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1.大英雄は童貞でした
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かつて世界は混沌に満ちていた。
一度は輝かしい発展を遂げた大国も、一夜にしてその歴史に幕を下ろす。
全て邪悪の化身たる魔神の誕生が発端だった。
なぜ生まれたのか。
どこで生まれたのか。
どうして世界に、人々に牙を向いたのか。
理由も原因もわからない。
わからないままに村が消え、街が消え、国が消えていった。
魔神の誕生からわずか十年足らずで、人間の生活圏は大陸の一割を下回る。
人口も大幅に減少し、このままでは滅亡も免れない。
人々は絶望した。
もう駄目だと、誰もが思った。
そんな中、四人の英雄が立ち上がる。
黒髪の剣士は言った。
「臆することはない。我が剣に斬れぬものなどないのだから」
燃えるような赤い瞳の女性は言った。
「限りある命よ。足掻かないでどうするの?」
青い髪の優男は言った。
「僕たちはちっぽけだ。それでも、戦う術はもっているんだよ」
銀色の髪の青年は言った。
「なぁ、いつまで俯いているつもりだ?」
彼らは人の身でありながら魔神に挑んだ。
人々がさじを投げ、諦めてしまった強大な敵を打倒するために。
か弱き者たちを守るため。
人類の存続を、命溢れる未来を掴むために剣を抜き、拳を握った。
彼らはすさまじかった。
初陣と共に魔神を撃退し、最後の国を守り抜いた。
その後は魔神に奪われた土地を、隠れ住む人々を守るために旅に出る。
一日、一月、一年と歩みを止めることなく突き進み、ついには魔神からほぼ全ての土地を取り戻した。
そうして彼らは、最後の敵――魔神の元凶と相対した。
激闘の末、辛くも勝利を収めたことで、世界は真の平和を取り戻したのだ。
人々は歓喜に震えた。
二度と味わえない安然を手にして涙を流した。
皆が偉大なる四人の英雄の名を口にする。
【剣帝】アルセウス・イザード。
剣技に置いて、彼を越える者ははるか先の未来に渡って存在しないであろうと言われた大剣豪。
その人たちは天すら斬り裂く。
【神祖】ルイーナ・パラマイン。
吸血鬼として生まれた彼女は永遠の命を持つ。
妖艶で変わらぬ容姿は見る者すべてを魅了し、勝利の女神と崇め奉る。
【賢者】イクサシス・セイレイン。
形骸化していた魔術の基礎を再構築し、百を超える魔術を生み出した大天才。
彼がもたらした影響は戦いに留まらず、人々の生活を豊かに変えた。
そして――
【大帝】レオン・フォルトーゼ。
剣技、魔法、異能……すべてに愛され、選ばれた男。
あらゆる力を手に入れた英雄の中の英雄。
世界最強の称号がもっともふさわしいのは彼だと、誰もが言う。
英雄は等しく英雄である。
その偉大さに優劣をつけるなどおこがましい。
しかし、これも揺るがぬ事実だった。
四人の英雄の中で、彼がもっとも強く偉大な功績を成し遂げている。
彼らが魔神に打ち勝てたのも、【大帝】の存在が大きかった。
彼は強かった。
否、強すぎたのだ。
そんな彼の強さに人々が憧れ、目標にするのは当然のことだっただろう。
平和と活気を取り戻した世界で、大英雄の名は確かなものとなった。
彼は多くを手に入れた。
力も、富も、名声も。
望まなくとも手に入るほど身近にあった。
誰もが認める完璧な存在。
いいや、それは間違い……勘違いだ。
彼は完璧などではなかった。
多くを手に入れながら、全てを手に入れられたわけではなかった。
彼には一つ、大きな欠落があった。
それは生物としては致命的とも言える。
他の何を手に入れても、これがなければ格好がつかない。
男として恥ずべきことだとさえ言える。
そう……。
彼は生涯――
童貞だった。
◇◇◇
窓の隙間から差し込むのは朝日。
季節は冬から春に変わり、まだ少し肌寒さが残る。
布団にからまって眠っていた俺は、細い朝日を閉じた瞼に感じて目を覚ます。
「ぅ、うーん……ふぁーあ……もう朝か」
なんだか長い夢を見ていた気分だ。
魔神に滅ぼされかけた人類を救い、大英雄として称えられる。
荒唐無稽で、まるで物語の主人公のような人生。
そんな存在が自分だったなら……。
「なんて、本当にそうだから笑っちゃうよな」
こんなことを他人に言えば確実に笑われる。
いや、怒られるかもしれない。
世界を救った英雄は自分ですよ、なんて口にしたところで一体誰が信じてくれるのか。
頭のおかしい奴だと思われるのがおちだ。
だけど、事実なんだから仕方がない。
今から千年以上昔。
むかーし昔のお話、現代では英雄譚として語り継がれる始まりの時代。
俺はかつてレオン・フォルトーゼという男だった。
そして今は……レインという名の一般人である。
俺はレオンだった頃の記憶をもったまま現代に転生した。
もちろん偶然や天からの施しじゃない。
死ぬ直前に転生の術式を完成させたのは、何を隠そうこの俺なのだから。
俺は自らの意思で現代によみがえった。
力、富、名声……多くを手に入れた俺だけど、ひとつだけやり残したことがある。
それを達成しないと死んでも死にきれない。
他の全てを捨てでも手に入れたいとすら思う。
レオンとして現代に転生して十五年と半年。
俺は未だに……童貞である。
「はぁ……」
どうして俺はモテないんだ?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
新作第二弾投稿しました!
『用済み勇者、捨てられたのでスローライフな旅に出る ~勇者はやめても善行はやめられないみたいです~』
ページ下部にリンクがありますのでぜひ!
