17 / 35
7-2
しおりを挟む
「お待たせ。つれてきたぞ」
「失礼します。お呼びですか? アクト様」
「ああ、紹介するよ。彼女がシオンだ」
現れたのは黒髪にメイド服を着た小柄な女性だった。
身長は私よりも低く、少し幼さが感じられる容姿で、一言で表現するなら……お人形のようだ。
視線が合う。
「あなたがイリアス様ですね」
「――!」
彼女も私のことを知っている?
「来る途中に軽く説明はしておいたぞ」
「助かるよ。何度も説明すると、イリアスにも迷惑だからな」
「いえ、そんなことは……初めまして、シオンさん。イリアスです」
「はい、初めまして。アクト様の専属メイドを任されております、シオンです」
「専属とはしているが、彼女には王城内での仕事の大半を任せているんだ」
殿下が補足説明をしてくれた。
メイドのシオン。
彼女も二人と同じ幼馴染であり、幼い頃から王族に仕える使用人の一族として教育を受けている。
年齢は二人よりも年下で、今年に十九歳になったばかりらしい。
私よりも一つ年下だった。
「シオン、君にはしばらく、彼女の補佐をお願いしたいんだ。頼めるか?」
「かしこまりました」
「ありがとう。シオンが一緒なら俺も安心だ」
「俺たちはずっと一緒にいられるわけじゃないからな」
と、ジンさんが肩の力を抜いて呟いた。
二人とも忙しい立場にある。
第一王子とその補佐なら、本来であればこうして暢気に話している時間すら勿体ないだろう。
私のために時間を作ってくれていると思うと、改めて申し訳ない気分だ。
「ありがとうございます。私のためにここまでして頂いて」
「まだ何もしていないぞ? むしろ俺たちのほうが貰うものが多い。聖女が来てくれたというだけで、安心感が違うからな」
「だよな。ちょうど時期的にもあれが流行るし、聖女がいてくれたら国民も安心するだろ」
「ああ、それに……」
唐突に、殿下が暗い表情を見せる。
その表情にジンさんが気づき、合わせるように言う。
「アクト、せっかく聖女の彼女がいるんだ。相談してみたらどうだ?」
「私もそう思います」
「ああ、そのつもりではいるよ」
「……?」
よく見ると、三人とも暗い表情をしていた。
何か悩みを抱えているのだろう。
それも個人ではなく、三人に共通する悩みがあると予想した。
殿下は真剣な表情で私を見る。
「イリアス、聖女として活動してもらうのは明日以降になる。だがその前に一人、君の力で見てほしい人がいるんだ」
「はい。構いませんが、どなたですか?」
この三人の誰か?
見るからに三人とも健康体で、どこも悪いようには見えないけど……。
殿下は言いづらそうに拳に力を込める。
「……俺の父だ」
「――! 殿下のお父様……」
つまり、スローレン王国の現国王。
殿下やジンさん、シオンさんの表情から読み取れるのは、不安と悲しみ。
「何かあったのですか? 国王陛下に」
「……ああ、父上は……病気なんだ。ずっと前から体調を崩している」
「そう……だったのですね」
知らなかった。
隣国の事情だから当然かもしれないが、仮にも国王が病に倒れていることを。
「案内しよう。話は歩きながらで構わないか?」
「はい。行きましょう」
こうして私たちは、国王陛下の部屋に向かって歩き出した。
「失礼します。お呼びですか? アクト様」
「ああ、紹介するよ。彼女がシオンだ」
現れたのは黒髪にメイド服を着た小柄な女性だった。
身長は私よりも低く、少し幼さが感じられる容姿で、一言で表現するなら……お人形のようだ。
視線が合う。
「あなたがイリアス様ですね」
「――!」
彼女も私のことを知っている?
