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「凄いですね」
「え? 何がですか?」

 私と一緒に人々の悩みを聞いてくれていたシオンがぼそりと呟いた。

「先ほどから隣で見ていましたが、どんな相談事にも困ることなくお答えされていて、今の方の相談内容もそうですが、まるでお医者様のようでした」
「お医者様ほど、立派なお話はできませんでしたよ」
「いえ、十分に素晴らしいお話でした。イリアス様は医学にも精通されているのですね」
「ただ少し知識があるだけです。本職のお医者様と比べたら、私の知識なんて大したことはありませんよ」

 すべてはノーマン家で受けた教育の成果だ。
 貴族として高貴であれ。
 聖女として完璧であれ。
 そのために必要な能力、知識を身に付けるために毎日勉強した。
 医学分野もそのうちの一つだった。
 傷や病気を聖女の祈りで治療するには、その病気がどんな症状なのか。
 どういう病気なのかがわかっているほうが、祈りの内容が正確になり、神様に伝わりやすい。
 漠然と回復してほしいと願うより、この病気だから治ってほしい。
 そう願うほうが、奇跡が起こりやすかった。
 大聖堂に訪れる人は、病気や怪我、体調不良で困っている人が圧倒的に多かった。
 より正確に祈りを捧げるためには、医学の知識は不可欠だった。

「私にできるのは、お医者様の代わりだけです」
「それが素晴らしいことだと、私は思います。イリアス様がいてくださるという安心感が、国民の身体を軽くしてくれるでしょう」
「そうなってほしいですね」

 それが理想だ。
 まずは安心してもらいたい。
 私がここにいることで、苦しみや恐怖におびえる日々が、少しでも希望に満ちるように。

「あの、私も相談してもよろしいでしょうか?」
「はい。どうされましたか?」

 次の相談者の声を聞く。
 街に出てから二時間ほど経過して、集まっていた人々も少しずつ散っていく。
 集まったはいいが、一歩を踏み出せずに相談せず帰ってしまった人も大勢いたようだ。
 まだまだ馴染むには時間がかかりそうではある。
 人が減ったことを確認してから、私はシオンと一緒に場所を移す。
 商店街、住宅街を通り抜けた先にあったのは、大きな畑だった。

「ここが国内最大の農地です」

 と、シオンが立ち止まって説明してくれた。
 スローレン王国は土地が少なく、畑にできるような質の土がある場所も限られていた。
 だから王都の敷地内の一部を畑として利用しているらしい。
 今も大勢の人が、畑を耕すために鍬を振っている。
 皆が汗を流しながら働く姿を見て、何かできることはないかと模索していると……。

「……? あれは……」
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