一度は輝かしい発展を遂げた大国も、一夜にしてその歴史に幕を下ろす。
全て邪悪の化身たる魔神の誕生が発端だった。
なぜ生まれたのか。
どこで生まれたのか。
どうして世界に、人々に牙を向いたのか。
理由も原因もわからない。
わからないままに村が消え、街が消え、国が消えていった。
魔神の誕生からわずか十年足らずで、人間の生活圏は大陸の一割を下回る。
人口も大幅に減少し、このままでは滅亡も免れない。
人々は絶望した。
もう駄目だと、誰もが思った。
そんな中、四人の英雄が立ち上がる。
黒髪の剣士は言った。
「臆することはない。我が剣に斬れぬものなどないのだから」
燃えるような赤い瞳の女性は言った。
「限りある命よ。足掻かないでどうするの?」
青い髪の優男は言った。
「僕たちはちっぽけだ。それでも、戦う術はもっているんだよ」
銀色の髪の青年は言った。
「なぁ、いつまで俯いているつもりだ?」
彼らは人の身でありながら魔神に挑んだ。
人々がさじを投げ、諦めてしまった強大な敵を打倒するために。
か弱き者たちを守るため。
人類の存続を、命溢れる未来を掴むために剣を抜き、拳を握った。
彼らはすさまじかった。
初陣と共に魔神を撃退し、最後の国を守り抜いた。
その後は魔神に奪われた土地を、隠れ住む人々を守るために旅に出る。
一日、一月、一年と歩みを止めることなく突き進み、ついには魔神からほぼ全ての土地を取り戻した。
そうして彼らは、最後の敵――魔神の元凶と相対した。
激闘の末、辛くも勝利を収めたことで、世界は真の平和を取り戻したのだ。
人々は歓喜に震えた。
二度と味わえない安然を手にして涙を流した。
皆が偉大なる四人の英雄の名を口にする。
【剣帝】アルセウス・イザード。
剣技に置いて、彼を越える者ははるか先の未来に渡って存在しないであろうと言われた大剣豪。
その人たちは天すら斬り裂く。
【神祖】ルイーナ・パラマイン。
吸血鬼として生まれた彼女は永遠の命を持つ。
妖艶で変わらぬ容姿は見る者すべてを魅了し、勝利の女神と崇め奉る。
【賢者】イクサシス・セイレイン。
形骸化していた魔術の基礎を再構築し、百を超える魔術を生み出した大天才。
彼がもたらした影響は戦いに留まらず、人々の生活を豊かに変えた。
そして――
【大帝】レオン・フォルトーゼ。
剣技、魔法、異能……すべてに愛され、選ばれた男。
あらゆる力を手に入れた英雄の中の英雄。
世界最強の称号がもっともふさわしいのは彼だと、誰もが言う。
英雄は等しく英雄である。
その偉大さに優劣をつけるなどおこがましい。
しかし、これも揺るがぬ事実だった。
四人の英雄の中で、彼がもっとも強く偉大な功績を成し遂げている。
彼らが魔神に打ち勝てたのも、【大帝】の存在が大きかった。
彼は強かった。
否、強すぎたのだ。
そんな彼の強さに人々が憧れ、目標にするのは当然のことだっただろう。
平和と活気を取り戻した世界で、大英雄の名は確かなものとなった。
彼は多くを手に入れた。
力も、富も、名声も。
望まなくとも手に入るほど身近にあった。
誰もが認める完璧な存在。
いいや、それは間違い……勘違いだ。
彼は完璧などではなかった。
多くを手に入れながら、全てを手に入れられたわけではなかった。
彼には一つ、大きな欠落があった。
それは生物としては致命的とも言える。
他の何を手に入れても、これがなければ格好がつかない。
男として恥ずべきことだとさえ言える。
そう……。
彼は生涯――
童貞だった。
◇◇◇
窓の隙間から差し込むのは朝日。
季節は冬から春に変わり、まだ少し肌寒さが残る。
布団にからまって眠っていた俺は、細い朝日を閉じた瞼に感じて目を覚ます。
「ぅ、うーん……ふぁーあ……もう朝か」
なんだか長い夢を見ていた気分だ。
魔神に滅ぼされかけた人類を救い、大英雄として称えられる。
荒唐無稽で、まるで物語の主人公のような人生。
そんな存在が自分だったなら……。
「なんて、本当にそうだから笑っちゃうよな」
こんなことを他人に言えば確実に笑われる。
いや、怒られるかもしれない。
世界を救った英雄は自分ですよ、なんて口にしたところで一体誰が信じてくれるのか。
頭のおかしい奴だと思われるのがおちだ。
だけど、事実なんだから仕方がない。
今から千年以上昔。
むかーし昔のお話、現代では英雄譚として語り継がれる始まりの時代。
俺はかつてレオン・フォルトーゼという男だった。
そして今は……レインという名の一般人である。
俺はレオンだった頃の記憶をもったまま現代に転生した。
もちろん偶然や天からの施しじゃない。
死ぬ直前に転生の術式を完成させたのは、何を隠そうこの俺なのだから。
俺は自らの意思で現代によみがえった。
力、富、名声……多くを手に入れた俺だけど、ひとつだけやり残したことがある。
それを達成しないと死んでも死にきれない。
他の全てを捨てでも手に入れたいとすら思う。
レオンとして現代に転生して十五年と半年。
俺は未だに……童貞である。
「はぁ……」
どうして俺はモテないんだ?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
新作第二弾投稿しました!
『用済み勇者、捨てられたのでスローライフな旅に出る ~勇者はやめても善行はやめられないみたいです~』
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