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 神様はいつも、私たちのことを見守っている。
 空から?
 違う。
 私の目と耳、感覚は神様にも共有される。
 聖女とは神様の代行者であり、人々と神様を繋げるための依代でもある。
 
 主よ、見ていますか?
 ここに、心から雨を望む者たちがいます。
 その理由は決して卑しいものではなく、生きるために必要だからです。
 だからどうか、お力を貸してください。

「皆さんをここに集めてくださいませんか? 一緒に祈ってほしいのです」
「わかった。すぐに声をかけよう」
「私もお手伝いします」
「ありがとうございます」

 私一人の願いでは足りない。
 皆の力も必要だ。
 本当に雨を望んでいるのは、私ではなく彼らだろう。
 アクト様とシオンが人々に声をかけて、働いていた人たちが集まってくる。
 近くで見るとやっぱり、お年寄りが多かった。
 集まってくれた人々が、私を見つけて首を傾げる。

「聖女様? こんなところに、どうされたのです?」
「お仕事中にすみません。どうか、皆様のお力を貸していただきたいのです」
「はぁ? 何をすればよろしいのです?」
「私と共に、祈りを捧げてほしいのです。雨が降るように」
「雨が……」

 人々の驚きが広がって、彼らは互いの顔を見て確かめる。
 捕捉するように、アクト様が説明する。

「皆、彼女と一緒に祈ってほしい。もしかしたら……奇跡が起こせるかもしれない。そのためには、皆の協力が必要なんだ」
「アクト陛下……雨が降るのですか?」
「わからない。ただ、俺は彼女を信じたい。彼女ができると思ったなら、俺も一緒に祈ろうと思う。雨が降ってほしい。その気持ちは、皆も同じだろう?」
「ええ、もちろんです。雨が降らないことには、いくら耕し種をまいても……」
「ああ、そうだな。皆の頑張りが報われてほしい。その気持ちも一緒に、祈ろう」

 アクト様が胸の前で手を合わせる。
 それをまねるように、集まった人たちも胸の前で手を組み、中には膝を突いて天に希うような姿勢をとる人もいた。
 すでに伝わってくる。
 彼らの想いが、本気の祈りが。

「ありがとうございます」

 私も祈ろう。
 彼ら彼女らの祈りが伝わるように。

「主よ、ここに願いを、雨を求める者たちがいます。彼らの願いを、どうかお聞きください」

 私は願い、天を見上げる。
 神様は天にいるイメージがあるから、より正確に神様を感じるために、上を見上げているだけだ。
 実際は私の中に、聖女の力が神様と繋がっている。
 呼びかけるんだ。
 私の眼を通して、神様は見てくれている。
 苦しんでいる人がいることを。
 貧しさに負けず、必死に生きようとしている人が、ここにいることを。

「どうか……雨を……」
「神様……」

 人々の祈りが、私の中に流れ込んでくる。
 伝わっているはずだ。
 届いているはずだ。
 けれど……。

「……」

 奇跡が起こらない。
 まだ足りないのだろうか?
 これだけ祈っているのに、苦しんでいるのに、主には響かないのだろうか?
 あるいは世界に働きかけるような現象だから、奇跡を起こすだけの力が足りないのかもしれない。
 
 できないのか?
 私には、彼らを助けることが……。

「主よ……」

 悔しい。
 悔しくて、涙がにじむ。
 こんなにも悔しいのは、生まれて初めてかもしれない。
 本心から彼らの力になりたいのに、何もできない無力さを味わう。
 
「イリアス……」
「申し訳ありません。私は……」
「――まだだ。もっと祈ろう。届くはずだ。俺たちの想いが」
「アクト様……」

 私の手に、アクト様が手を重ねた。
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