「来る途中に軽く説明はしておいたぞ」
「助かるよ。何度も説明すると、イリアスにも迷惑だからな」
「いえ、そんなことは……初めまして、シオンさん。イリアスです」
「はい、初めまして。アクト様の専属メイドを任されております、シオンです」
「専属とはしているが、彼女には王城内での仕事の大半を任せているんだ」
殿下が補足説明をしてくれた。
メイドのシオン。
彼女も二人と同じ幼馴染であり、幼い頃から王族に仕える使用人の一族として教育を受けている。
年齢は二人よりも年下で、今年に十九歳になったばかりらしい。
私よりも一つ年下だった。
「シオン、君にはしばらく、彼女の補佐をお願いしたいんだ。頼めるか?」
「かしこまりました」
「ありがとう。シオンが一緒なら俺も安心だ」
「俺たちはずっと一緒にいられるわけじゃないからな」
と、ジンさんが肩の力を抜いて呟いた。
二人とも忙しい立場にある。
第一王子とその補佐なら、本来であればこうして暢気に話している時間すら勿体ないだろう。
私のために時間を作ってくれていると思うと、改めて申し訳ない気分だ。
「ありがとうございます。私のためにここまでして頂いて」
「まだ何もしていないぞ? むしろ俺たちのほうが貰うものが多い。聖女が来てくれたというだけで、安心感が違うからな」
「だよな。ちょうど時期的にもあれが流行るし、聖女がいてくれたら国民も安心するだろ」
「ああ、それに……」
唐突に、殿下が暗い表情を見せる。
その表情にジンさんが気づき、合わせるように言う。
「アクト、せっかく聖女の彼女がいるんだ。相談してみたらどうだ?」
「私もそう思います」
「ああ、そのつもりではいるよ」
「……?」
よく見ると、三人とも暗い表情をしていた。
何か悩みを抱えているのだろう。
それも個人ではなく、三人に共通する悩みがあると予想した。
殿下は真剣な表情で私を見る。
「イリアス、聖女として活動してもらうのは明日以降になる。だがその前に一人、君の力で見てほしい人がいるんだ」
「はい。構いませんが、どなたですか?」
この三人の誰か?
見るからに三人とも健康体で、どこも悪いようには見えないけど……。
殿下は言いづらそうに拳に力を込める。
「……俺の父だ」
「――! 殿下のお父様……」
つまり、スローレン王国の現国王。
殿下やジンさん、シオンさんの表情から読み取れるのは、不安と悲しみ。
「何かあったのですか? 国王陛下に」
「……ああ、父上は……病気なんだ。ずっと前から体調を崩している」
「そう……だったのですね」
知らなかった。
隣国の事情だから当然かもしれないが、仮にも国王が病に倒れていることを。
「案内しよう。話は歩きながらで構わないか?」
「はい。行きましょう」
こうして私たちは、国王陛下の部屋に向かって歩き出した。
33
お気に入りに追加
2,223
あなたにおすすめの小説
お姉様に押し付けられて代わりに聖女の仕事をする事になりました
花見 有
恋愛
聖女である姉へレーナは毎日祈りを捧げる聖女の仕事に飽きて失踪してしまった。置き手紙には妹のアメリアが代わりに祈るように書いてある。アメリアは仕方なく聖女の仕事をする事になった。
この婚約破棄は、神に誓いますの
編端みどり
恋愛
隣国のスーパーウーマン、エミリー様がいきなり婚約破棄された!
やばいやばい!!
エミリー様の扇子がっ!!
怒らせたらこの国終わるって!
なんとかお怒りを鎮めたいモブ令嬢視点でお送りします。
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
私に聖女は荷が重いようなので田舎に帰らせてもらいます。
木山楽斗
恋愛
聖女であるアフィーリは、第三王子であり婚約者でもあり上司でもあるドルマールからの無茶な要求に辟易としていた。
傲慢な性格である彼は自分が評価されるために利益を得ることに躍起になり、部下のことなど考慮しない人物だったのだ。
積み重なった無茶な要求に、アフィーリは限界を感じていた。それをドルマールに伝えても、彼は怒鳴るだけだった。
「申し訳ありません。私に聖女は荷が重いようですから、誰か別の方をお探しください。私は田舎に帰らせてもらいます」
遂に限界を迎えたアフィーリはドルマールにそう告げて聖女をやめた。
初めは彼女を嘲笑うドルマールだったが、彼は程なくして理解することになった。アフィーリという人材がどれだけ重要だったかということを。
孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます
天宮有
恋愛
聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。
それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。
公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。
島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。
その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。
私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。
虐げられた第一王女は隣国王室の至宝となる
珊瑚
恋愛
王族女性に聖なる力を持って産まれる者がいるイングステン王国。『聖女』と呼ばれるその王族女性は、『神獣』を操る事が出来るという。生まれた時から可愛がられる双子の妹とは違い、忌み嫌われてきた王女・セレナが追放された先は隣国・アバーヴェルド帝国。そこで彼女は才能を開花させ、大切に庇護される。一方、セレナを追放した後のイングステン王国では国土が荒れ始めて……
ゆっくり更新になるかと思います。
ですが、最後までプロットを完成させておりますので意地でも完結させますのでそこについては御安心下さいm(_ _)m
【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました
冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。
代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。
クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。
それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。
そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。
幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。
さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。
絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。
そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。
エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる