偽者に奪われた聖女の地位、なんとしても取り返さ……なくていっか! ~奪ってくれてありがとう。これから私は自由に生きます~

日之影ソラ

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 第二十七代国王、ラクスド・スローレン。
 アクトール殿下のお父様であり、現国王である彼の容体が急変したのは、王妃が病で急死された年からだったという。
 身体は丈夫なほうで、これまで大きな怪我や病気もなかった国王陛下は、大切な妻の死をきっかけに精神的不安を抱え、それが体調にも影響した。
 不眠、頭痛、胃痛、吐き気といったストレス症状に始まり、熱発や神経症状、倦怠感も発生するようになった。
 流行病にもかかり、体調が回復しないまま、ベッドで一日を過ごすことが多くなる。

 そして……。

「今も父上は、複数の病と闘っているんだ」
「……」

 国王陛下の自室に案内されている途中、殿下は悔しそうな表情で私にそう言った。
 苦しんでいるのに、自分には何もできないことが悔しい。
 国民に対してそう言っていた彼は、病と闘う父親のことも同時に思い浮かべていたのだろう。
 殿下は唇を噛みしめ、続ける。 

「うちには医者もいない。数年前までいてくれたが、彼も高齢だったからな。自身も病にかかり立ち行かなくなって、そのまま亡くなられてしまった」
「それ以降は、どうされていたのですか?」
「他国の医者を雇って、定期的に見てもらっているよ。ただ、その医者が言うには、あまりに多くの病を併発していて、手の施しようがないそうだ」
「それは……」

 医者はこう言ったらしい。
 この状態でまだ生きていられることが不思議でならない。
 国王としての意地、責任のなせる奇跡だ。
 とはいえ、回復の見込みはない。
 あとは緩やかに死を待つだけだ、と。

「魔法にも頼ったよ。医学で無理なら、それ以外の方法も試した。だが、そのどれも上手くいかなかった。魔法の治療も万能じゃない。傷の治癒や解毒はできても、複雑な病を治すことは難しい。わかってはいたんだけどね」
「殿下……」
「藁にもすがる思いだったよ」

 話をしている間、殿下はずっと悔しそうだった。
 手は尽くした。
 考えられるすべての方法を試した結果が今なのだとしたら、もはや諦めるしかない。

「そんな時、君を見つけた。奇跡……いいや、運命だと思ったよ。神様が俺たちに、チャンスをくれたんじゃないかって」

 殿下はそう言って、私を見て微笑む。 
 医学も、薬学も、魔法学でも国王陛下は救えなかった。
 残る可能性は一つだけ。
 聖女が起こす奇跡だけが、たった一つ残された希望だった。

「大変な目に遭っていた君からしたら、迷惑な話かもしれないけどね」
「いいえ、私も運命だと思います」
「イリアス?」
「私の祈りを真に必要としている人の元に、神様が導いてくれたのかもしれません」

 神様はいつだって私たちを見ている。
 私を導いてくれる。
 ならばこの出会いも、悲しい出来事も含めて、運命だったのだろう。
 だとしたら私は……。

「到着しました。こちらです」

 先頭を歩いていたジンさんとシオンさんが立ち止まる。
 眼前には扉があった。
 他の部屋よりもちょっぴり豪華な装飾が施された扉をノックする。
 返事はなかった。
 数秒待って、殿下が声をかける。

「父上、入ります」

 ガチャリと扉を開け、中に入った。
 大きなベッドの上で、白い髭を生やした男性が眠っている。
 この方が国王陛下……。

「殿下、陛下のご年齢は?」
「今年で五十五歳だ」
「五十五歳……」

 見えない。
 シワの数、肌の質感、手足はやせ細り、呼吸も弱々しい。
 外見だけなら七十歳以上に見える。
 とてもじゃないが、五十代の男性には見えなかった。
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