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12.付与術師

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 ウルフには種類が存在する。
 育った場所の気候や、外敵の種類によって様々で個性的。
 それら全てに共通する特性が『遠吠え』だ。
 ウルフは身の危険を感じると、甲高い声で鳴く。
 この遠吠えによって、周囲の群れに危険を知らせたり助けを呼ぶ。
 だから、ウルフと戦う場合は、時間をかけてはならない。
 時間をかけ、相手を不利な状況に追い込むほど……

「なっ――」
「ステラ!」

 あんな風に、援軍を呼び寄せてしまうから。

 ミルアたちはウルフを順調に倒していた。
 新米とは言え、ポテンシャルと実力は期待が持てる。
 だが、慢心が過ぎた。
 一匹になった時点で、有無を言わさず倒しておくべきだった。
 猶予を与えてしまったことで、ウルフは遠吠えで仲間を呼び寄せた。
 
「くそっ、こいつら!」

 残ったウルフに攻撃を仕掛けようとしたステラ。
 その横っ腹を、茂みから飛び出してきた別のウルフが襲った。
 咄嗟に身をよじって防御したようだが、衝撃で体勢を崩してしまう。
 そこへ問答無用にウルフは襲い掛かる。

 ミルアが助けに入ろうとする。
 しかし、彼女の前にも別の群れが姿を現し、道をふさいでしまった。
 どうやらさっきの遠吠えで、二つの群れを呼び寄せてしまったようだ。
 ミルアに三匹、ステラに四匹と生き残りの一匹。
 状況は一気に不利になる。

「フィー!」
「うん――ライトニングボルト」

 ミルアの声掛けに応え、ソフィアが魔法で援護する。
 道を塞いだウルフ目掛けて、雷撃を放った。
 これをウルフは軽々と躱す。
 ウルフは俊敏性と感知に優れたモンスターだ。
 不意打ちでもモタモタすれば、簡単に気づかれ避けられる。

 二人が足踏みする一方、ステラは頑張って交戦を続ける。
 一匹や二匹なら彼女一人で戦えたのだろう。
 それが今となっては五匹となり、完全に囲まれてしまっている。
 奮闘するが徐々に押され……

「しまっ――」

 ウルフの攻撃によって、ステラの槍が弾き飛ばされてしまう。
 武器をなくしたステラに、一匹のウルフが飛び掛かる。
 ミルアは道を阻むウルフと睨み合い、ソフィアの援護も間に合わない。
 助けは望めず、反撃する手段も失った。
 ステラは恐怖を感じてしまう。
 回避できたタイミングだったが、恐怖から足が動かなかった。
 そして、彼女は目を瞑る。

「――【自動反撃オートカウンター】」
 
 ステラの身体が素早く動き、身を伏せて噛みつきを回避。
 そのままウルフの腹部を蹴り上げ吹き飛ばす。

「えっ? 勝手に動いて……」

 戸惑うステラ。
 そんな彼女に容赦なく、他のウルフが迫ろうとしていた。
 俺はすでに駆け出していた。
 向かった先には、ステラが落とした槍がある。
 槍を足で引っ掛け、華麗にキャッチしてから、彼女の前に立つ。

「ったく、やっぱりこうなったか」

 ぼやきながら槍を回してウルフを迎撃する。
 そのまま前に出て、槍で突き刺し、薙ぎ払ってウルフを倒していく。
 尻もちをついたステラを守りながら、迫るウルフを全て倒し、続けてミルアのほうへ援護に向う。
 彼女も奮闘していたが、数に押され気味だった。
 そこへ駆けつけ、背後から薙ぎ払う。

「シオンさん!?」
「最後の一匹だ! 君が倒せ!」
「は、はい!」

 残った一匹は、俺の攻撃で怯んでいた。
 その隙を突いて、ミルアが剣を振るう。
 彼女の斬撃は見事ウルフの腹を切り裂き、どさりと倒れ込む。

「これで全部だな」
 
 周囲を感知しても、新たな群れの接近はない。
 一先ず戦闘は終わったようだ。
 俺は槍についたウルフの血を掃い、ぼーっと座ったままのステラに歩み寄る。

「大丈夫だったか?」
「……う、うん」
「ほら」

 俺はステラに手を差し伸べる。
 彼女は俺の手を掴み、重い腰を持ち上げた。

「あの……助けてくれてありがとう」
「えっ」
「な、何だよその顔!」
「あーいや、何でもない。どういたしまして」

 思わず驚いてしまった。
 ストレートに感謝を言われるなんて予想していなかったから。
 どうやら彼女は、思ったより素直な子らしい。
 
「ステラ!」
「え、ちょっ――」

 ミルアがステラに抱き着く。
 心配したのだろう。
 ミルアの瞳がうるんでいるのがわかった。

「大丈夫? けがはない?」
「へ、平気だって!」

 タジタジのステラを見て、思わず笑みがこぼれる。
 それを見てむすっとした彼女が、俺の持っている槍に気付く。

「おっさん、槍が使えたんだな」
「ん? ああ、一応これでも武器は一通り使えるぞ」
「でもさ、おっさんのジョブって」
「付与術師だ。さっき君にも付与しただろう?」

 自動反撃。
 付与された者は、咄嗟に対応できない攻撃に対して、身体が勝手に動くようになる。
 ただし、本人の身体能力によって反射速度はバラバラだ。

「付与術師って武器の扱いも得意なジョブなの?」
「いいや。付与術師に出来ることは、文字通り付与だけだ。武器の扱いは自分で特訓したんだよ」

 俺がそう答えると、ステラは不思議そうな顔をした。
 彼女の表情から、思っていることを察する。

「支援職なのに、なんで前衛職みたいなことしてるのかって?」
「うん」
「まぁ確かに、支援職の俺が前に出ることは基本的にはない。というか、支援職が前に出たりしたら地雷扱いされるしな。でも、支援職だったことが、戦えない理由にはならないんだよ」

 付与術師に、剣士や槍使いのような攻撃力はない。
 前衛で戦う機会なんて、ソロで活動していなかったらゼロに等しい。
 それでも、いざというときに戦えることは強みになる。
 現に今がそうだったように。
 だから俺は、知識と手段を身につけたんだ。
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