕跡は二度と戻らない。
決別は済ませた。
これからは、新しい日々。
明るい未来が、きっと待っている。
そう信じて進もう。
0
お気に入りに追加
987
あなたにおすすめの小説

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

【完結】婚約破棄されたので国を滅ぼします
雪井しい
恋愛
「エスメラルダ・ログネンコ。お前との婚約破棄を破棄させてもらう」王太子アルノーは公衆の面前で公爵家令嬢であるエスメラルダとの婚約を破棄することと、彼女の今までの悪行を糾弾した。エスメラルダとの婚約破棄によってこの国が滅ぶということをしらないまま。
【全3話完結しました】
※カクヨムでも公開中

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果
富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。
そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。
死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?
婚約破棄された《人形姫》は自由に生きると決めました
星名柚花
恋愛
孤児のルーシェは《国守りの魔女》に選ばれ、公爵家の養女となった。
第二王子と婚約させられたものの、《人形姫》と揶揄されるほど大人しいルーシェを放って王子は男爵令嬢に夢中。
虐げられ続けたルーシェは濡れ衣を着せられ、婚約破棄されてしまう。
失意のどん底にいたルーシェは同じ孤児院で育ったジオから国を出ることを提案される。
ルーシェはその提案に乗り、隣国ロドリーへ向かう。
そこで出会ったのは個性強めの魔女ばかりで…?
《人形姫》の仮面は捨てて、新しい人生始めます!
※「妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/271485076/35882148
のスピンオフ作品になります。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

婚約破棄された私と、仲の良い友人達のお茶会
もふっとしたクリームパン
ファンタジー
国名や主人公たちの名前も決まってないふわっとした世界観です。書きたいとこだけ書きました。一応、ざまぁものですが、厳しいざまぁではないです。誰も不幸にはなりませんのであしからず。本編は女主人公視点です。*前編+中編+後編の三話と、メモ書き+おまけ、で完結。*カクヨム様にも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる