上 下
17 / 25

17.第三の試練『知恵』

しおりを挟む
「クリアしたのは良かったです。さすが先生ですね」
「はい」
「ただ何の説明もなく飛び込むのはどうでしょう? もし間違っていたら落ちていたんですよ?」
「……そうですね」

 私の機転で第二の試練は無事にクリアした。
 のだが……
 向こう側へ渡ってすぐに、アレクのお説教が始まりました。

「あの一瞬で僕がどれだけ心配したかわかりますか?」
「ご、ごめんなさい……」
「次からは気を付けてくださいね?」
「はい……」
 
 まさかアレクにお説教される日がくるなんて。
 成長したね……

「それでは次の試練へ向かいましょうか」
「そ、そうね。気を取り直して行きましょう」

 壁には新たな扉が生成されていた。
 罠がないことを確認してから扉を開け、長く続く一本道を歩く。
 今度の明かりは緑色だ。
 そうして次の部屋にたどり着く。

「こ、これは……」

 同じく巨大な空間。
 二つ目のように橋や大穴はない。
 代わりに壁や天井、床の一面まで敷き詰められているものがある。

「扉だらけですね」
「ええ……」

 一面の扉。
 右を見ても左を見ても、同じ見た目の扉がある。
 列もバラバラ、向きもそれぞれ。
 数は多すぎて数えられない。

「やーやーやー! 第三の試練にたどり着くとは中々じゃな! さっそくじゃが次の試練を言い渡すぞ? 第三の試練は『知恵』じゃ!」
「今度は知恵の試練みたいだね」
「はい。問題でも出すのでしょうか? もっとも先生なら、答えられない問いはないと思いますが」
「それはさすがに買いかぶり過ぎだよ」

 魔法のことなら自信はあるけどね。
 それでも全ては無理だよ。
 だって出題者はドラゴンで、私なんかよりずっと前に生まれた存在なんだし。
 さすがに知恵で勝てるとは思えないな。

「それにたぶん質問とかじゃないと思うよ」
「ですね」

 私たちの視界には、おびただしい数の扉が見える。
 この扉が試練に関係しているのは間違いなさそうだ。
 
「目の前に扉が見えるじゃろう? それらは全部で千あるのじゃ! その中に一つだけ、次の試練へ向かうための扉がある。それを引き当てるのじゃ! ちなみに外れの扉は他の扉に通じておるぞ」
「え、それだけ?」
「意外と簡単そう――」
「ただし! 開けて良いのは千回までじゃ! それから外れの扉を開ける度、当たりの場所も変わるから注意するのじゃぞ!」

 少女の説明は以上で終わった。
 扉は千か所、内当たりは一か所のみで、外すたびに場所が変わる。
 加えて千回の回数制限付き。

「試しに一か所開けてみようかな」

 そう呟いて、近くにあった壁の扉を開けてみる。
 扉を開けた先は、紫色の幕で覆われていた。
 開けただけじゃ繋がっている先は見えないらしい。
 
「アレク」
「他の扉は開いていませんよ」

 尋ねる前に答えが返ってきた。
 さすがアレク、私が言う前に意図をくみ取ってくれたみたいだ。

「もしかしていきなり正解?」
「行ってみましょう」

 期待して扉の中へ。
 幕を抜ける感覚はちょっぴり気持ちが悪い。
 湿った空気の幕を通り抜けているようだった。
 そして肝心の結果は――

「「あっ」」

 不正解。
 しかも出た先は、天井にあった扉。
 つまり、真っ逆さま。

「わっ!」
「先生!」

 間一髪、落下のギリギリでアレクが体勢を立て直し、私を抱きかかえて着地する。
 
「大丈夫ですか?」
「うん。ありがとうアレク」

 咄嗟のことで魔法発動が遅れてしまったな。
 だいぶ実戦の感覚が鈍っている?
 それとも単に衰えたとか……それは考えたくないな。

「今のでわかったけど、扉を開けてすぐに別の扉に繋がるわけじゃないんだね」
「そのようですね。加えて出た先が同じ面とは限らない。あと上下左右もバラバラなので、感覚を保つのが難しい」

 扉を出た途端に重力の向きが変わる。
 初めての体験に身体が驚いてしまったけど、理解して挑めば逆に楽しいかも?
 なんて遊んでいる暇はないんだった。
 
「正解が移動してしまうなら、全て開ける方法は使えませんね」
「……そうでもないよ? 今回は魔法も封じられてないしね」
「先生?」

 実はとっくに気付いていた。
 この試練の攻略法に。

「【影握手シャドウハンド】」

 私が発動したのは影を自在に操る魔法。
 自身の影を媒体に、無数の黒い手を発現させる。
 手の数は火力量に起因する。
 魔女である私にかかれば、千や二千を生み出すくらい簡単だ。

「扉を開ける度に場所が移動するんでしょ? だったら全部開けちゃえば、正しい扉は逃げ道をなくすよね?」
「なるほど、その手がありましたか。さすが先生」
「ありがとう。でも正直これ、知恵って感じじゃないのよね」
「確かにそうですね。っと、ありましたよ」

 アレクが指をさす。
 開いた扉の一か所だけ、紫の幕がかかっていない。
 先には道が続いていた。

「第三の試練も難なくクリアですね」
「ええ」

 知恵の試練をクリアした私だけど、どうにも引っかかる。
 アレクにも言ったけど、この解決方法は知恵と呼べるだろうか?
 さっきの機転もそうだけど、迷宮の試練は名前と内容が微妙に合ってないような気が……

「もしかしてドラゴンって」

 かなり大雑把な性格なのかな?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?

朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。 何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!   と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど? 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。

水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。 兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。 しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。 それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。 だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。 そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。 自由になったミアは人生を謳歌し始める。 それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。

孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます

天宮有
恋愛
 聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。  それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。  公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。  島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。  その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。  私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

婚約破棄されたから復讐したけど夕焼けが綺麗だから帰ります!!

青空一夏
恋愛
王に婚約破棄されたエラは従姉妹のダイアナが王の隣に寄り添っているのにショックをうけて意識がなくなる。 前世の記憶を取り戻したアフターエラは今までの復讐をサクッとしていく。 ざまぁ、コメディー、転生もの。

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

処理中です...