300年『宮廷魔法使い』として国を支え続けた魔女ですが、腹黒王子にはめられて国外追放されました ~今さら戻れと言っても無駄です~

日之影ソラ

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20.ドラゴンの目覚め

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「――【鉄剣乱舞ブレイドダンス】」

 背後に生成された無数の剣。
 一本一本が鋼鉄を貫く威力を有している。
 対しるイザベラも同じ魔法を展開。
 同質同量の剣を背後に生成し、待機させた。

「私の真似っこかな? いいよじゃあ、どっちが上手くできたか勝負しよう!」

 生成した剣を一斉に発射する。
 それとほぼ同時にイザベラも剣を放つ。
 互いの剣同士がぶつかり合い、鉄が衝突する高い音が響く。

「へぇ、なるほどね。全部撃ち落とされた」
「先生と互角の魔法……さすが国を築いた魔女ですね」

 アレクの言う通りだけど、なんとなく違和感を感じる。
 凄まじい魔力とよどみない魔力操作は凄いし、それを再現しているドラゴンの力にも感服する。
 でも……

「また弾幕勝負だよ! 【元素砲撃マテリアルバレット】!」

 今度は背後に無数の魔法陣を展開。
 発動した魔法陣から発射されるのは、魔力をそのまま高濃度に圧縮したエネルギー。
 破壊力はさっきの剣にも勝る。
 それを惜しむなく、魔力が続く限り放ち続ける。
 魔女イザベラも同様に魔法を展開して相殺し始める。

「さっきと同じ……」

 剣を撃ち落とした時のように、同威力の魔法で相殺されている。
 同じ魔女なら魔力量で劣ることは考えにくい。
 差が生まれるとすれば熟練度。
 魔法の発動にかかる時間やタイミング、複数の制御や微細な調整なら、長い時間を過ごした者に軍配が上がるだろう。
 その点で私が彼女に勝っているとは思えない。
 だからこその全力、最初から本気で挑んでいるのだけど……

「確かめてみようかな」

 砲撃を撃ち合う最中、唐突に転移魔法を発動。
 彼女の背後を取る。
 しかしこれも彼女は躱す。
 同じく転移魔法を発動させ、私と位置が入れ替わる。
 発動者の位置が変わっても砲撃の雨は継続していた。
 お互いに手を緩めない。

「これにも対応するんだ。少し遅れたけど……じゃあこれはどうかな?」

 私は天へ手をかざす。
 狙いは彼女が発動している魔法陣。

「【権限簒奪ソーサリースティール】」

 発動中の相手の魔法陣を奪い、自身の制御下に置く。
 彼女が使っていた魔法をはこれで私が自由に使える。
 単純に砲撃の雨が二倍になれば、いくら彼女でも対応できないだろう。
 もっとも、私の予想が正しければこれにも対応してくるはず。

 彼女は私の魔法の制御を奪う。
 位置関係が変わっただけで、砲撃戦は再開された。

「やっぱり……そういうこと」

 今までの攻防を分析する。
 初撃を除き、彼女は私の魔法を再現しているだけだ。
 動きも単調で、突発的な行動には対応できるけど、そこからの反撃はない。
 
 わかった。
 彼女はやっぱり、本物の魔女イザベラとは別人だ。
 いかにドラゴンの力でも、他人の戦闘を完全に再現することはできないんだ。
 姿形、魔力量は似せられても、魔法戦までは再現できないから、相対する私の動きで保管している。
 だからできるのは、私が見せた魔法を打ち返すことだけ。

「それなら」

 私は全ての魔法陣を解除し、攻撃を止める。
 すると彼女も同じように攻撃を止めてしまった。

「彼女に挑戦なんて言ってたけど、本当は違うね。挑戦すべきは彼女じゃなくて、私自身なんだ」

 まさに鏡写しの存在と戦っている。
 彼女は私の力を再現しているだけだ。
 違いがあるとすれば、本人か真似ているだけかという点。
 ならば攻略法は――

 再現できない威力と速度の魔法を放てば良い。

「すぅー……はぁー……」

 集中するんだ。
 彼女を越える威力を発揮するには、私が持てる全ての魔力を注ぎ込むしかない。
 さらには、彼女が魔法を発動するよりも早く打ち込めれば。

「破壊力なら爆発系……速度なら光……一番速くて強い魔法……」

 どれを使う?
 どう使う?
 思考を回らせ導き出す。

「決めた」

 初撃に使った爆裂の魔法――【連鎖チェイン爆殺エクスプロード】。
 光を収束させて放つ魔法――【光仰追閃リヒトレイ】。
 空気を高振動させる魔法――【震天動空ダンバイブ】。
 
 彼女も同様に三種の魔法陣を展開した。
 ここまではすんなりいく。
 難しいのはこの先、複合して放つこと。
 事前に理解した上で複合するのと、見てから合わせるのに必ず大きな差が生まれる。
 相手が彼女なら一瞬だろうけど、この魔法ならその一瞬を――

「複合魔法――【閃光一星シューティングスター】」

 貫ける!

 相手が同様の複合を開始した直後、発動するより先に私が放った光の線が彼女の胸を貫通した。
 重なった魔法陣も一緒に貫いたことで消滅する。
 そのまま光は拡散し、彼女の身体は霧のように消えていく。

「さすがですね先生。お見事でした」
「うん」
「――見事じゃ」

 少女の声と共に、最後の扉が現れる。

「試練を全て乗り越えた者よ。この先に眠るワシに触れるのじゃ。さすればワシは目覚める。待っておるのじゃ」
「だそうですよ?」
「行こう。ドラゴンの許可も貰えたんだから」
「はい」

 五つの試練を突破して、ドラゴンの声に従い先へ進む。
 最後の扉は錆びついていて、妙に年季を感じさせる。
 ギギギと音を立てた先で待っていたのは、暗く静かな自然の空洞だった。
 そこに、彼女は眠っていた。
 赤い鱗のドラゴンが、地に伏し瞳を閉じて。

 私たちはゆっくり近寄り、言われた通りにする。

「目覚めてください赤きドラゴン。私たちには貴女の力が必要なんです」

 語りかけ、眠っている頭に触れた。
 すると、彼女の身体はパキパキと砕ける音がして、表面がひび割れていく。
 長い年月を眠り、鱗の表面は石化していたらしい。
 その石化部分が剥がれていく。
 のっしりと動きながら、閉じていた瞳を開ける。

 ドラゴンの身体がまばゆい光を放ちだす。

「ついにドラゴンが復活……え?」

 予想していた姿と違う。
 起き上がったドラゴンは光の中で、なぜか少女の姿に変化していた。
 十二歳くらいの女の子が腰に手を当て、ニカリと笑っている。

「うむ! ワシ復活じゃ! さぁ人間よ! 共にこの世界をぶち壊しにゆくのじゃ!」
「……え」

 えええええええええええええええええ!?

 私たちはもしかして、とんでもない物を呼び起こしてしまったのだろうか。
 波乱の予感が全身を駆け抜ける。
 ドラゴンの復活と共に、新たな時代の幕を開けようとしていた。
 
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