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13.頼られるのも悪くない

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 モンスターを討伐すると、肉体が消滅して結晶を落とす。
 結晶はモンスターの心臓であり、魔力を供給していた器官。
 とても有能な素材で、魔道具や生活道具のエネルギー源として使われている。
 またモンスターによって色や形、大きさが異なるため、討伐クエストではこの結晶が討伐の証になる。
 ちなみにグレーウルフの結晶は、小さくトゲトゲしていて鼠色だ。
 
「結晶は全部回収しておくんだぞ」
「クエストは五匹だろ? 五つでいいんじゃないの?」
「結晶はギルドが買い取ってくれるだよ。たくさん持ち帰った方が、もらえる報酬が多くなる」
「へぇ~」

 討伐したウルフは全部で十一匹。
 六匹分はギルドが買い取ってくれるだろう。
 とは言え、ウルフの結晶は安い。
 単価600コルトくらいだったか。
 これがドラゴンとかなら、一つで立派な屋敷が建つくらいもらえるんだけどな。

「じゃあ戻ろうか。帰り道も気を付けていくぞ」
「はい!」
「うん」

 元気の良い返事はミルアだけ。
 ソフィアは頷いていた。
 ただ、小さな声でステラも返事はしていたようだ。
 少しはさっきの戦闘が頭に残っているのかな。

 帰り道は方位磁石を頼りに進む。
 俺は道を知っているけど、あえて何も言わずについていった。
 途中でトラップの一つを見つけてからは、来た道をたどりながら進む。
 そうして三十分。
 俺たちは無事に森の出入り口へたどり着いた。

 森に入ったのは昼前だったけど、気づけばすっかり夕方だ。
 西側の空がオレンジ色に光っている。
 時計を確認すると、午後五時を回ったところだった。

 街の中へ戻った俺たちは、そのままギルド会館へ足を運ぶ。
 道を歩いていると、他のパーティーの姿が目に入る。
 同じように冒険から戻った人たちだろう。
 皆が一緒の方向に向かって歩いている様子は、何度見ても感慨深いものを感じる。

「うわっ、何これ」
「すごい人だね」
「……暑苦しい」
「この時間は帰還のピークだからな。いつも大体こんなもんだぞ?」

 受付カウンターに冒険者が列を作っている。
 窓口は五つしかないから、一斉に戻ってくる時間は混雑を避けられない。
 ソフィアがぼそりと言ったように、見ているだけで暑苦しい光景だ。
 とは言え、報告をしなければ報酬はもらえない。
 俺たちも一番空いていそうな列に並ぶ。

 四十分後――

「お次でお待ちの方こちらへどうぞ」
「私たちだね」
「やっとか~」

 待ちわびたと表情で訴えるように、ミルアとステラが前に進む。
 俺とソフィアは後から続く。
 ミルアが受付嬢に採取した薬草と、回収したトラップ、討伐したウルフの結晶を順番に提示。
 依頼書と照らし合わせ、報酬を計算する。

「確認が終わりました。こちらが今回の報酬になります」

 木のトレイに報酬が置かれている。
 銅のコインが一枚で1コルク。
 銀のコインが100コルク、金のコインが1,000コルク。
 今回の報酬は、クエスト三つとウルフの結晶プラス分を合わせて約24,000コルクだった。

「三人で割ると、一人8,000コルクか。まぁ二日分の宿代にはなるだろ」
「三人? シオンさんは?」
「俺は数えなくて良い。アドバイザーとして雇われてるし、ギルドから報酬がもらえるから」

 たぶんだけどな。
 いいかげんアリアから金額を聞いておかないと。

 そんなことを考えていると、ステラが小さな声で呟くように言う。

「でも、ウルフ倒したのはおっさんだろ」

 これにも驚かされた。
 助けた時も思ったけど、やっぱり彼女は素直なんだろうと思う。
 俺は首を横に振る。

「お金は大事だからな。貰える物は貰う! 冒険者なら、それくらい狡猾であっても罰は当たらないさ」

 そんな感じに格好つけてみる。
 ミルアにも少しごねられたけど、渋々受け取ってもらえた。
 その後は、彼女たちからの誘いで一緒に夕食をとることになった。
 ギルド会館近くに、俺がよく行く居酒屋がある。
 普段は一人で行く場所だから、ロイたちも知らないはずだと選んだ。

「今さらだけど、君たちってお酒飲める年だよね?」
「はい。三人とも今年で十六歳です」

 思った以上にギリギリだった。
 成人は十五歳で、ソフィアに至っては誕生日前らしい。
 自分との年の差が倍もあると思うと、さすがに悲しくなるな。

「じゃあお酒は飲んだことある?」
「ありますよ。私はあんまり得意じゃないですけど」
「あたしは得意だぜ。小さい頃からこっそり飲んでたしな」

 そんな堂々と未成年の飲酒を告白されても……
 ソフィアにも聞こうとしたら、すでに一杯飲みほしていた。
 一番身体が小さくて弱そうなのに、お酒は強いみたいだ。

「あ、あのさ! おっさんに聞きたいことがあるんだけど」
「ん?」
「槍の特訓ってどんなのことしたんだ? あれだけ使えるようになるのって、どれくらいかかったの?」
「う~ん、最初は見様見真似だったかな。途中で腕の良い槍使いが知り合いに出来て、そいつに教えてもらったよ。まぁ生憎、俺には槍の才能はあんまりだったけど」
「あんまりって、あんなに強いのに?」
「使いこなすのに一年もかかったからな。それに強い奴はもっとうまく使える」
「そっか……」

 ステラはしょんぼりと顔を伏せる。
 俺は小さく息をはき、そんな彼女に言う。

「そういう点では、ステラは才能があるし、俺よりもっとうまく使えるよ」
「え、本当か?」
「ああ。ちゃんと練習すれば、だけどな」
「だ、だったらさ! おっさんが槍の使い方おしえてくれよ!」
「俺が?」

 ステラはこくりと頷いた。
 彼女はまっすぐ俺を見つめてくる。
 突然の申し出に、思わず俺も驚いてしまったけど……

「良いよ」

 彼女の表情から真剣さが伝わったから、俺はそう答えた。

「ほ、本当?」
「ああ。ただし、俺のことをおっさんじゃなくて、シオンと呼んでくれるなら」
「そんなのいくらでも呼ぶよ! シオン!」

 ステラは嬉しそうに俺の名前を呼んだ。
 呼び捨てなのは予想通り。
 彼女らしさを感じつつ、頼られるのも悪くないとか思ってしまう。
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